中島美嘉「接吻」 | 牧歌組合~45歳からの海外ミュージシャン生活:世界ツアーに向けて~

中島美嘉「接吻」

中島美嘉
接吻


オリジナル・ラブ
変身



■松永+屋敷リズム隊の

ミュートビート


ナンバー・ゼロ・バージン・ダブ

■松永孝義ソロ


松永孝義
The Main Man


■屋敷豪太参加

シンプリー・レッド作品

Simply Red
Stars


■ミュート・ビート作品

FLOWER


LOVERS ROCK


MARCH


DUB WISE


LIVE

■松永氏の仕事


曹雪晶
恋唄・二胡


スティーヴ・サックス
癒~二胡~

スチャダラパー
大人になっても

YOU
カシミヤ


Port of Notes
Evening Glow(通常盤)


小川美潮
ウレシイノモト
(↑老人Z、テーマ曲入り)


上原さくら
Cherish


JAGATARA
それから



中島美嘉
LOVE

【このコンテンツは批評目的による田島貴男氏、松永孝義氏の音楽の引用が含まれています。音楽の著作権は著作権者に帰するものです。また、個人的耳コピのため音楽的には間違った解釈である可能性もありますが、故意に著作権者の音楽の価値を低めようとするものではありません。著作権者の権利、音楽の美学を侵害した場合いかなる修正・削除要請にも応じます】


 矢沢あい原作コミック『NANA』の映画に主演する中島美嘉2003年のシングル「接吻」を採り上げてみよう。オリジナル・ラヴ、1993年リリース「変身」の収録曲(田島貴男作詞作曲)のカヴァー。中島美嘉嬢の禁欲的かつ妖艶な素晴らしいヴォーカル。そして、このレコーディングには、日本の誇る、素晴らしいミュージシャンたちが参加している。


 プロデューサーはケツメイシ、Ackee & Saltfish、Moomin、Pushim、Fire Ball などと共演しているマルチ・レゲエ・プレーヤー森俊也氏(Rockin Time)。


 森氏はこの曲を、まるで聖歌のような、オーセンティック・レゲエに仕立てたのだが、そのための土台として日本最強のリズム・セクションを招聘した。松永孝義(ベース)+屋敷豪太(ドラム)という元ミュートビート(MUTEBEAT)のリズム隊である。


 松永孝義氏は、UA、スチャダラパー、くじら、カルメンマキ、ジョー山中、小沢健二、トマトス、じゃがたら、Lonesome Strings、Port of Notes、小川美潮、ハシケン、YOU、上原さくら、リングリンクスなどのレコーディング、セッション・ツアーメンバーとして活躍する日本を代表するベーシスト。小松亮太を輩出した「タンゴクリスタル」のメンバーとしてタンゴ界でもコントラバス奏者として活躍。藤沢蘭子のバンド・メンバーも経験し、タンゴの本場アルゼンチンのミュージシャンからも高く評価されている。無論、レゲエ・ミュージシャンとしてのジャマイカからの評価も高い。力強く、無色な低音はジャンルを超えたミュージシャンから愛され、信頼されている。2004年7月、ソロアルバム「メイン・マン」を発表した。


 屋敷豪太氏は、MUTE BEATに参加後、88年に渡英、89年に Soul II Soulのシングル「Back To Life」に参加、91年にはシンプリー・レッド(Simply Red)の正式メンバーとしてアルバム「Stars」のレコーディング、ワールド・ツアーに参加している。ビョーク、スウィング・アウト・シスターの録音にも参加した世界を股にかける京都出身のドラマーである。


 とまぁ、最高の素材(=田島氏の名曲)+最高のリズムセクション(=松永ベース、屋敷ドラム)+最高のヴォーカル(=美嘉嬢)から成り立つ素晴らしすぎる逸品。今日はこのコード進行、及び松永氏のベースプレイを追うことで、この名録音を解析してみよう。キーはDbメジャーだ。


【I】
 長
|4/4 Ab7 11 |Ab7-Gdim|


 ストリングスの美しいイントロ。


【A-1】

*** *** *** ***
|GbM7 |F7 |Bbm7 |Eb7|
*** *** *** ***
|Ebm7 |Ab7 |B7 9/Db |DbM7-Gdim|


 いきなりサビから入る構成。コード進行は、

 ⅣM7-Ⅲ7-Ⅵm7-Ⅱ7

 Ⅱm7-Ⅴ7-♭Ⅶ7-ⅠM7-#Ⅳdim

フラットがついているので複雑なコード進行と一見思えるが、非常にシンプルで理に適った進行である。7小節目の♭Ⅶ7を除いて考えると、

 ⅣM7→Ⅲ7

と短2度下降(参照 )した後はⅢ→Ⅵ→Ⅱ→Ⅴ→Ⅰと完全4度上昇を繰り返す(参照 )だけだからだ。7小節目の♭Ⅶ7の挿入は、Ⅴ7→Ⅰのドミナント・モーションを装飾するサブドミナントマイナー。所々でマイナー・コードであるべきものがメジャーになっているのはドッペル・ドミナント。8小節目Ⅰ→#Ⅳは、減5度上昇(参照 )。全てに無理の無い進行。注目すべきは、マッタリとした至高のグルーヴを作り出す、松永孝義氏の、腹の底から歌うようなベースライン。


   GbM7              F7
   +   +   +   +     +   +   +   +
G:-----------------|-----------------|
D:-01--------------|-01--------------|
A:-----------------|-----------------|
E:---222-22-22-----|---111-11-11-----|
   Bbm7              Eb7
   +   +   +   +     +   +   +   +
G:-----------------|-----------------|
D:-----------------|-01111-11-1------|
A:-01111-11-14-----|-----------4-----|
E:-----------------|-----------------|
   Ebm7              Ab7
   +   +   +   +     +   +   +   +
G:-----------------|-----------------|
D:-01111-11-1------|-01--------------|
A:-----------4-----|-----------------|
E:-----------------|---444-44-44-----|
   B79/Db            DbM7        Gdim
   +   +   +   +     +   +   +   +
G:-----------------|-----------------|
D:-----------------|-----------------|
A:-34444-44-44-----|-34444-4/11------|
E:-----------------|------------\3---|

 

 「/」はスライド・アップ、「\」はスライド・ダウン。各小節の頭に入る「開放減→ハンマリング・オン」フレーズが、曲のマッタリ度、いなたさ度を過剰に高めていることを実感して欲しい。日本でこういうカッコいいフレーズを、さりげなく、そして沈着に作れるのは松永氏のほかには、あまりいないと思う。決して、喧しくない。心の底から歌うようなフレーズ。凡庸なベーシストではもっと鬱陶しいフレーズになるだろう。

【A-2】

*** *** *** ***
|GbM7 |F7 |Bbm7 |Eb7|
*** ***
|Ebm7 |Ab7|


 サビの繰り返し。だが、7~8小節目を省略して次へ進む。ギター、キーボードはコード感を感じさせた上で、拍の裏打ちを入れる。


【B】

|Ebm7 |Gbdim |Fm7 |Bb7|


 ここはインスト。 そして歌のメインテーマとなる。コード進行は、

 Ⅱm7-Ⅳdim-Ⅲm7-Ⅵ7

で、2小節目のⅣdimはⅦdimと構成音が同じだから、Ⅱ→Ⅶと長6度上昇した後、長4度上昇を繰り返したもの。転調されたと仮定してⅡm7をⅠmとするならば、Ⅰ→Ⅵ→Ⅱ→Ⅴという循環コード(参照 )に過ぎない。名曲というものは、決して突飛なことをしないものなのだ。ベースラインは

   Ebm7              Gbdim
   +   +   +   +     +   +   +   +
G:-----------------|-----------------|
D:-01111-11-1------|-01--------------|
A:-----------4-----|-----------------|
E:-----------------|---222-22-22-----|
   Fm7               Bb7
   +   +   +   +     +   +   +   +
G:-----------------|-----------------|
D:-01--------------|-----------------|
A:-----------------|-01111-11-11-----|
E:---111-11-11-----|-----------------|

 【A】と同じく、拍頭のアクセントがカッコいい。そして美嘉嬢のアンニュイなヴォイスが乗っかってくる。ゾクゾクゥ。


【B】

*** *** *** ***
|Ebm7 |Gbdim |Fm7 |Bb7|
*** *** *** ***
|Ebm7 |Gbdim |Fm7 |Bb7|

【C】
*** *** *** ***
|Abm7 |Db7 |GbM7 |B7|
*** *** *** ***
|Fm7 |Ebm7 |Ab7 11 |Ab7-Gdim|


 【C】パートはサビ【A】へ戻るためのブリッジ。コード進行は、

 Ⅴm7-Ⅰ7-ⅣM7-♭Ⅶ7

 Ⅲm7-Ⅱm7-Ⅴ7-#Ⅳ

1小節目いきなりドミナントⅤ7をマイナー化、2小節目トニックⅠ(本来はⅠM7のはず)をⅠ7とマイナー7th化していて、コレがかなり印象的だ。理論的説明はちょっと解らないので、今後の課題ということで。 多分3小節目(ⅣM7)に繋がるために、2小節目はドッペル・ドミナントとしてⅠ7に、更にⅤ→Ⅰをツーファイヴ化するために、Ⅴm7となっているのだろう。このコードアレンジは絶妙だ。1段目は完全4度上昇だけ。4~5小節♭Ⅶ→Ⅲは減5度上昇進行。その後ツーファイヴ(Ⅱm7-Ⅴ7)、短2度下降(Ⅴ-#Ⅳ)。オリジナル・ラヴ、田島先生の作曲術、完璧。。。徹底された美学を感ずる。松永先生のベースラインは以下。


   Abm7              Db7
   +   +   +   +     +   +   +   +
G:-----------------|-----------------|
D:-01--------------|-----------------|
A:-----------------|-34444-44-44-----|
E:---444-44-44-----|-----------------|
   GbM7              B7
   +   +   +   +     +   +   +   +
G:-----------------|-----------------|
D:-----------------|-----------------|
A:-34--------------|-12222-22-22-----|
E:---222-22-22-----|-----------------|
   Fm7               Ebm7
   +   +   +   +     +   +   +   +
G:-----------------|-----------------|
D:-01--------------|-01111-11-11-----|
A:-----------------|-----------------|
E:---111-11-11-----|-----------------|
   Ab7 11            Ab7         Gdim
   +   +   +   +     +   +   +   +
G:-----------------|-----------------|
D:-01--------------|-01--------------|
A:-----------------|--------/11------|
E:---444-44-44-----|---444-4----\3---|


 全体の構成は、

 【I】→【A-1】→【A-2】→【B】(インスト)→【B】×2→【C】

 →【A-1】→【A-2】→【B】×2(インスト)→【B】×2→【C】

 →【A-1】→【A-2】→【A-1】→【A-2】→【A-1】

でフェイド・アウト。


 とにかくグルーヴとは何たるか、滅茶苦茶解る曲なので、CDをまわしながら、楽器を弾いてみて欲しい。気持ちいいですよ。

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■関連リンク:屋敷豪太公式サイト

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