第83回:改革のカギは発送電分離/高橋洋さん(3) | 全国ご当地エネルギーリポート!

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-エネ経会議・特派員:ノンフィクションライター高橋真樹が行くー

電力自由化の専門家、高橋洋さんへのインタビュー3回目は、再エネの変動に対する誤解や、「電力システム改革」のカギを握る送電システムについて伺いました。

※聞き手も高橋でややこしいため、私は下の名前(真樹)だけを使用しています。

◆今回のトピックス
・「再エネは変動するからやっかい」というのは間違い
・送電網は空港のように開放されるべき
・不十分だが、何も変わらないわけではない

◆「再エネは変動するから扱いづらい」というのは間違い

真樹:今回のテーマは発送電分離です。まずは再エネとの関連ですが、発送電分離がきちんと行われることによって、現状より増やすことができるとされています。ところが経産省は、再エネは変動が大きくて制御しにくい「やっかいな電源」だと位置づけているようです。以下の図にある再エネの変動イメージなどもその例ですね。その辺り、どのように考えればよいでしょうか?

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太陽光と風力は不安定で、火力発電の消費量は減らせるが、原発の代替にはならないということを示す経済産業省製作のイラスト(平成27年経済産業省「長期エネルギー需給見通し」より)

高橋洋:このイラストのようなことを言っている例は、世界中で日本以外では聞いたことがありません。欧州の実例では、再エネが増えてもこのようにギザギザにはなりません。1本の風車の出力だけをデータにすればこのようになりますが、実際には多数が重なるので、たいていその変化はなだらかになるものです(平滑化効果)。また、予測技術も年々進化しているので出力予測は十分に可能です。欧州の事例から言えば変動することが克服できない問題とは言えなくなってきています。変動に対応する技術を整備すれば再エネを活かすことはそれほど難しくありません。

経産省は、再エネは原子力の代わりにはならないし、再エネが代替するとしたら火力の電力でしかないと言っています。変動する再エネを動かすときに、火力発電の出力調整が不可欠になる。すると、再エネが増えることで火力発電の設備利用率が下がり、維持などで採算性が落ちるという判断をします。従って、日本全体の電源構成を考えると、再エネが増えても安定供給やコストに大きくは貢献しないという立場を取っているのです。

そのような考え方は、国際的には時代遅れです。一定の発電をし続ける「ベースロード電源」が一定割合必要というのは、すでに古い考え方になっています。欧州では、燃料費がゼロの変動型再エネが増えてきた結果、火力発電の出力調整だけでなく広域運用や電力貯蔵、需要側の調整を含めて、総合的にバランスを取る方法が一般的になっています。特にドイツやスペインでは20%や30%の変動電源が入って、そちらを優先的に動かすのが当たり前になっています。あえて言えば、再エネがベースロードになっているのです。

原子力のような昔ながらのベースロード電源が今後も必要で、日本では60%くらいないといけないとか、2030年までその状況が続くかのような話を前提に政策を決めていくのはおかしなことです。

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実際の自然エネルギーの変動量。複数の設備を集めれば変動はなだらかになる

◆ 送電網は空港のように開放されるべき

真樹:やり方を工夫すれば変動しても十分入れられるわけですね。ここは世界の常識になりつつありますが、日本社会では大きく誤解されている点なので重要です。さて、発送電分離の行方についてお聞きします。

2016年の小売自由化以上に私たちと電力の関わりを変える可能性があるのは、2020年に予定されている発送電分離です。一連の電力システム改革を考える上では、小売の方ばかりではなくこちらにも注目したいところですね。

高橋洋:確かに、電力システム改革がうまくいくかどうかは、独占されていた送電網をどれだけ中立で公平なものにできるかということにかかってきます。日本中に張り巡らされた送電網というネットワークインフラを、電力市場に参入したすべてのプレーヤーが同じ条件で使えるように開放するべきです。

私がよく使う喩えは、同じ公益事業である航空システムです。いま、日本航空が全国の空港を所有し、航空管制も行っているとしたらどうでしょうか?そこを使用するのが日本航空の飛行機だけであれば、独占であることでサービスの質や航空運賃の問題は出てきますが、運用上のトラブルは起こりにくくなります。

しかし独占ではなく、国内外の航空会社が多数参入してくるとどうなるでしょうか。日本航空は自らが運用する航空ネットワークインフラを競合他社に自由に使わせないようにしたり、自社便のみを優先的に離発着させたりということをするかもしれません。それではいくら日本航空以外の航空会社が参入したとしても、まったく公平な競争にはなりません。

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実際に航空管制でこのようなことが起こらない理由は、ネットワークインフラを日本航空が独占していないからです。航空事業者から切り離され、中立的な主体によって運営されています。

欧州の電力システムは、いまの航空管制の話と同じように発電や小売りから独立した送電会社が送電網を運用することで、公平性を確保しています。日本でもそうするべきですが、残念ながら今のところはそういう話になっていません。

◆不十分だが、何も変わらないわけではない

真樹:いまの航空管制のたとえ話は、送電網の中立性の大切さについて非常にわかりやすく実感できると思います。日本では東京電力管内だけは、2016年4月の電力小売り自由化と同時に発送電分離を行いますが、全国的には4年後の2020年ということになっています。しかも欧州のような完全に中立な機関が送電網を握るわけではないという状況です。そのあたりについて高橋さんはどうお考えでしょうか?

高橋洋:欧州の発送電分離の主流は、完全に大手電力会社と切り離すスタイル(所有権分離)ですが、日本で4年後に予定されている発送電分離は、持ち株会社制のスタイル(法的分離)です。

つまり一応別会社にはするけれども、関西電力管内は関西電力グループが送電網を握るということになります。東京電力だけは例外的に2016年4月からその法的分離を行ったのですが、私としては東京電力だけでなく全国的に今年からできるのではないかと発言してきました。しかし電力会社には「とんでもない、十分な準備期間が必要だ」と言われ、実際そのように進んでいます。

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都留文科大学教授の高橋洋さん

とはいえ、今後の4年間は何もしなくていいとか、法的分離では何も変わらないのかといえば、そうことではありません。電力システム改革の方向性は、「今までより透明性や公平性をしっかり担保していこう」ということではっきりしています。

例えば送電子会社が自分のグループ企業(既存の大手電力会社)に有利な運用をしていたり、公平性が疑われたりするようなことがあれば、電力取引監視等委員会が注意することはできるようになる。

所有権分離をしていないから、既存の電力会社が好き勝手にやっていいということではないんです。現在の発送電分離の段階は「会計分離」といって、送配電部門については会計を分けましょうという段階ですが、本来は会計分離の段階であっても「送電網を開放すること」が義務づけられています。

でも、それでは不十分だから法的分離をしましょうという流れになりました。だから法的分離が始まる前でも、電力取引監視等委員会が果たす役割はあるし、そこに期待したいと思っています。

では2020年以降の先はずっと法的分離で行くのかと言うと、必ずしもそうとは言い切れません。例えばいつまでたっても送電網が開放されなければ、強制的措置として欧州のように所有権分離に変更するということもあり得るでしょう。まだ運用が始まってみないとわからない点もあるので、あらゆる可能性はあると思います。

だから一般の方も4月から始まって競争が生じないから「やっぱりダメだ」と考えるのではなくて、長い目で関心を持ち続ける事が大事になってくると思います。

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自然エネルギー財団のイベントRevision2016にて、コーディネータを務める高橋洋さん(左、2016年3月9日東京にて)

先ほど言ったように、私は2013年の審議会の時から2016年にはすべての電力会社が法的分離をできるはずだと言ってきました。そして偶然にも東電だけ2016年から始めることになった。

だったら他の電力会社もどうして同じことができないのかという話になる。私としては今からでもいいから、他の電力会社も前倒しで発送電分離を行うよう政府が指導する、といったことがあっても良いと思っています。

※電力取引監視等委員会
経済産業省が設立した中立機関で、電力市場が公正なものになるよう監視すると共に、送電事業を監督する組織。


※次回(最終回)は、送電網を中立化するために電力会社から買い戻すという行動に出たドイツ・ハンブルクの市民の例から、電力事業のあり方を考えます。

◆関連リンク
高橋洋さんが特任研究員を務める自然エネルギー財団のサイト




電力自由化は地域から始まる

高橋真樹著『ご当地電力はじめました!』
(岩波ジュニア新書)