![$映★画太郎の MOVIE CRADLE](https://stat.ameba.jp/user_images/20120807/21/ei-gataro-movie-cradle/3e/bc/j/o0560030612122011785.jpg?caw=800)
『ぼくのエリ』のトーマス・アルフレッドソン監督、ゲイリー・オールドマン、コリン・ファース、トム・ハーディ、マーク・ストロング、ベネディクト・カンバーバッチ、ジョン・ハート、トビー・ジョーンズ、キーラン・ハインズ出演の『裏切りのサーカス』。R15+。
東西冷戦下のイギリス。英国諜報機関MI6、通称“サーカス”のリーダー・コントロール(ジョン・ハート)は、組織内部にいるソ連の二重スパイ「もぐら」の情報をつかむため、ジム・プリドー(マーク・ストロング)をブダペストに送るが計画は失敗。責任をとってコントロールと彼の右腕ジョージ・スマイリー(ゲイリー・オールドマン)がサーカスを退職する。1年後、コントロールは病死し、スマイリーは上層部からサーカスの幹部の調査を指示される。コントロールによって「もぐら」とうたがわれていたのはサーカスの4人の幹部たちだったが、彼らとともに容疑者としてスマイリーの名前もあった。
ジョン・ル・カレのスパイ小説「ティンカー、テイラー、ソルジャー、スパイ」の映画化。
映画好きの人たちに高く評価されている作品、ということで気になっていました。
何ヵ月か前にすでに観た友人が「ものすごく淡々としているので、観るなら映画館で観た方がいい。DVDだと眠くなるかも」といっていて、同時期に僕の住んでるところでも公開されていたのだけれど、僕の家からは場所が遠くてしかも一日の上映回数もかぎられていたので断念。
それが、よく行ってる映画館で今週金曜まで上映されてるのを知って、観に行ってきました。
以下、ネタバレあり。
さて、これは非常に困った。
というのも、友人のアドヴァイスどおりかなり集中力を要する作品ということなので前もって公式サイトで人物相関図やストーリーの概要についてチェックしていたのだが、映画は僕の予想をはるかに超えて地味でストイックだった。
ようするに冷戦時代のスパイを描いた映画なのだが、アクション物ではない。
それでも予告篇を観ると、いかにも硬派なサスペンス映画っぽくて面白そうにみえる。
友人によれば「スピルバーグの『ミュンヘン』の雰囲気を思いだした」ということで、たしかに淡々とした語り口に似たところはあるものの、それでも『ミュンヘン』にはミッションを遂行するときの緊迫感やテロによる爆破シーン、暗殺シーンなどがあったが、この映画には激しい銃の撃ち合いはまったくないし、ヴァイオレンス描写も1~2箇所でしかもとてもひかえめ。
つねに曇った空のもとで抑えた色調の画面がつづく。
説明を極力排して時間の推移を示す字幕もなく、必要最低限に切り詰められた編集。
随所に回想がはさまれるが、色調が微妙に明るくなっている以外はリアルタイムで進行している物語とほとんど変わらないテンションで描かれるため、ボンヤリ映画を観ていると時系列が混乱して、いったいいま誰がなにをしていて、なにが語られているのかもわからなくなる。
おそらく、それらの情報は映像をくまなく観ていれば映しだされているんだろうけど。
おおげさではなく、これは先日観た大林宣彦監督の『この空の花』を超えるぐらい僕にとっては難解な映画でした。
僕がアホだからなのか、なにしろよくわからないのだ、お話が。
ネットの映画レヴューサイトでも「むずかしかった」という感想がけっこうある。
わからないったってストーリーは事前に確認しておいたのだが、それでも「なにがどうなったのか」「こいつは無実かそうじゃないのか」あげくは「ってゆーか、この人誰だっけ」などと、基本的な事象にさえ確信がもてないまま映画が終わってしまった。
僕はアルフレッドソン監督の前作『ぼくのエリ』がけっこう好きなんだけど、あちらは登場人物もかぎられていて別に難解なストーリーではなかった。
それが今回は、一応話は追えたとしても(って、追えてないんだが)、たとえば主人公であるスマイリーがなにを考えていて、彼がいったいなにを行なっているのかもよくわからなかったりした。
ブダペストで撃たれてKGBに捕まったプリドーは殺されずにイギリスにもどってくるが、ソ連の諜報工作官“カーラ”が彼を殺さなかった理由が「もぐら」への気遣い、というのもよくわからなくて。
拷問までしといて、そんな簡単に本国に還しちゃうんだ、と。
そんな元工作員であるプリドーが、その後なんで学校の教師をやっているのか。スマイリーはなぜ彼の居場所がわかったのか。
殺されたと思われていたプリドーが再登場する場面がスマイリーが彼が生きていることを知るよりも前なので、どうもちぐはぐな印象をうける。
そして監視されてるはずのプリドーが、なぜあれほど容易に「もぐら」を殺せたのかetc.。
そんなわけで、原作小説を読んでいない僕は、映画鑑賞後にあらためてWikipediaであらすじを読んでストーリーを補完したり登場人物たちの行動の理由を知ることによって、ようやく先ほど観た映画の内容をなんとか把握したのだった。
これは僕に読解力がなさすぎるのか、それとも映画の作りが不親切すぎるのか。
ただもう、この映画を観ただけですべてを理解できた人がいるなら尊敬します。
「小男」だったという“カーラ”の正体は?
「もぐら」だった人物以外のサーカスの幹部たちは、全員シロなのかクロなのか。
“プアマン(貧乏人)”トビー・エスタヘイスはどういう立場の人で、なんでスマイリーに問い詰められていたのか。
カーラの部下ポリヤコフは、けっきょくイギリス側の味方だったのか敵だったのか。
最初に書いたようにちゃんと観てればわかるんだろうけど(ちゃんと観てたつもりなんですが)、一回観ただけではほんとによくわからなくて、なんかもう疲れました。
これは「忠誠心についての物語」といえるのかもしれないけれど、さしあたって僕にはこれほどくたびれながら読み解く価値がある作品とは思えなかった。
特にサーカスの4人の幹部たちの描写が端折られているのか、彼らの立ち位置がイマイチよくわからず(わからんことばっかだが)、だから祖国の裏切り者である「もぐら」は誰なのか、というこの映画最大の謎が解けても、まったくカタルシスがない。
そもそもカタルシスが得られるような話でないのだろうけれど…。
興味深いシーンもあるにはある。
諜報機関、といってもそれは国の役所みたいなもので、そこで働いてる人たちは昼になったら建物を出てふつうにメシ食いに行ったり、ほかの会社のようにクビになったりしている。
人の命や国の命運にかかわる仕事をしながら、彼らはそのへんにいるフツーの勤め人に見える。
その業務的な風情が妙にコワい。
サーカスを解雇されたコニーは見た目はそのへんのおばさんだが、彼女やメンバーたちがまだ若かった「戦争の時代」を「誇りのあった時代」と懐かしがる。
異国で惹かれあった女性イリーナが捕らわれたプリドーの目の前で殺されたことも知らずに、彼女を救うために奔走するリッキー(トム・ハーディ)。
直接的な描写はないが(ふたりが仲良く写っている写真がある)、これもやはり惹かれあっていたのだろうプリドーとヘイドン(コリン・ファース)。
このあたりはエモーショナルなものを感じはする。
登場人物たちが着ているスーツ、施設の内部、車。
70年代を忠実に再現したのだろう衣装や美術はアーティスティックだし、出演者たちの抑えた演技もいい。
イギリスが舞台ということもあって出演者のほとんどが英国人俳優だが、その多くが現在ハリウッドでも活躍中なので、あらためて「この人たちはイギリス人だったんだな」と意識させられた。
会話のなかにしばしば出てくる「bloody」という単語は、アメリカなら「fuckin'」みたいな意味だろうか。
僕はぜんぜんくわしくないんで勝手な想像だけど、映画全体に「イギリスっぽさ」みたいなのが充満していたように感じた。
もっとも監督のトーマス・アルフレッドソンはスウェーデン人なのだが。
あと、これは地味に僕がはじめて観たマーク・ストロングが悪役以外で出ている映画かもしれない(いや、ディカプリオ主演の『ワールド・オブ・ライズ』があったか)。
まぁ単純な悪役ではないかわりに善人というわけでもないけれど。
微妙にいつもより髪が増えていたのにはちょっと笑ってしまった。
いや、彼のふだんの頭髪の状態を知らなければなにも可笑しくはないんですが。
『ダークナイト ライジング』ではスキンヘッドに特殊マスク、筋肉ムキムキの世紀末救世主伝説に出てくる敵みたいなキャラクターを演じていたトム・ハーディが、今回は髪のある役(笑)で出てる。
ベイン役のイメージがまだ残っているので、逆に髪があると不自然な感じすらする。
ほかのキャストと見くらべても、じつはそんなにタッパがある人じゃないんだよね(バットマンのクリスチャン・ベイルの方が背が高い)。
今回も涙を見せていたけど、ベインが最後はウエットなキャラになっちゃったようにじつはけっこう繊細だったり涙もろい役が似合う人なんだな(彼がベイン以上にマッチョなハードコア・ファイターを演じた『ブロンソン[感想はこちら]』や『ウォリアー』が観たい)。
英国王を演じたこともあるコリン・ファースが、今回はまた『シングルマン』のときみたいな役を演じている。
彼とマーク・ストロングの「アッー!」な関係を想像して萌えるお姉さま方もいらっしゃるかもしれない。
だってあのマーク・ストロングが涙流すんですぜ、コリンのために(なにを嬉しそうに…)。
なんというか、渋いオジサンたちを鑑賞するような映画でしたな。
なぜかたまに池(?)みたいなとこで泳いだりしているスマイリーは、ほとんど自分で手を汚すことはなく、彼の部下だったピーター・ギラム(『戦火の馬』やTVドラマ「シャーロック」のベネディクト・カンバーバッチ)に働かせ、実働部隊のリッキーの情報で「もぐら」を追いつめる。
スマイリーは元上司なわけだから命令一つで部下たちを動かせるのはわかるんだけど、なんだかなぁ。
どうも彼自身が重大な責任や高いリスクを負ってるように見えなくて。
失敗しても仕事辞めれば済む程度なら、たいしたことではないように思えてしまう。
MI6のスーパースパイ、ジェームズ・ボンドが派手に活躍する世界とは大違い。
まったく激しさを見せることがなくゆるんだ体躯で枯れたような、しかしおそらく若い頃には人も殺したのだろうと想像もさせる初老のヴェテラン諜報員スマイリーは、クリストファー・ノーランの「バットマン」シリーズでオールドマンが演じたジム・ゴードン本部長をさらにシブくしたような感じで、まさにこれがいま現在の彼の代表作ということなんだろう。
彼にセクシーさを感じる人には、きっとその仕草や表情を観ているだけで至福の時間に違いない。
でもゴードン本部長の方が、まだ可能なかぎりはみずから動き回っていた分だけ僕は好きだ。
スマイリーの妻アンは意図的に顔がよく見えないように撮られているが、無論「じつは彼女が黒幕だった」みたいな『ミッション:インポッシブル』とか007シリーズのような展開にはならない。
仕事においてはときに非情にも見えるスマイリーだが、アンに去られて孤独を噛みしめている姿は、疲れたただの男だ。
ヘイドンに利用されて彼と浮気もしていたアンは、しかし意思をもったひとりのキャラクターとしての人格すらあたえられていない。
あえて描かれないがゆえに、スマイリーにとってもっとも大切な存在だということが強調されてもいる。
映画を観るかぎりでは、アンはスマイリーの“男性性”の象徴のように思えた。
そうでなきゃ、夫が調子が悪いときに家出して仕事に復帰した途端にもどってくるなんて都合が良すぎるだろう。
そんなわけで、最後にアンがスマイリーのもとにもどってきてこの映画は終わる。
なんだか「一件落着」みたいなエンディングだけど、おもいっきり違和感があった。
いっぱい人死んでますからね。
回想と狙撃シーンのモンタージュのバックにフリオ・イグレシアスの明るい曲が流れるラストは、ちょっと「ゴッドファーザー」シリーズを思わせたりもして悪くはないが、僕は観終わってもむなしさだけを感じたのだった。
国を守るために命を懸けて奮闘している人々がいることはわかったが、僕にはこの映画で描かれた人の死はみな無駄なものに思えた。
死ぬ必要などない人々が痛めつけられ、死んでいた。
この映画にヒューマニスティックで普遍的なテーマを見いだす人もいるみたいだけど、残念ながら僕にはわかりませんでした。
「友情」や「忠誠心」、または「郷愁」など、多分この映画で描かれていたのであろうことが映画を観ているだけでは伝わってこなかった。
ひどく息が詰まりそうな映画で、観終わったあとはどっと疲れた。
『ぼくのエリ』にも感じた「格調高さ」みたいなのは十分すぎるほどありましたよ。でも僕にはちょっと高尚すぎたようだ。
大人の映画、だったのかなぁ。
Julio Iglesias - La Mer ラストシーン【ネタバレ注意】
※ジョン・ハートさんのご冥福をお祈りいたします。 17.01.27
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