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「6月雇用統計とFRB」

6月米雇用統計が発表された。


言ってしまえば、「失業率は8.2%で、非農業部門の就業者は3月連続の10万人割れ、就業可能人口は相変わらずの増加傾向にあり、結果として労働参加率は低水準。長期失業者や失業期間も春先とほぼ変わらず、全体的な見映えとしては変わらない。」といったところになる。 しかし政策動向という意味において、この結果が大した意味をもつとは思えない。


繰り返し言うように、米雇用統計は一昔前と違い、時間の経過とともに金融政策実効性とは相関性が薄くなっている。これは市場関係者にとって見逃せない視点になるだろう、なぜならFRBが政策実行したところで、直接的に雇用者を増加、失業率を低下させる事は不可能だからだ。


「通説」を改めて述べさせて頂くと、中央銀行はマネタリーベースを直接的に操作する。当然ながら、市中への通貨供給量(マネーサプライ)拡大を見込んでの事だ。しかしながら、中央銀行がマネーサプライを直接操作する事はできない。さらには、今回ここで重要なのはマネーサプライが増加したとしても、雇用増加がそれに比例するかといえば、繋がっているとはいえども、必ずしもそうとは言い切れない。


市場関係者は、必要以上に雇用統計に注目する傾向にある。しかしながら、ここ最近FOMCメンバーの口々から聞こえてくるのは、「金融政策によって雇用を押し上げる効果は限定的」「強力なデフレにならない限り、さらなる政策を実行するには難しい」といった言葉だ。


自分は、QE3どころかQE2に対しても常々懐疑的な考えをもっていた。

(参考:存亡のシグナル /漂流FED

FOMCメンバーの「ハト派」と呼ばれる人たちも、時間の経過とともに緩和政策実施の口ぶりが弱くなってきたわけだが、理由としては、そのような「金融政策と雇用の希薄的関係」が浸透してきたため、と思われる。




雇用サポートを供給し続けたFRB


FRBはハローワークでは無い。何か行動を起こせば雇用を増加させる、といった魔法の杖は持ち合わせてはいない。メンバーが口にするように、「次なる行動」を起こすのはデフレ圧力が強まったときであり、今現在、(わずかながら)物価上昇圧力が軟化してきたとは言っても、一定程度の物価水準には到達している。


エネルギー・食品消費を除外したコアPCE価格指数は、5月時点で1.82%。FOMCにおけるコアPCEインフレの下限目処は、6月FOMCにて公表した1.60%。つまり下落してきたとはいいつつも、下限目処よりは一段上の水準にある。


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さらには、前述した(FRBがコントロール可とする)ハイパワードマネーは法定準備を大きく上回る規模を長らく維持、以前のエントリーで紹介させて頂いたが、今現在そのハイパワードマネーのストック分(超過準備)はマネーサプライの拡大とともに大きく取り崩されている。市中への資金供給、といった意味でFRBは既に明確な役割を果たしている。


そして、FRBが市場の圧力に屈さず、バランスシートを拡大しなかった結果(ツイストオペ)、投機的な資金供給は抑制された。結果、一般消費者の生活必需品である食品・ガソリン価格はみるみるうちに下落していった。


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「資金供給というポンプ」をこれ以上踏み続ければ、低所得者層の生活を圧迫、雇用増加どころか失業増加となってしまう。今年は大統領選、選挙に大きく影響を与えるような「過ちの資金供給」は考えられない。大統領選とQE3の関係については、今年の1月にすでに言及している。  (参考:ドル円相場における日米環境


つまりFRBは、「市中への資金供給および、生活必需品の下落」というこの上ない雇用サポートを、経済に対してプレゼントし続けてきた。これ以上の事を中央銀行(FRB)がコントロールする事はできない。 繰り返しになるが、FRBはハローワークでもなければ、企業の人事部に圧力を加える事もできないわけだ。


ほんの少し前までは、市場関係者にとっては雇用統計における数字は一定程度、重要だったかも知れない。しかしながら、前述の通り、FRBが今現在、「役割上限」を果たしていることを考えれば、市場関係者が雇用統計の細かい数字を追いかけたところで、大した意味は無い。


雇用統計は毎月発表される。しかしながら、今現在は市場にとって大した意味を持つ事はない。政策判断という意味において重要なツールでなくなった雇用統計を、過度に追い掛ける必要は無い、と考えるわけです。