第82回:自然エネルギー小売会社はサバイバルできるか?/高橋洋さん(2) | 全国ご当地エネルギーリポート!

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-エネ経会議・特派員:ノンフィクションライター高橋真樹が行くー

電力自由化の専門家、高橋洋さんへのインタビュー2回目は、日本政府の再エネ比率や自然エネルギーを活かした小売会社が生き残る方法についてお聞きしています。

※聞き手も高橋でややこしいため、私の方は下の名前(真樹)だけを使用しています。

◆今回のトピックス
・政府の目標値は低すぎる
・応援してもらうブランドづくり

◆政府の再エネ目標値は低すぎる

真樹:一般の人が気にしているのは、再エネで作った電気を買えるかということです。ドイツでは、「再エネ何%の電気です」といった電源表示が義務づけられ、消費者が選べるようになっています。日本では電源表示は「努力目標」とされたため、消費者にとってはわかりにくい制度になっています。このような現状からすると、再エネ事業が広がっていくのか心配です。

高橋洋:価格とは違う価値として、地域主体や再エネといった価値を重視して購入したいというニーズは確実にあります。しかし全体的に見ると、小売りだけでなく発電も含めて、再エネ事業をめぐる環境は厳しいと言わなければなりません。

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日本政府が掲げる2030年の電源構成(平成27年経済産業省「長期エネルギー需給見通し」より)

政府は2030年の電源構成の導入目標を掲げていますが、その中で再エネは2030年に22%から24%程度と設定されました。24%なら多いと思われる方もいるかもしれませんが、実はそのうち既存の大規模水力発電を9%含んでいます。

だから狭い意味での水力を含まない再エネ電源は、実質13%~15%しかないということになる。現状ですでに約3.5%ありますから、この目標値は結局「15年後までに10%程度なら増やしていいよ」というレベルの話だということになります。

再エネの内訳では、2030年に太陽光が7%、風力は1.7%などとなっています。太陽光も多くはありませんが、風力が1.7%という数字はあまりに低すぎる。「いったいどこの国の、いつの時代の目標なんだ」と言いたくなるくらい低く設定されています。

ダム式の水力を含めた再エネ全体の数字(22%から24%)で考えても、ドイツやデンマーク、スペインなどでは現在すでにその数字を上回っています。

ドイツは2014年時点で、水力4%を含む再エネで発電電力量の28%をまかなっています。そして2030年には、50%を目標に掲げている。それに比べて日本の目標値は、驚くべき低さと言わなければなりません。

その低い目標値に合わせて、FIT(再生可能エネルギー固定価格買取制度)のルールを見直していきましょう、という話になっています。2015年1月には、すでに電力会社が出力抑制(※)を無補償・無制限でできるようになりました。再エネの発電事業者からすれば、経営が見通せなくなったことで参入しにくくなっています。

真樹:新しい再エネの発電所作りが伸びなければ、小売会社が再エネ電力を調達するとこも難しくなり、一般の消費者が選べなくなるというスパイラルになってしまうのですね。


都留文科大学教授の高橋洋さん

※出力抑制
再エネによる電力が送電網(電力系統)に入る容量(原子力や水力を除いた空容量)を越えてしまうおそれがあるときに、電力会社が買い取りを中断すること。

2014年までは基本的には電力会社側に買い取り義務があり、どうしても必要な場合でも年間30日以上抑制する場合には補償が義務付けられていたが、それが無補償でできるようになったことで、再エネ発電所を設置するリスクが高まったとされている。


◆応援してもらうブランド作り

真樹:前回は地域をベースにした小売事業者が生き残る方法のヒントについてお聞きしましたが、同様に再エネにこだわる事業者にとっては、厳しい状況の中でどのような対策があるのでしょうか?

高橋洋:現状は厳しいとは言っても、短期間で全てが決まるわけではありません。長期的な視野に立ち、知恵を絞って対応していくことで活路が開けるでしょう。価格や電源表示だけでなく、電力小売り会社の価値として「その事業者なら信用できる」ということも選ぶ理由になります。

真樹:地域の電力会社を支持してもらうためにはファンをつくることと言われましたが、それと同じことですね。

高橋洋:そうです。自分の住んでいる自治体が電力小売をするから応援したいとか、生協の組合員だから生協から買うとかいうのも信用ですよね?始めは再エネ100%でなくとも、その事業者を応援して、いずれは再エネの比率を高めるようにとの意味を込めて選んでもらえるようになれば良いのではないでしょうか。

忘れてはならないのは、電力自由化は自由競争をもたらすということです。単に「良いことをしているのだから、誰か助けてください」というような姿勢では生き残ることはできません。

欧州の電力小売り会社はどこも、ブランドイメージを創ることにすごく気を使っています。ドイツの再エネ小売りの草分けであるグリーンピースエナジーもそうです。「我が社はすごくエコな会社です」というアピールをかなりやっている。

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各国の電力システム改革の状況。現状では、日本は先進国の中で最も遅れていると言える(製作、提供:高橋洋さん)

グリーンピースエナジーの電力は、平均的な電力料金よりも1割程度高いのですが、どこの発電所で作った再エネ電力を仕入れ、CO2をどれだけ減らし、放射性廃棄物も出していないといった情報を細かく出して、企業イメージを創ってきました。それが信用されているので、多少高くてもそこで買いたいという固定ファンができている。

もちろん電源表示を義務化することや再エネ何%をめざすというのは大事なことですが、人々が選ぶ価値というのはそれだけではありません。

再エネの電源がそもそも少なく、電源表示も義務化されていないという今の日本の状況を考えると、あまり再エネ100%の小売りにこだわるよりも、どうやったら地域や再エネに関心のある消費者から支持を得られるのか、という方法を考える方が近道なのではないでしょうか?

実際に、アメリカのテキサス州では契約した消費者の電力料金から一定割合の金額を積み立てて地域に投資している小売会社もあります。消費者にとってわかりやすい仕組みをつくって、電気料金だけではなくその会社自体を支持してもらうことが大事だと思っています。

※次回は、電力自由化を含む「電力システム改革」のカギを握る、「発送電分離」についてお聞きしています。

◆関連リンク
高橋洋さんが特任研究員を務める自然エネルギー財団のサイト




電力自由化は地域から始まる

高橋真樹著『ご当地電力はじめました!』
(岩波ジュニア新書)