ここ数年、刑務所という場所で主人公が成長する姿を描いた映画の傑作に何本か出会っているのですが、さすがにジャンルとして流行するような気配は無く、今回の『名もなき塀の中の王』もノーマークでした。
とんでもなくヤンチャな19歳である主人公は成人用の刑務所に送られることとなった。
事前に把握したあらすじはこれ↑だけ。犯罪を描く映画は大好きなチルですが、犯罪者が犯罪を犯す余地のない刑務所ものはそれほどそそられない。
それにも関わらずこの映画には巨大な感動を与えられ、己の眼球をビショビショにさせられる羽目に。泣いたわー!!!
元のタイトルは"STARRED UP"。少年院から刑務所への"成り上がり"という意味だそうです。
この映画は全てのシーンが刑務所の中で描かれていて、入所する前の回想や出所後の描写も皆無。この点は何気に凄いところ。主人公に感情移入させるためにはキャラクターとしての多面性を描くべきだし、それこそ無垢な少年だった頃の主人公でも描いたっていい。
この映画は全てのシーンが刑務所の中で描かれていて、入所する前の回想や出所後の描写も皆無。この点は何気に凄いところ。主人公に感情移入させるためにはキャラクターとしての多面性を描くべきだし、それこそ無垢な少年だった頃の主人公でも描いたっていい。
しかしそれをしなかったところに製作陣の矜恃を感じるし、そのチャレンジによって物語としての深みが失われているかといえば決してそんな事はない。
さらには時間軸の入れ替えも行っていない、徹底的に骨太なシナリオ構成。結局目先小手先のテクニックを盛り込んでドヤ顔するより、テーマをしっかり描ききるかどうかが大事ってことですね。
物語自体はシンプルといっていいものです。
誰も信用せず、ふとした瞬間に暴力衝動を発露する主人公エリックが、大人たちによって形成された刑務所内社会と対峙して変化を強いられていく話。
これまでの刑務所映画との違いは、露骨に悪意をぶつけてくるようなステレオタイプの看守キャラが出てこないところ。
本音と憎悪を皮膚の下に隠しながら囚人たちをコントロールしようとする刑務所サイドのキャラ造形はリアリティを感じさせてくれます。
主人公エリックは入所以降数々の暴力沙汰を起こすのですが、そのどれもが多少の親近感を覚えるような、動機に理解の余地があるものとして描かれています。
入所早々にカミソリと歯ブラシを組み合わせた武器を作りはじめた時は「こいつどんだけ好戦的なんだよw」と、ちょっと引き気味だったのですが物語の進行に従ってエリックというキャラクターに情が湧いている。カミソリに引いていた自分が、いつの間にかエリックに感情移入させられてカミソリを行使する事に同調している。
そこに至るまでに緻密なストーリーテリングが為されているがゆえなのですが、物語の軸はエリックがグループセラピーに参加して同じ立場の囚人たちとの話し合いの中から変性と成長のヒントを得ていく、という一見すると地味な展開。
均衡が保たれていたかのように見える刑務所に現れた未成年のエリックは、純粋という言葉に最も近い存在。誰もが彼の動向に注目し、制御しようとしたり押しつぶそうとしたり良い関係を構築しようとします。(それが「主人公」というものか。)
王のいない刑務所がエリックの登場によってパワーバランスを崩し始めていく。シーンによって急激に高まる緊張感もさることながら、クライマックスに向けて決定的な崩壊の予感が高まっていく描き方も非常に見応えがあります。
エリックはグループセラピーへの参加を機に少しずつ変化していくのですが、この変化・成長の過程がものすごくドラマチックでスリリング。
グループセラピー参加者はエリック以外全員黒人。瞬間湯沸し器的にブチギれる演技の迫力はものすごいし、その前段階の張り詰めた空気は黒人キャストで固めたがゆえの説得力。
ささいなプライドをいつまでも捨てきれない男たちが敵意をむき出しにしてぶつかり合う。それを乗り越えた先に彼らのゴールはあるのか?
うまく行きそうになったところで崩壊するささやかな人間関係の行方を見守っていると、「これが人間の弱さなんだ」「これが人間の強さなんだ」と痛感し、涙がとめどなく溢れ出てきました。
あまりネタバレはしたくないのですが、行き場のない衝動を抱え込んでいただけのエリックが、映画の後半に至って確かな成長を見せる様にも号泣号泣大号泣。
なんだかんだで暴力が解決する、みたいな安易な結末になっていないし、カルマ/因果を無視していないストーリー展開はテーマとしっかり向き合っているがゆえの深み・厚み。
脇役の存在感もとんでもないのですが、それぞれのキャラクターが至る結末にもグッと来るんですよ。。。
主役のジャック・オコンネルは初見でしたが、『アニマル・キングダム』のベン・メンデルソーンは表情とセリフだけで「このオヤジやべえ」感を醸し出しまくってるし、『ダークナイト』でジョーカーの下っ端を演じていたデヴィッド・アジャラの顔相撲横綱っぷりはマジで最高!
この映画をどう語って良いのか分からない。あまりにも無力なレビュアーとしての自分を再認識しています。
とにかくエリックの成長っぷりは必見!号泣必至! 『6才のボクが大人になるまで』にも似た感動がある、刑務所映画の傑作が誕生です! 見逃すな!
P.S.
ここ数年の間に生まれた刑務所映画の傑作について。
1本は『預言者』(2009)。フランス映画。なんのコネもなく刑務所に入れられた主人公がユダヤ系というだけで目を付けられ、刑務所内の抗争に巻き込まれていく話。どんどんタフになっていく成長っぷりや、権力闘争の描き方などはめちゃ燃えます!
もう1本は『孤島の王』(2010)。ノルウェー映画。バストイ島にある少年院で何年もの間自由を奪われた少年たちの物語。実際に起きた少年による反乱事件を映画化したもの。改めて見返したらやっぱりとんでもない名作でした。終盤の展開は「これこそカタルシス!」と思わされる熱さ。そしてそのドラマは極寒の海に飲み込まれていき…
というわけでこちらの2本もオススメでーす。
王のいない刑務所がエリックの登場によってパワーバランスを崩し始めていく。シーンによって急激に高まる緊張感もさることながら、クライマックスに向けて決定的な崩壊の予感が高まっていく描き方も非常に見応えがあります。
エリックはグループセラピーへの参加を機に少しずつ変化していくのですが、この変化・成長の過程がものすごくドラマチックでスリリング。
グループセラピー参加者はエリック以外全員黒人。瞬間湯沸し器的にブチギれる演技の迫力はものすごいし、その前段階の張り詰めた空気は黒人キャストで固めたがゆえの説得力。
ささいなプライドをいつまでも捨てきれない男たちが敵意をむき出しにしてぶつかり合う。それを乗り越えた先に彼らのゴールはあるのか?
うまく行きそうになったところで崩壊するささやかな人間関係の行方を見守っていると、「これが人間の弱さなんだ」「これが人間の強さなんだ」と痛感し、涙がとめどなく溢れ出てきました。
あまりネタバレはしたくないのですが、行き場のない衝動を抱え込んでいただけのエリックが、映画の後半に至って確かな成長を見せる様にも号泣号泣大号泣。
なんだかんだで暴力が解決する、みたいな安易な結末になっていないし、カルマ/因果を無視していないストーリー展開はテーマとしっかり向き合っているがゆえの深み・厚み。
脇役の存在感もとんでもないのですが、それぞれのキャラクターが至る結末にもグッと来るんですよ。。。
主役のジャック・オコンネルは初見でしたが、『アニマル・キングダム』のベン・メンデルソーンは表情とセリフだけで「このオヤジやべえ」感を醸し出しまくってるし、『ダークナイト』でジョーカーの下っ端を演じていたデヴィッド・アジャラの顔相撲横綱っぷりはマジで最高!
この映画をどう語って良いのか分からない。あまりにも無力なレビュアーとしての自分を再認識しています。
とにかくエリックの成長っぷりは必見!号泣必至! 『6才のボクが大人になるまで』にも似た感動がある、刑務所映画の傑作が誕生です! 見逃すな!
P.S.
ここ数年の間に生まれた刑務所映画の傑作について。
1本は『預言者』(2009)。フランス映画。なんのコネもなく刑務所に入れられた主人公がユダヤ系というだけで目を付けられ、刑務所内の抗争に巻き込まれていく話。どんどんタフになっていく成長っぷりや、権力闘争の描き方などはめちゃ燃えます!
もう1本は『孤島の王』(2010)。ノルウェー映画。バストイ島にある少年院で何年もの間自由を奪われた少年たちの物語。実際に起きた少年による反乱事件を映画化したもの。改めて見返したらやっぱりとんでもない名作でした。終盤の展開は「これこそカタルシス!」と思わされる熱さ。そしてそのドラマは極寒の海に飲み込まれていき…
というわけでこちらの2本もオススメでーす。