別府市小学生将棋名人戦での麻生潤君VS江口智也くんの観戦記。

 

地震と重なり、大分合同新聞を入手できなかったのですが、との連絡も頂きました。

 

本日の朝刊で連載を終えましたので、あらためて、ご紹介します。

190手を超える激戦であったため、僕なりに本文を短くしてみたのです。また、合同新聞の担当の方にも大変ご苦労を頂きました。それでも、最終日は原稿のすべてを掲載することができませんでした。この際ですので、その分も合わせてご紹介します。

 

第1譜
【群雄割拠の中で】

人気のNHK大河ドラマ『真田丸』、信繁(幸村)が兄と将棋に興じるシーンが出てくる。信繁のみにあらず。信長、秀吉、家康の戦国三傑を始め、多くの武将は将棋を奨励した。知恵と心の修練になると認めたからだ。
総勢82名の子ども棋士が知恵と心を磨き合った標記大会。上級は何らかの大会での優勝経験を持つ強豪達のクラスだ。今年は14名の群雄が割拠した。予選2パートに分かれての総当たり戦。過酷な戦いを6戦全勝で勝ち上がり、関ヶ原に臨んだのは麻生君と江口さん。
結びから書こう。本局は、まさしく死力を尽くしての戦いとなった。終了までの手数は193手。通常の子ども対局のおよそ2倍となる対局を二人がいかに戦い抜いたのか。そのドラマを記していきたい。
麻生君は居飛車、江口さんは三間飛車の対抗形。途中図、角道を止めた後手。瞬間、スキありと見た先手は逃さず敵陣突破。先手主導の中、50手目、敵陣に飛車を配置し馬を作った後手。さて、先手はいかに。

 

 第1譜・棋譜(1-50)

先手:麻生 潤
後手:江口 智也

▲7六歩    △3四歩    
▲2六歩    △3五歩    
▲2五歩    △3二飛
▲4八銀    △4四歩(図)    
▲2四歩    △同 歩    
▲同 飛    △3三角
▲2一飛成  △2二飛    
▲同 龍    △同 銀    
▲3九金    △6二玉
▲6八玉    △7二玉    
▲7八玉    △8二玉    
▲7七角    △7二銀
▲8八玉    △9四歩    
▲7八銀    △4五歩    
▲3三角成  △同 銀
▲7七角    △4四角    
▲2一飛    △7七角成  
▲同 銀    △5二金左
▲1一飛成 △3六歩    
▲7八金    △3七歩成  
▲同 桂    △4四銀    
▲3一龍 △4六歩    
▲同 歩    △6九角    
▲4九金    △2九飛    
▲5九金 △1四角成  


第2譜
【盤上の名探偵】

先手・麻生君。上級を4度制した、押しも押されもせぬ強豪だ。かつて、ある対局で相手の指し手に「ふむ、なるほど…」と頷く彼の姿を目にしたことがある。驚くなかれ、それが小二の時なのだ。相手を見る余裕もないのが一般的な小学2年生。「将棋は推理小説」が私の持論だが、幼い彼は探偵のように先を読もうとしていた。棋士・渡辺明二冠に憧れ、弟の賢君(附属小1年)とともに将棋教室「将星会」で切磋琢磨。「考えて考えて、深く先を読むことが楽しい」と魅力を語る盤上の名探偵へと成長した。
さて図から先手は「▲5六角を発見(麻生君談)」する。自陣に打ち込まれた飛車と敵玉の頭を両にらみ。さらに▲8六香、▲7五桂と波状攻撃。以下、角を切り、▲6一竜と圧力をかけ続ける。先手勝勢とも言える局面だ。が、ここでひるまないのが江口さん。64手目△7六歩と反撃。後に先手自身が「悪手」と語った77手目▲3二角を引き出し、終わり図では先手玉に迫ってきた。さて、次の一手は?
(英之介)
 
 第2譜・棋譜(51-95)
   
▲5六角    △1九飛成  
▲8六香    △7四歩    
▲7五桂 △同 歩    
▲8三香成  △7一玉    
▲7二成香  △同 玉    
▲8三角成 △同 玉    
▲6一龍    △7六歩    
▲8一龍    △8二歩    
▲7五桂 △7三玉    
▲7四歩    △6四玉    
▲7六銀    △5五角    
▲6六銀 △同 角    
▲同 歩    △5四玉    
▲3二角    △同 馬    
▲6五銀 △4三玉    
▲4五歩    △5五銀    
▲8二龍    △5一香    
▲4四金 △同 銀    
▲同 歩    △同 玉    
▲6三桂成  △7五桂    
▲5二成桂 △6七銀    
▲4五金    △3三玉    
▲7九金

第3譜
【不屈の振り飛車】

後手の江口さん。すでに上級3度の優勝経験を持っている。将棋教室「将星会」のリーダー的存在で、下級生達からの信望は厚い。自宅では、久保利明九段の棋譜を並べ、弟・悠太君(大分市下郡小3年)との実戦練習に励む。「弟を鍛えすぎて、最近負けることもあるんです」と嬉しそうに話す良き兄は、粘りが信条。不屈の振り飛車党だ。本局も先手優勢から、予断を許さぬ戦況へと持ち込んだ。
さて最初の図から、本譜は△7八歩。先手金を襲う手だ。しかし、ここで「竜切り」△5九竜はなかっただろうか。先手は▲同銀と取れるか否か。二人だけでなく、子ども棋士の皆に研究してほしい局面だ。
また、後に二人がポイントにあげたのが108手目△7八銀不成。「上から押さえられたら危なかった(麻生君談)」。
その後も、しのぎを削る。終わり図からも含め、後日の検討では詰み手順も発見されたが、なにせ一手30秒。読み切るのは難しい。こうして193手という未体験の精神消耗戦に入っていった。
 
第3譜棋譜(96~146)
△7八歩    
▲6九金左 △7九角    
▲同 金    △同歩成
▲5五角    △2三玉    
▲2四歩 △1四玉    
▲9六歩    △8九と    
▲9七玉    △7八銀不成
▲8六玉 △9三桂    
▲7五玉    △1五玉    
▲5一成桂  △8五金    
▲同 龍 △2六玉    
▲2五桂    △1七龍    
▲3七銀打  △1五玉    
▲2六金 △2四玉    
▲3五金寄  △2三玉    
▲2四香    △1四玉    
▲1五歩 △同 龍    
▲同 金    △同 玉
▲1六歩    △同 玉    
▲1七歩    △同 玉    
▲2八銀    △2六玉
▲3七銀左  △3五玉    
▲4六角    △2五玉    
▲2六歩    △3四玉
▲3五飛    △4三玉    
▲4四歩    △4二玉
   


第4譜
【新たな戦いに】

盤面に集中し、ぐっと肩を入れ込む先手。読み筋を確認し指を動かす後手。ともに未体験の長期戦。闘志に衰えはないものの、予想もしなかった手数に疲れは隠せない。例えば、図からの▲8二竜は詰みへの道筋だっただろう。本譜は▲9一角成。先手は入玉を視野に入れている。そうはさせじと後手。
そして157手目▲6三玉。ついに敵陣に入城した先手。だが、まだ二の丸。本丸でしとめようと応戦する後手。目と鼻の先に対峙する互いの玉。川中島の謙信と信玄を彷彿とさせる戦い絵巻だ。手は進む。だが、筆者の錯覚か、二人の顔から疲労の色が消えた。いや、むしろ激闘を楽しんでいる。そんな気がした。
185手目▲3三飛成。「ここで詰みを読みきりました(麻生君談)」。193手の終了後、「率直にほっとしました」と5度目の優勝を決めた麻生君。敗れたものの午後の上級10分戦でも三位入賞を果たした江口さん。知恵と心をしのぎ合った本局は新たな戦いに向けて、大きな財産となっただろう。

第4譜・棋譜(147-193)

▲9一角成  △8五桂
▲6四馬    △3三歩    
▲5四桂    △5一玉    
▲5三馬    △8三桂
▲6四玉    △7二桂    
▲6三玉    △6一香    
▲6二桂成  △同 香
▲同 馬    △4一玉    
▲5二馬    △3一玉    
▲4三歩成  △7一桂
▲7二玉    △9二飛    
▲8二香    △8一金    
▲6一玉    △6二金
▲同 馬    △4三馬    
▲5二香    △8二飛    
▲7三歩成  △4一金
▲2二金    △4二玉    
▲8二と    △同 金    
▲5四桂    △同 馬
▲3三飛成  △同 玉    
▲2三香成  △4二玉    
▲3二飛    △同 金
▲同成香    △4三玉    
▲3三金
まで193手で先手の勝ち