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回転しない「貨幣の回転率」

前回エントリーで紹介した「名目GDPターゲット」なんだけど、これに関心を持った方が少なからずいたようなので、続編と言うかもう少しだけ言及させて頂く。 結論だけ先にいえば、カリフォルニア大のローマー教授のようなマネタリスト的発想は現在では通じない。


彼のGDPターゲット論を、過去のアイデアといったのは、古典的な貨幣数量説(フィッシャーの交換方程式)から容易に導き出す事ができるからだ。 ここではその貨幣数量方程式を、随分前に説明 させて頂いたのと同様、「MV=PO」を使用させて頂く。


MV=PO

(M:マネーストック・V:貨幣流通速度 / P:物価水準・O:実質GDP よってPO=名目GDP)


貨幣数量説ではこの数式の貨幣流通速度、「V」が一定である事を前提としている訳であって、そう考えると通貨供給量(M)をドカドカ増加させれば、名目GDPも増加する、という考え方が可能になる。 ちなみにその流通速度(V)というのは、人々の取引意欲の表れであり、一定期間内にマネーが他人の懐から懐へと漂流する平均速度の事だ。簡単に言うと、お金を使わずに手元に置いておけば、この速度は上昇しない事になる。


しかしながら、この貨幣数量説は前述のように、そのVが一定である事を前提としている。恐らくは金利がゼロ水準になる以前には、中銀による金利操作で市中の需要を喚起する事が可能だったからだろう。現在のように金利に引き下げ余地がなくなった時、流通速度Vが金融政策によって反発してくる事は想定し難い。


要するに、「ゼロ金利」となった時点で、(Vが一定だとする)この数式自体は成り立たない。というか、Vが急減速すればいくらM(マネー)を拡大しても、名目GDPは減少する事になる。これが起こっているのが現在のアメリカや日本だという事になる。


自分が、停滞する貨幣の回転率 」、「沈滞する貨幣の回転率 」など、貨幣流通速度をその都度レポートしているのはそこが「経済の分岐点」であるからだ。 ローマー教授のような古臭いマネタリスト的発想は、この流通速度を全く無視している訳だが、実際に第3四半期のアメリカの流通速度を観れば、マネーストック1、2、ともにその速度(M1V、M2V)が大きく落ち込んでいる事が確認できる。 ニューノーマルの理

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この貨幣流通速度の容赦ない下落を、冒頭の数式に当てはめれば、マネーの増加がかき消される事がご理解頂けると思う。ちなみにここで言うマネーは「マネーストック」であり、コントロール可能なマネタリーベースでは無い。これらを考えても、ローマー教授のようなGDPターゲットなるものは幻想である事が覗える。


現在における経済の問題点は、この「V」であり、彼らのいう「M」では無い。 ここ(V)は、民間同士の取引活動が決める部分であり、(何度も言うように)財政政策の果たす役割が大きい事になる。