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サム・メンデス監督、ダニエル・クレイグ主演の『007 スカイフォール』。

カジノ・ロワイヤル』『慰めの報酬』につづいて主人公ジェームズ・ボンド役にダニエル・クレイグ

007シリーズ50周年記念作品。

※第85回アカデミー賞歌曲賞受賞。





トルコで英国秘密情報部MI6のエージェントが殺され、テロ組織に潜入中の工作員のリストが入ったハードディスクがうばわれた。007ことジェームズ・ボンド(ダニエル・クレイグ)は実行犯を追うが味方の狙撃で傷を負い、からくも一命をとりとめる。MI6の本部は爆破され、上司のM(ジュディ・デンチ)の命がねらわれる。犯人は元エージェントのシルヴァ(ハビエル・バルデム)だった。


感想に入る前にしばらく思い出話を。

退屈なかたはとばしてお読みください。


僕が007シリーズをはじめて観たのがいつだったのかはよくおぼえていません。

多分、TVでティモシー・ダルトン主演の『リビング・デイライツ』(87)あたりを観たのが最初だったんではないかと。

その前のロジャー・ムーアが主演した作品もTVで何本か観た記憶があります。BSでもやってたよーな気が。

劇場で最初に観たのは、ピアース・ブロスナンがボンドをはじめて演じた『ゴールデンアイ』(95)。

以降、ブロスナン版はすべて映画館で観ています。

そのなかで一番好きだったのは、ミシェル・ヨーがボンドガールをつとめた『トゥモロー・ネバー・ダイ』(97)。敵はジョナサン・プライスが演じるメディア王でした。

その後、DVDでショーン・コネリー主演の初期作品、通には評判がいいらしい、ジョージ・レイゼンビーが唯一主演した『女王陛下の007』(69)なども鑑賞。

『女王陛下の007』はスキーアクションをクリストファー・ノーラン監督が『インセプション』でマネてたみたいだけど、僕は悪の組織スペクターの首領ブロフェルド役をテリー・サヴァラスが演じてたことぐらいしかおぼえていない。『007は二度死ぬ』のブロフェルド役ドナルド・プレザンスからのハゲつながりか。

『007は二度死ぬ』は日本が舞台で、ニンジャや丹波さんが出てきたりショーン・コネリーが自分は日本人だと言い張ったり、なかなか愉快な映画でしたが。

これまでいろんな俳優が演じてる007だけど、作品を観たことがない子どもの頃からなぜか“ジェームズ・ボンド”といえばショーン・コネリー、というイメージがあった。そういってる人がまわりにいたからだろうか。

「新ルパン三世」のなかにも「ロジャー・ムーアもいいけど、やっぱり私はショーン・コネリーが一番」なんて台詞もあったっけ。

そんなわけで、熱烈なファンでもなければ完全な“いちげんさん”でもなく、これまでふつうにシリーズを楽しんできたんですが、じつはダニエル・クレイグがジェームズ・ボンドを演じるようになってからまだ1本も観ていなくて。

たまたまタイミングが合わなかった、というのもあるけど、なぜかそそられなかった。

というのも、先ほどちょっと名前のあがったクリストファー・ノーランの『バットマン ビギンズ』あたりからはじまる、ヒーロー物のいわゆる「リアル路線」という奴にあまり興味がもてなかったから。

いや、ノーランのバットマン3部作は好きですよ。ぜんぶ劇場で観たし。

ただ、ボンド映画にかんしてはそれ以前にピアース・ブロスナン主演のいかにもコミックヒーロー的な作品群を観ていたので、007の世界をあえて「現実的に」描きなおすという試みには疑問があった。

なんでも「リアル」にすりゃいいってもんでもないだろ、と思っていた。

そもそもがフィクショナルな存在であるキャラクターが主人公のヒーロー物において、遊び心やユーモアがほとんどない「シリアス風味の味つけ」が全篇をおおっていることへの違和感、とでもいえばいいだろうか。

予告などを観ただけでは、トム・クルーズ主演の「ミッション:インポッシブル」シリーズなどとあまり違いがわからなかったし。

それでも今回の最新作は評判がいいような話を聞くんで、遅まきながら先日TVではじめて『カジノ・ロワイヤル』を観てみた。

なるほど、荒唐無稽な要素を極力廃した「リアル路線」でした。

派手なVFXでどんどんSFチックになっていったブロスナン版(最後の方では車が透明になったりしてた)にくらべると地味で小粒ともいえる展開がつづくんだけど(敵も弱いし)、ダニエル・クレイグがマシュー・ヴォーン監督の『レイヤー・ケーキ』でもみせていた等身大のキャラクターを魅力的に演じていて、アクション以外のシーンもなかなかイケたんでこれは意外と好きかもしれないな(ウホッ)、と思いなおして観に行くことに。

で、この最新作『スカイフォール』にはショーン・コネリー主演の『ゴールドフィンガー』(64)のネタがある、という話を聞いたんでDVDでチェックしました。

それで『スカイフォール』観たら、たしかにあった。

007シリーズをこれまでにずっと観ていてそれなりに知識なり思い入れがある人なら、おそらくわざわざ復習しなくてもいいような常識程度の小ネタです。

僕はあまりくわしくないんで、とりあえず『ゴールドフィンガー』だけでも観かえしておいてよかった。

じつは知らずに書いてたけど、『ゴールドフィンガー』の感想のなかにすでにネタの答えはあったのでした。

以下、ネタバレあり。



今回の悪役シルヴァを演じるのはハビエル・バルデム。

僕は彼が殺し屋を演じて評判になった『ノーカントリー』をまだ観ていないんだけど、『宮廷画家ゴヤは見た』ではナタリー・ポートマンをハダカにひんむいてサディスティックにいたぶってたし、なかなかインパクトのあるキャラと顔面の持ち主なだけに、今回の悪役はちょっと楽しみにしていた。

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シルヴァのアジト「デッド・シティ」は長崎県の端島(軍艦島)をモデルにしたオープンセットで撮影されている(バックに蓄音機でシャルル・トレネのシャンソン「ブン」が流れている)。

劇中では、シルヴァによって住民が一夜にしていなくなって廃墟となった町、という設定になっている。おっそろしいんですね、軍艦島^_^;行ってみたいなぁ。

このシルヴァさん、MI6の元エージェントということで、ボンドの先輩。

彼はサイバーテロリストで、その気になれば大企業を倒産させることも大金を稼ぐことも政府の重要機密を盗みだすこともわけなくやれる。

しかしどうやらそういったことには飽きてしまったらしく、彼はただ一つの目的のためにMI6を挑発する。

それはかつて自分を切り捨てた人物を殺すこと。

今回の敵のターゲットはMの命なんである。

そのためにMI6本部は爆破されて死傷者を出し、テロ組織に潜入していた工作員たちは名前をネットに公開されて殺害される。またトンネルを破壊されて地下鉄が暴走、おそらくこちらも多数の死者を出しているはず。

おばあちゃん一人のために、まぁとんでもない被害である。

なんと今回のボンドガールは、ジュディ・デンチが演じるこのMなのだ。

007シリーズ史上最高齢のボンドガール(^▽^;)

この前はイーストウッドの『人生の特等席』でおじいちゃんに萌えて、今度はこの映画でおばあちゃん萌えか。

ADELE - Skyfall



ジュディ・デンチがMを最初に演じたのは、先ほどのピアース・ブロスナンの初007映画『ゴールデンアイ』。

これまでのシリーズではMは男性が演じてきたが、はじめて女性のMの登場となった。

初代Q役のデスモンド・リュウェリン、Mの秘書役のロイス・マクスウェルなどのように主演が変わっても脇のキャラクターは引きつづきおなじ俳優が演じる、というパターンはこのシリーズが最初なのかどうかは知らないけど(日本なら「水戸黄門」ですね)、ティム・バートンからジョエル・シュマッカーが引き継いだ「バットマン」シリーズで、主人公は1作ごとに俳優が替わったが主人公の執事アルフレッドやゴードン本部長役の俳優がおなじだったことを思いだす。

ジュディ・デンチは(私の記憶が正しければ)ブロスナン版から唯一キャラクターを引き継いだ人。

その彼女が今回ボンドとともに“敵と戦う”。

ジェームズ・ボンドというキャラクターは、ちょうどルパン三世が何十年経っても設定上は年をとらないようにつねにダンディな色男でありつづけながらも、時代が移り変わって演じる俳優が若返るたびに当然のごとくその経歴も変わってきている。

『カジノ・ロワイヤル』の冒頭ではボンドはまだ正式に00ナンバーを名乗っていない若手、という設定だった。

そうすると、これはショーン・コネリーがボンドを演じていたときよりも以前の話、ということになる(もちろん、じっさいには時代をさかのぼるわけではないのだが)。

では、コネリー版では男性だったMが、なぜ現在は女性なのか。

こうしてお話は“原点”にもどる。

これはシリーズを観つづけてきた人にはなかなか感慨深いものがあるかもしれないですね。

そしてラストには、まだダニエル・クレイグ版では登場していなかった、シリーズではおなじみのあの“おかしな名前の女性”が出てくる(映画館のとなりの席で観てたオジサンが彼女が名乗ると「おっ」と嬉しそうに声をあげていた)。


以上がこの映画の最大の面白味であり、逆にいうと、これらにピンとこなければ「?」という感じかもしれない。特に後半は。

見どころのアクションはほぼ前半(それもかなり前の方)で描かれて、後半はひたすら原点回帰、もしくはオールド・ファンへのサーヴィスに費やされる。

ストーリーとか、ほんとにどーでもいい。

ハビエル・バルデムが演じるシルヴァはほとんどわざとのようにボンドに捕まり、まるでレクター博士のように脱走する。

彼はまさに裏ジェームズ・ボンド的なキャラクターで、じっさいバルデムの醸しだす存在感はなかなかなんだけれど、しかしその人物造形はけっこう雑でMとの因縁についても深く掘り下げられることはない。

たとえば彼がボンドのかくされたトラウマにじわじわと踏み込んでくるといった展開があれば(今回のストーリーはボンドの過去にかすかにふれるんだし)よりいっそう印象に残るキャラになったと思うんだが。

毒性の化学物質によって顔が変形したキャラはブキミだし地下鉄での追跡劇もカッコイイんだけど、悪役としてどうかというと、これまでの007シリーズの誇大妄想的なヴィランたちにくらべて特別壮大な犯罪をもくろむわけでもない。だってばあちゃんを殺そうとするだけなんだもの。

そしてそれにけっこうてこずるのだ。その最期も超地味。

「そこが逆にリアル」みたいなことなんだろうか。

予告篇を観ると、ちょっと旧シリーズの大物悪役っぽい雰囲気でけっこう期待してたんだがな。

ダニエル・クレイグの007は徹底的に地味路線でいくということか。

そして終盤はなんと、007版『ホーム・アローン』に!w

じっちゃんとばっちゃんとボンド君が家のなかのガラクタ使って悪党どもを撃退(ボンドを助ける老人を演じてたのが『ビッグ・フィッシュ』などのアルバート・フィニーだとはエンドロール見るまで気づかなかった)。

ジョン・ウィリアムズ作曲のテーマ曲が聴こえてきそうだった。

しかし、けっきょくボンドは“任務”に失敗してしまうのだが…。

ってゆーか、この映画でボンドは冒頭から最後までほとんど任務に失敗してるんだが、これではほんとにエージェント“失格”なんではないか?(´・ω・`)


単体の作品としては、まだ『カジノ・ロワイヤル』の方がそれなりによくできてたんではないかと思います。

ただ僕は“にわか”ではあるけれど、前もってひさしぶりに『ゴールドフィンガー』を観ていたおかげでちょっと007シリーズの歴史みたいなものを意識させられて、ストーリーの出来うんぬんとは違ったところでわりと感動してしまったんですよね。

ただの内輪ネタといえばそうなのかもしれないんで、万人ウケするかどうかはわからないですが。

ようするにこれもまたクリストファー・ノーラン版バットマンのような、オリジナル版の「語りなおし」といえるのではないかと。和歌の「本歌取り」みたいな。

だから本歌を知っていてこそより楽しめるのはたしか。

秘密道具とか車とかキャラクター名とか。

『ゴールドフィンガー』の感想で「ボンドガールのあつかいがテキトーすぎ」みたいなこと書いたけど、それはこの映画でもそうだった。

『スカイフォール』にはボンドガールが都合3人登場するけど(現地妻みたいな女性も入れると4人)、なにか意味ありげに出てきた女性がちょっとあっけにとられるぐらい簡単に退場してしまう。

…ボンド映画っていつもこんな感じだったっけ?

オマケみたいにラヴシーンが入ってたけど、一瞬でした。

今回もボンドが相手の女性のことを分析するシーンがあったけど、『カジノ・ロワイヤル』のときのようにボンドガールとのウィットに富んだやりとりの楽しさみたいなものがもうちょっとあったらいっそう見ごたえがあったと思う。

『カジノ・ロワイヤル』では、派手なアクションよりもむしろ、それ以外の場面での「粋」な会話にほかのアクション映画とは違った魅力を感じたので。

ショーン・コネリーの時代のようにちょっと上から男が女性を見下すような態度ではなく、現代的な男女のチクリチクリとやり合う会話の面白さみたいなのをぜひ今後は追求していってほしいなぁ。

まぁ、今回のメインの“ボンドガール”はジュディ・デンチですから、「女と男」というよりは上司と部下、あるいは「ママ」と「息子」みたいな関係だったけど。


監督のサム・メンデスは『アメリカン・ビューティー』を撮った人で、この人がボンド映画を?とちょっと意外だったんだけど、逆にアクション映画専門みたいな監督じゃない人の方がパターン化されない新鮮な作品を撮ることを期待しての人選だったんだろうか。

ちなみに、かつては「007映画の監督は英国人」という縛りがあったようで(90年代以降は英国人以外も監督している)、スピルバーグが監督を熱望したけどアメリカ人なのでかなわなかった、という逸話も。

帝王スピさんが映画界で望んでも得られないポジション、ってスゴいですよねー。

でも80年代のスピルバーグは“ギミック”の王者ではあったけど、軽妙洒脱な男女の会話なんかはてんで不得手だったからね。それにいまでは彼には『インディ・ジョーンズ』があるから。


ショーン・コネリーがジェームズ・ボンドを三たび演じた『ゴールドフィンガー』によって、007シリーズのフォーマットがかたまったといわれる。

奇しくも本作『スカイフォール』はダニエル・クレイグのボンド役3作目である。

“役者”はそろった。

次回作にもまたあの車は出てくるのでしょうか。

そして悪役にはぜひ義手の博士かツルッパゲの悪の首領を出してくださいo(^▽^)o


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いや、あんたらじゃないって^_^;


※アルバート・フィニーさんのご冥福をお祈りいたします。19.2.7

※ショーン・コネリーさんのご冥福をお祈りいたします。20.10.31


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