「存亡のシグナル」
その一言一句が注目されるバーナンキですが、その言葉は彼の意図せざる市場に伝播している事になる。
ここ最近の新興市場や商品市場は、彼の言葉、すなわち「FRB資金の流入観測」によって熱を帯びている。その動きは7月以降、一斉に始まった。
先進国を尻目に、ボンベイ・上海・香港などの新興市場は息を吹き返し、ブラジル・ボべスパも08年6月以来の高値を記録。
ロシアも
トルコも
その他新興国、韓国・タイ・インドネシア等も同様であり、商品市場に至ってはゴールドもさる事ながら、その他コモディティもこぞって資金流入観測が相場を押し上げている。
銀や銅も同じ軌道を描き、小麦・大豆などの穀物も「一斉上げ」。
挙げていけばキリがないわけですが、綿花も最高値らしい。
危険な兆候
ボストン講演で、改めて「緩和リスク」にも言及したバーナンキですが、これら新興・商品市場の最近の高騰が、彼の「緩和不安」を一層大きくしているように思える。
QE2という「威嚇アナウンス」を、これらの市場が歓迎しているという現実を前にして、もともと追加緩和に対して弱腰だったFRB(バーナンキ)は、一層ひるんでいるのではないだろうか。
8月FOMCでは、バランスシート拡大ではなく「維持」といったテクニカルな政策を表明したFRBですが、それはバブル懸念の表れでもあった。今回はそれが芽生えている中での難しい決断になる。
つまり、緩和期待によって聞こえてきたのは意図せざる「バブルの足音」であり、このままいくとバーナンキは救世主どころかグローバルバブルを生み出したFRB議長として名を残す可能性も出てきた。 それを考えると、次回FOMCは尻すぼみ、あるいは12月へ持ち越しとなってもおかしくは無い。 「持ち越しアナウンス」によってコモディティ市場の熱を冷ました後に判断しても遅くはない、なんて考えるかも知れない。
何しろ商品価格の上昇の先には「インフレ」だって待ち受けている。それは(待望の)需要に起因したディマンドプル・インフレではなく、原材料アップのコストプッシュ・インフレという事で、当然給与なんて上がらない。 さらには追加緩和よって生じる通貨安も、当然コストを押し上げる。
要するに、QE2の内容によってはスタグフレーションに陥る可能性だってあるわけだ。バーナンキがボストンで、「その規模とベースを決めるのは難しい」といったところに彼の憂鬱が見て取れる。
コモディティの「一斉上げ」は警告のようにも思える。 需要や物価上昇を呼び起こし、雇用を改善するつもりの流動性が、実は間違った方向へ流れてしまうかも知れない、といった危険のシグナルだ。 大規模なQE2実行は、貧困層拡大のアメリカ経済をさらに押し潰してしまうかも知れない、 、
そういえばテイラーがこんな事を言っていた。
「世界恐慌の原因は流動性不足であったにも関わらず、FRBは流動性供給を怠った。そして皮肉なことに(今回は)流動性不足が原因ではないのに、流動性を供給した」
「医者が診断を誤った場合、間違った処方箋を書く事になるが、これによっていっそう病は重くなる」
日ごとに追い込まれていくようにも見えるFRBは、どのような決断を下すのだろうか? 金融市場は岐路を迎える事になる。