静的ストレッチの有害性/ストレッチは怪我予防にならない/研究論文2つ | 股関節が硬い 徹底究明!中村考宏の超スムーズ股関節回転講座

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骨盤後傾から骨盤をおこし股関節を超なめらかに。体幹と四肢を連動させ動きの質を追及する。運動とは人の重心が移動することである。運動を成立させるべく構造動作理論(Anatomical Activity)に基づくトレーニング方法と身体観察について綴ります。

ストレッチの研究論文を2つ貼り付けました。
科学的根拠をお持ちの先生みえましたらご指導よろしくお願いいたします。
できれば、翻訳したものをお願いいたします。
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★Effects of stretching before and after exercising on muscle soreness and risk of injury: systematic review.
BMJ. 2002;325:468.

(インパクトファクター★★★★☆、研究対象人数★★★★★)
この論文はこれまでの8つの論文をまとめたレビューです。対象人数が最大のものは17~35歳の兵役でのトレーニング生1,538人、同じく1,093人のものが含まれています。
調査では毎日のトレーニング前後に5~10分の準備運動(ストレッチング)をする群としない群に分け、80日間のトレーニング期間の筋肉痛、ケガの状態が評価されました。
筋肉痛は0から10までの11段階で評価されました。ケガは捻挫、疲労骨折、骨膜炎、アキレス腱炎、前脛骨区画症候群(前脛骨筋、長指伸筋、長母指伸筋とそれぞれの筋膜および前脛骨区画に関与する神経と血管に、何らかの原因によって障害が生じ、そのために組織内圧が亢進し、前脛骨区画内の循環系に不全が起こり、筋・腱・神経組織に機能障害や壊死が生じるものである)を対象とされました。
結果は、筋肉痛のスコアは両群で同じでした。上の図は80日間のトレーニング期間にケガをしなかった者の割合で、赤は1998年の調査でのストレッチング施行群、青は非施行群、水色は2000年の調査でのストレッチング施行群、オレンジは非施行群です。1998年、2000年の調査とも両群でケガが起きる割合は同じでした。他の6つの調査でもほぼ同様の結果がでています。
運動前に準備運動(ストレッチング)をしても筋肉痛やケガを防ぐことはできません。筋肉痛になるときはなる、ならないときはならない、ケガをするときはする、しないときはしないのです。
http://www.bmj.com/content/325/7362/468

★テニス選手のためのストレッチに関する最新情報常識を覆す静的ストレッチの最新情報です。
(文責:スポーツ科学情報部会 高橋)
Coaching & Sport Science Review - Issue 43, December 2007
テニス選手のためのストレッチに関する最新情報
<はじめに>
テニスは、大きな力やトルクの発揮をともなう中・高強度の運動が繰り返し必要とされるスポーツです(Kovacs、 Chandler、 & Chandler、 2007)。選手はこれらの大きな負荷にともなって生じる怪我を未然に防ぐために、練習や試合の前に時間をかけてウォーミングアップを実施します。従来から実施されているウォーミングアップは、主に、テニスで頻繁に使われる筋肉を中心に静的ストレッチするというものです。静的ストレッチは、パフォーマンスを改善したり怪我を予防したりするものとして、何10年にもわたって、指導現場で実施されてきました。1980年代と1990年代中頃の研究論文(Shellock & Prentice、 1985; Smith、 1994)では、静的ストレッチはウォーミングアップとして良い効果をもたらすことが報告されています。それゆえ、多くのコーチはスポーツ医・科学者のアドバイスに従って、選手に静的ストレッチを実施させていたのです。しかし、最近の研究ではウォーミングアップで静的ストレッチを行うと、実際には運動のパフォーマンスが低下することを報告しており、従来のアドバイスを修正していく必要性があることを示しています。
<パフォーマンス>
1960年代の研究論文(DeVries、 1963)では、ウォーミングアップで静的ストレッチを実施しても、その後の100ヤードダッシュの結果に改善がみられなかったことを報告しています。それにもかかわらず、テニスの指導現場では、未だにウォーミングアップで静的ストレッチを行うことが常識になっています。テニスの指導現場では、静的ストレッチはパフォーマンスを改善するもの、という考え方が常識となっています。しかし、実際には静的ストレッチは、筋力、スピード、パワーといったパフォーマンスを低下させるということが多くの研究結果から明らかになっています(Avela, Kyröläinen, & Komi, 1999; Cornwell, Nelson, Heise,& Sidaway, 2001; Cornwell, Nelson, & Sidaway, 2002; DeVries, 1963; Fletcher & Jones、 2004; Fowles, Sal.e, & MacDougal.l, 2000; Kokkonen, Nelson, & Cornwell, 1998; Nelson, Driscoll, Young, & Schexnayder, 2005; Nelson, Guillory, Cornwell, & Kokkonen, 2001a; Nelson & Kokkonen, 2001b; Young & Elliott, 2001; Young & Behm, 2003)。テニスは筋力、スピード、パワーを必要とするスポーツです(Kovacs, 2006a)。それゆえ、これらの研究結果とテニスのパフォーマンスは強く関係するものといえます。また、静的ストレッチを実施した後に、下肢筋パワーの指標とされるデプスジャンプを行うと、そのジャンプ高(Cornwell et al., 2001; Young et al., 2003)は有意に低下することがこれまでの研究(Cornwell et al., 2002; Young et al., 2001)から明らかになっています。さらに、静的ストレッチが筋力や筋パワーに及ぼす影響を検討した研究では、静的ストレッチを実施した後に、筋力や筋パワーが30%ほど低下したことを明らかにしています(Avela et al., 1999; Fletcher et al., 2004; Fowles et al., 2000; Kokkonen et al., 1998; Nelson et al., 2001a)。これらの研究結果はテニスコーチに対する大きな発見といえるでしょう。テニスコーチの役割は選手のパフォーマンスを向上させることにあります。コーチは選手に対して、練習や試合前に静的ストレッチを規則的に行わせているのであれば、選手は本来の70%程度の能力しか発揮することができないことになります。静的ストレッチを実施した後にみられるパフォーマンスの低下は、ストレッチの種類やストレッチをした後の活動様式に左右されるのかもしれません。また、静的ストレッチをした後のパフォーマンスの低下は、ストレッチをした後60分間持続するそうです(Fowles et al., 2000)。この結果は、毎日、毎週、毎月、あるいは年間の練習計画を作成する時に、コーチが認識しておかなければならない重要な情報といえます。また、身体の柔軟性が欠けている選手にとっては、静的ストレッチを行うことは重要と考えられます。
その場合には、上記の研究結果に基づいて練習や試合前の時間帯を避けて行う必要があるでしょう。静的ストレッチがパフォーマンスに及ぼす正あるいは負の効果は、関連する運動のスピードに左右されるのかもしれません。Knudsonら(2004)の研究によると、静的ストレッチをした後に高速での動きがなされる場合にはパフォーマンスの低下は見られないこと、テニス・サーブの場合、そのスピードや正確性のどちらのパフォーマンスにおいても静的ストレッチによる負の影響は見られないことを報告しています。そのため、静的ストレッチは高速での動きや正確性に関連する運動のパフォーマンスを低下させるものではないという見解を示しています。しかし、この理論は必ずしも支持されるものではありませんでした。それは、優れたスプリンターの静的ストレッチと20m走における疾走スピードとの関係性を検討した最近の研究から明らかとなっています。この研究によると、スプリント前に静的ストレッチを実施した場合、実施していない時よりも疾走スピードにおいて有意な低下がみられたことを報告しています(Nelson et al., 2005)。したがって、下肢、体幹、上肢の筋肉を含む複数の筋群を使うテニス・サーブのような動作において、そのパフォーマンスの減少量を定量化することは難しいといえるかもしれません。しかし、ウォーミングアップで静的ストレッチを行うことが、その後の筋力、スピード、パワーといった身体的能力を低下させるという事実は多くの研究結果から明らかです(Avela et al., 1999; Cornwell et al., 2001; Cornwell et al., 2002; DeVries, 1963; Evetovich, Nauman, Conley、 & Todd、 2003; Fletcher et al., 2004; Fowles et al.,2000; Kokkonen et al., 1998; Nelson et al., 2005; Wilson, Murphy, & Pryor, 1994; Young et al., 2001; Young et al., 2003)。これらの研究結果の多くは最近のものであり、コーチはこのような新たな知見をなかなか理解することができないかもしれません。そしてウォーミングアップとしての静的ストレッチは、テニスの指導現場においては常識となっているため、その常識を変えるには時間がかかるでしょう。しかし、スポーツ科学者、そしてコーチはともに、これらの分野において新たな知見をもたらすような最新の研究を受け入れられるように準備しておかなければなりません。
<傷害予防>
指導現場において、未だに練習や試合前のウォーミングアップで静的ストレッチを行っているのは、静的ストレッチがパフォーマンスを改善するもの、そして、怪我の危険性を減らすもの、という2つの誤った認識があるからです。後者の思い込みは、おそらく、筋や腱がタイトな状態にある場合、関節の可動域が狭くなっているという意味で柔軟性が欠如しているという判断に基づいているのかもしれません(Garrett, 1993; Hunter & Spriggs,2000)。このような思い込みが、静的ストレッチが怪我の危険性を減らすという考え方をもたらしているのです(Garrett, 1993)。しかし、最近の研究結果は、静的ストレッチが怪我の危険性を減らすという見解に異論を唱えるものであり、実際に反論を示しています(Comeau, 2002; Garrett,1993; Herbert & Gabriel, 2002; Hunter et al., 2000; Kovacs, 2006b; Levine, Lombardo, McNeeley & Anderson 1987; Pope, Herbert& Kirwan、 1998; Pope, Herbert, Kirwan& Graham, 2000; Shrier 1999, 2001, 2004; Shrier & Gossal., 2000; Yeung & Yeung 2001)。1538名の男子陸軍新兵における下肢傷害の予防に関する研究では、12週間、運動前に静的ストレッチを実施しても傷害の発生率に変化がみられなかったことを報告しています(Pope et al., 2000)。ランニング障害の予防に関する2001にも及ぶレビューを調査しても、その多くが運動前のストレッチは下肢障害を予防するという見解を支持するものではありませんでした(Yeung et al., 2001)。静的ストレッチと怪我の発生率の減少との関係性について、関係があることを示した研究はほんのわずかで(Bixler & Jones, 1992; Cross & Worrell,1999; Ekstrand & Gillquist,1983)、大部分の研究や総説では関係がないことを報告しています(Andersen, 2005; Garrett,1993; Herbert et al., 2002; Hunter et al., 2000; Levine et al.,1987; Shrier, 1999, 2001, 2004; Shrier et al., 2000; Yeung et al., 2001)。テニスで生じる怪我の要因は様々です。柔軟性は怪我の危険性を高めたり減らしたりする可能性のある1つの要因にしかすぎません(Kovacs,2006b)。また、疲労(van Mechelen, Hlobil, Kemper, Voorn& de Jongh, 1993)や運動量(Macera et al., 1989)は、オーバーユースにともなう筋損傷の素因として考えられています。静的ストレッチに関する研究は今後も実施していく必要がありますが、静的ストレッチの果たす役割はまだまだあるように思います。例えば、術後のリハビリに静的ストレッチを取り入れることで、通常の関節の可動域を獲得できるようになるでしょう。また、テニス選手の中には、肩関節の内旋動作に制限がみられることがあります(Kibler, Chandler, Livingston & Roetert, 1996)。このような症状を持つ選手には、やはり静的ストレッチが効果的といえるかもしれません。その場合には、近年の研究結果に基づいて、練習や試合前に静的ストレッチをすることは避けるべきでしょう。
<静的ストレッチの実用化>
練習や試合前のウォーミングアップで静的ストレッチを薦めたり、実施させたりすることは選手に害を与える
、ということをコーチは理解しておく必要があります。練習計画を作成する際には、以下の点を考慮する必要があります。
  • 練習や試合の1時間前に静的ストレッチをすることで、パフォーマンスが向上したり、怪我の危険性が減少したりすることはありません。しかし、筋の働きや関節可動域に制限がみられる場合には、パフォーマンスが低下したり、怪我の危険性が増えたりすることが考えられます。その場合には、柔軟性を確保する上で静的ストレッチを実施する必要があります。
  • テニス選手が静的ストレッチをする場合には、運動後もしくは夕方の時間帯に実施するのが好ましいでしょう。
  • 図1は従来の静的ストレッチ(ハムストリングと腰部周辺筋群)と同じ筋群に焦点をあてた動的ストレッチを示したものです。ウォーミングアップには、動的ストレッチを実施するのが望ましいでしょう。Coaching & Sport Science Review  [翻訳]日本テニス協会テクニカル・サイエンスサポート