第一印象×100。 | ヴァージニア日記

ヴァージニア日記

毎日の生活で感じたことを記します。

第一印象は侮れない。終わりよければ全て良しだけど、最初が肝心でもある。就職試験の面接ではこの第一印象こそがものを言う。どんな人物であろうと、いかに最初に良い印象を面接官に与えるかでその人が判断されるからそれは大変だ。そして、その印象は良い印象にせよ、悪い印象にせよ、訂正するのに結構時間がかかる。「へぇ、こんな人だとは思っていなかった。」なんて言われるには、それなりの付き合いを経る必要があるのだ。

今日はいつもよりも気合の入れた夕食にすると決めていた。お昼ご飯をすませた私は、焦る気持ちを押さえ切れずにそそくさと再びキッチンに立ちエプロンを首にかける。新たなお料理に挑戦するこんな気合の入った日には、久しぶりに歌つきの音楽でもかけてさらに自分を鼓舞してみようか。最近ずーっと歌無し音楽でリラックスムードだったから。そして、埃をかぶったCD達が並んでいる本棚の前に私は仁王立ちし、どれにしようかと見定める。何か一緒に歌えるもの。。。。「よしっ!きみを選んであげよう!」そうして、私が手に取ったのは、結局いつもの槙原敬之だった。小さなCDラジカセにCDをセットしプレイ。始まった。始まった。「抱えた苦しみは誰のせいと~、人をひどく責める的外れを~、、」そんなマッキ-の歌にあわせて、私も大きな声で包丁を握りながら口を動かす。

ところが、私の気持ちは予定と反してどんどん萎えていく。どうしたのだろうか?やる気作る気満々だった私は、何だかしんみりとした気持ちになっていく。タイムスリップ。ここはオースティン、私はバスの中。学校の帰り、窓の外を流れる景色をぼーっと見ている。忙しい一日のうちの唯一のくつろぎタイムのバスの中。疲れを癒すかのように音楽に耳を傾けるバスの中。重たいピンクのカート付きリュックはいつものように足元に置いてある。手にはノートを持ち、ふとした時に暗記できるように私はスタンバイしている。

3年前、節約生活をしていた哲におねだりして買ってもらったピンクのCDウォークマン。そして、私の誕生日に美佐ちゃんが買ってくれたCD。このセットをリュックの外ポケットに入れ、毎日学校に通っていた私は、一体何度繰り返し繰り返しこの歌を聞いたことだろう。全てが思い出される。勉強を教えてあげたヴェトナム人友達トラムも、毎日のように質問しに行った生物学のドクターボスティックも、図書館も、数々の実験や試験も。私は今ヴァージニアにいるのに、包丁を持った私は、オースティンにいる。

大好きなマッキ-のこのCDの第一印象は、「やっぱりマッキ-っていいなぁ。」という気持ちとともに、このような様々な思い出ももれなく付けてくれた。100回は同じシチュエーションでこの歌を聴いただろう。第一印象×100。強敵だ。

第一印象。哲を初めて会った時のことを私は今でも鮮明に覚えている。会ったというよりは見たと言った方が正確かもしれない。入学直後、サークルに入ったばかりの私は、テニスの練習が始まる前に一体何をしたらいいのか分からずにコートサイドに友人と共にたたずんでいた。一つ上の先輩達は、練習前にクレーコートのライン引きをしていた。勝手の分からない新入生を不服に思ったのだろうか、ムスッとした顔で縄を足で踏み、ラインが引かれるのを待っている人がいた。上野先輩だった。後の哲だ。「なんて愛想のない人なんだろう。」

ところが、この第一印象を未だ私は鮮明に覚えてはいるものの、その第一印象はいつのまにか過去のものとなっていた。「ムスっとしているのが上野先輩ではない」ということが分かるには、それ程時間はかからなかった。でも、時間はかからなかったけれど、その短い間に、第一印象を上回る印象をもらい、一緒に楽しい時を過ごすことが必要だった。

私の大好きなマッキ-のCD。オースティン時代が辛かったのではない。大好きだった。勉強も学校も頑張っている自分も。でも、自分に無理をしていたあの時だったから、今、自分に無理をせずに自然に生きたいと思っている私には向いていない。このCDにはもれなく自分に無理をしている私がついてくる。でも、そうしたら、いつまで経っても、このCDはこのCDのまんまだ。埃をかぶって、いつまでたっても、オースティンの時代を呼び起こす音楽のまんまだ。哲が悪い第一印象をまんまと塗り替えることができたように、このCDだって出来るはず。でも、一体、あと何度きいたら、ルンルンとお料理に勤しんでいる「今」の自然体の私の印象に置き変えることができるのだろうか?

とりあえず、今日が一日目。あと何回楽しくお料理をしたらいいのかな。よーし、今のHAPPIESTなこの瞬間を思い出させてくれる楽しいCDにしてあげるよぉ!明日は何を作ろうかなぁ。

第一印象×100回<これからの楽しい経験×何回?