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沈滞する「貨幣の回転率」

FRBリリース(1/27)によると、バランスシートの規模は2.42(6)兆ドルとなっている。ただ、貨幣の回転率は低下、未だ需要は滞ったままだ。


今までのおさらいという訳ではありませんが、FRBによる国債保有額の増加は、そのまま米株を底上げしていることになる。 1988年創設のPPT (若しくはそれに準ずる体制)によって、政府は民間金融機関のポートフォリオ(株式)バランスを意図できるようになったからだ。


09年3月下旬からの国債買上げ(QE1)・昨年8月からの国債再投資・11月からのQE2と、FRBのバランスシートは09年3月(縦線・青)から、株価上昇とともに膨張してきた。

下のグラフでお分かりになるだろうか?09年3月からのトレジャリー保有額の軌道(矢印・水色)は、同時期の株価上昇と同じ軌道を描いている。


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6月下旬までの残り額が4千数百億ドルだという事を考えると、それまでにダウが1万3千ドルに近付こうとも、自分は驚きもしない。おそらく、このブログの閲覧者の方も驚かない事でしょう。

ただ、住宅価格が落ち込む中、株上げの資産効果が「サッパリ」なのはインフレ率の弱さを観ても明らか。 昨年末商戦は「過去3年で最高」といわれたにも関わらず、12月コアCPI(左)と、先日発表の12月コアPCE(右)は、ともに鈍化したままで、FRBの目標値(1.75-2.0%)からはかなりの乖離が見られる。 (赤は名目値)


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何でもコアPCE・コアCPI、どちらも1959年の統計開始以来、最低との事。
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年末商戦は値引き合戦が目立ったといわれていますが、それとともに、ショップクーポンによる(商品取換えではなく)現金返却によって、結果的に大幅下方修正した店も非常に多かったらしい。 どうやらその事も消費低迷の一因になったようだ。


冒頭に述べた貨幣の回転率ですが、正式名称は貨幣流通速度(Money Velocity)であり、以前、貨幣数量方程式とともに説明 させて頂いた。 マネーサプライが増加したとしても、この速度が縮小(需要縮小)する限り、物価は上昇しないという構造になっている。

セントルイス連銀の28日付の報告によると、その貨幣流通速度は未だ落ち込んでいる。代表的なM2(下)に加え、M1、MZMともに、その流通速度の下落は激しく、冒頭のグラフ、FRBのバランスシートの膨張ぶりを打ち消すかのような落ち込み様になっている。 ニューノーマルの理


上図は2010・Q4時点までの「M2の流通速度」ですが、数値としては「1.693」。

見にくいとは思いますが、Q2・Q3は「1.702」だった。 要するに、QE2がスタートとなった第4四半期は、皮肉にも需要は減退していた事になる。 「貨幣量」が増えたにも関わらずCPIが上昇してこないのも、この貨幣流通速度(の減少)が大きく関係しているわけだ。

家計の負債が120数%(可処分所得比)という事でピーク時(130数%)より縮小してきましたが、デレバレッジ(負債返済)が長期化するのは周知の事実で、その間、強い需要は「決して」見込めない。上図はその証明ともいえる。


今現在、(建前上)雇用統計を基準にQEが論じられていますが、雇用情勢にとってのQEはもはや「空砲」であり、ご存じの通り、世界中にインフレをまき散らすだけとなっている。

言ってしまえば、現在のQEは直接的な雇用効果もなく、(実は)株高効果もない

立場上「効果あり」としているFRB理事たちですが、実際には効果薄である事を、今現在実感している事でしょう。 となると、QEの残る使途、すなわち「対中ツール」としての使い道ですが、これは効いているとみられ、中国はかなり苦しんでいるように見える。(下図)
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ダボス会議の間、猫を被っていたような中国ですが(↑終了とともに介入?)、QEが続く事を考えればインフレリスクによって、今後も為替介入は縮小せざるを得ない。

この事についてバーナンキも先月7日の議会証言で、(今まであまり触れなかった)本音をのぞかせている。今更ながらですが、バーナンキ議会証言 から抜粋。


中国が固定相場を維持している事は事実であるとともに、中国はアメリカの金融政策を輸入している。アメリカの金融政策は非常に緩和的であり、アメリカには適切な政策も、急速に成長している中国にとっては適切ではない。

実際、中国は対応を迫られている。中国が自国の為替相場を多少なりとも上昇させるなら、インフレ減退につながるという意味において、それは中国の為になる。 (バーナンキ)


目論見通りに元高誘導させていると言えるQE2ですが、しかしながらこれによってアメリカの雇用が回復するかどうかというと、その辺は分からない。 実際のところ、「元高になっても雇用情勢は変わらない」といった声も大きいわけですが、融資拡大や資産高による雇用効果が無いとすると、当面は「対中ツール」に懸けるしかないわけであって、当面は元高と米雇用情勢をセットで観察し続ける事になるものと思われる。


ちなみに債務限度額(14.3兆ドル)に到達直前というアメリカですが、限度額が引き上げられた暁には、QE第3弾も真面目に検討されるんだろうか? 仮にそれ(QE3)が現実味を帯びたときには、ダウは更にオーバーウェイトとされる事でしょう。

(投資は自己責任で)



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