曽我蕭白の「石橋図」 | 【 未開の森林 】

曽我蕭白の「石橋図」

【 未開の森林 】

江戸時代の絵師、曽我蕭白(そが・しょうはく)が、1779年に描いた作品「石橋図」です。無数の小さな獅子が川を飛び越え、危険極まりない断崖の岩壁を駆け上がり、親らしき獅子が子供たちを不安そうに見守っています。この作品は、日本文化に惚れ込んだアメリカのメアリー・バーク夫人が半生をかけて収集した美術コレクションの一部として、数年前に東京美術館の展覧会で公表されました。

【 未開の森林 】

【 未開の森林 】

【 未開の森林 】

それぞれ個性的な表情や体位で描かれた獅子の子供たちは、画家によって一匹づつ魂を込められているように感じました。崖の途中で怯えたように立ち止まっている獅子。絶壁をよじ登りながら、こちらを向いて笑っている獅子。足場を失って落下する獅子や、兄弟の背中にしがみ付いた赤ん坊の獅子など、数え切れないほどの動物がうじゃうじゃと群れている光景は、可笑しくもありながら、少々恐ろしいところもあるのが、ヒエロニムス・ボッシュの地獄絵を連想させます。

崖から落ちた獅子達は、性懲りもなく再び立ち上がり、また頂点を目指して登っているような印象があります。仏教の「輪廻転生」を象徴しているのかもしれません。

【 未開の森林 】

画面の中心で心配そうな顔をしている獅子は、母親か、父親だと想定されます。心理学上の典型的な解釈によって、この親を画家自身の心の反映とするのはどうかと思われますが、曾我蕭白の不明な部分が多い人生について調べている間、この獅子が彼自身の心理を表していると裏付ける出来事を見つけました。

【 未開の森林 】

この絵を描いた2年前に、曾我蕭白は息子を亡くしていました。これらの落下する獅子の子供達を描いていたとき、彼は失った息子のことを思っていたのでしょうか。そうだとすれば「石橋図」という作品は、彼の痛々しい感情がこもった、無常の人生観の描写なのだと考えられます。

【 未開の森林 】

また気になるのは、絵の上部に添えられた漢文です。中央上部に「百億師子」と書かれていますが、これは「獅子」のことですね。二行目の始めには「奇崖」とあります。文の全体的な意味が分かれば、この絵の真意に近づけると思うのですが・・・。