「最近、平日のお客さん減ったよ」
出入りの業者の小太りの彼に、こんな会話をした。
梅雨曇りの7月に入り、客足が減って心配している店主。
猫カフェを始めて、初めての夏を迎える前に
雲行きが怪しい事に気づいてそう冗談交じりに言ってみた。
彼はこの地域の飲食店の配送を担当している。
体型から察するに汗をかき易い体質なのか、
タオルで何度も顔をぬぐう彼は、涼しい風(ふう)な顔でこういった。
彼:「どこも客が減ってるっていってますよ」
主:「へ~、そうなの?」
彼:「ええ、こう暑いと外に出たがらないんじゃないですかね?」
彼:「お客さん、どこいっちゃったんでしょうね~?」
彼:「今、雨降ってきたんで家から出たがらないかもしれませんね」
雲行きが怪しいのはうちの店であって、
雨が降ってきたからお客が来ないわけでなく、
彼が必死にタオルで拭うのは汗でなく雨・・・。
彼の体型から出やすいと勝手に思い込んでた汗は、実は雨・・・。
なるほど。
わだかまりが解けた店主は、
小太りな彼のキラキラした頭の上に七色の虹を見て
神か釈迦の訓示だと思い込んでしまったのである。
「へ~、そうなんだ。じゃあそんなに心配する事ないね?」
「だと思います。」
ドアを開けて帰る彼の頭上には、後光も虹もなかったが、
彼に対する見方は来た時と帰る時では、
まったく違ったモノになっていた。
汗を何度も拭う丸刈頭が眩しい小太りな彼が、
お釈迦様に見えた瞬間だった。
お・わ・り