午後の五時 | 映画を観よう

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午後の五時

A CINQ HEURES DE L'APRES-MIDI
AT FIVE IN THE AFTERNOON


イラン/フランス 2000年

アゲレ・レザイ、アブドルガニ・ヨセフラジー、マルズィエ・アミリ、ラジ・モヘビ 

監督・脚本・撮影:サミラ・マフマルバフ




【ストーリー】

ブルカに、青い日傘をさした女性ノクレ(アゲレ・レザイ)。今もなお女性が勉強したり働いたりすることを神への冒涜と信じている父親(アブドルガニ・ヨセフラジー)と、パキスタンへ出稼ぎに行ったきり戻らない夫を待ち続けている兄嫁のレイロマ(マルズィエ・アミリ)と暮らしている。

タリバン崩壊後のアフガニスタン、女性にも学校が開放されるようになったいた。ノクレは毎日父親の馬車で送られ宗教学校に通うが、父と別れたあとノクレは白いハイヒールに履き替えると、女性に一般的な学問を教える普通学校へと向かった。

ある日、先生が生徒たちに将来の夢を尋ねるが、最後の「アフガニスタンの大統領になりたい人は?」との問いかけに、メガネをかけた少女ミナが立ち上がる。ノクレも勇気を出して立ち上がった。「女が大統領になれるわけがない」という生徒もいたが、ミナは堂々と反論。ノクレは、そんな彼女を見て自分の気持ちを強くした。家に帰ったノクレが水を探しに行く途中、パキスタンからの鈴なりの帰還民をのせたトラックが到着。住む場所のない彼らのためにノクレは何かをしてあげたいと思い、壊れた家でもよければ、と自分の住む家へと案内する。家は、たくさんの帰還民で大混乱。その夜、新しい隣人が大音量で流し続ける音楽に、信仰篤い父親は我慢ができず、ノクレたちを連れて家を出てしまう。家族の暮らしは日々苦しくなる一方だったのだが・・・。


公開コピーは

タリバン政権が崩壊した後、女性にも学校が開放された。
彼女達の中に、アフガニスタンの大統領になりたい

                 という夢を持つ女性がいた。


重い作品でした。

ラストに思うのは希望か?絶望か??


長い歴史の中で、最初の1歩を踏み出すのは

それが男性だろうと女性だろうと

有名だろうと無名だろうと・・誰だって大変です


この作品に出てくる女性・・

特に「大統領になりたい!」と手を上げた彼女たちは

親や兄弟を亡くし、最悪な環境とも思える中で

生活し、それでもなお希望を持って生き抜いている


なんて強い思いなんだろうか・・・



2001年9月11日、アメリカの同時多発テロ

皮肉にも、この作品はあの事件がなければ生まれなかった作品

タリバン政権崩壊したからこそ作ることができた作品なんです!


そして2003年のカンヌ国際映画祭で審査員賞を受賞作品。



タリバン時代には映画が禁じられていたアフガニスタン

けれども、政権が崩壊したあとの

変わりゆく(変わってほしいという希望?)アフガニスタン女性を

イランの天才女流監督のサミラ・マフマルバフは撮りたかったと・・


サミラ・マフマルバフという監督は

この作品を撮ったときはまだ22歳という若さですが

最年少でカンヌ映画際へ正式出品していて

有名な監督モフセン・マフマルバフの長女らしいです。

この監督作品は初めて見ましたが、他の作品も観たいと思いました。


主演は、アフガン女性のアゲレ・レザイ。彼女もまた22歳

作品の中では、ただ夫を待ち続ける義姉とは違い

信仰深い父親の目を盗み普通学校に出かける強い女性でしたが

彼女自身、夫はパキスタンヘ行って行方不明になったままで

女子学校で教師として職を得て、3人の子供を育てているという女性

これまで映画を観たことさえなかったらしいのだけれど

監督の「アフガンの女性を世界に知ってもらいたい・・」

という言葉で主演をOKしたらしい

あの、澄んだ力強い瞳は、22歳という若さには見えない落ち着きは

彼女の生きてきた道のりがあるからなんでしょうね


主役のノクレは、“アフガニスタンの大統領になって、戦争をなくしたい”

という夢を持ちながら、その思いを家族に理解してもらえない

たった一人、彼女を応援するのが

パキスタンから帰還してきた詩人の青年だけ

カルザイ大統領の演説原稿をもってきてくれたり

選挙用のポスターを撮影したり・・フランス兵との通訳をしてくれたり・・

作品の冒頭で、彼は「兄弟も殺された、政治なんか興味ない」と

ノクレをあしらって傷つけたのだけれど、

彼もまた、彼女の強い思いに希望をもちたかったのかもしれない


時代が変わることを受け入れられない父は

その信仰深さから、大切な家族を死へと導いているけれど

そのことに気づくこともない・・そういう世界なのだろう・・


題名の『午後の五時』は

スペインの詩人ガルシア・ロルカの詩の有名な一節で

作品の中で、詩人の青年が朗読をすると

母親が「この詩は詠まない約束じゃないか・・・」と悲しそうな顔をします

午後の五時は死を迎える時刻かのように暗く響く詩



馬を失い、馬車を失い、父に促されて水を探しに行くノクレとレイロマ

薄暗くなり始めた空に果てしなく続くような砂丘の中

二人の女性のブルガが風になびいている

その映像の向こう側で、あの詩が聞こえてくるような錯覚を覚え

さらに、ノクレの白いハイヒールの音と

ブルガを外してまっすぐに前を見据えた力強い希望に輝く瞳が

そこに映っているような気がして切なくなりました



アフガニスタンの現実と新しい世界への希望

住む家もなく身を寄せ合う人々と信仰深い老人

静かに日が沈む広大な砂漠と廃墟になった宮殿

女性のブルガと白いハイヒール


さまざまな対比が

現実を映しながら未来への想いを映し出そうとしているようで

しなやかさと、強さを感じる作品でした





【蛇の足】

サミラの妹ハナが監督した「ハナのアフガンノート」は、この作品の製作準備が困難を極め、その中で作成されていった過程を追ったドキュメンタリーということなのですが、こちらも気になる作品です。