最近の弘法は筆を選ぶ | 大阪肛門科診療所 院長 佐々木いわおブログ──『過ぎたるは及ばざるにしかずだよ、佐々木君』

大阪肛門科診療所 院長 佐々木いわおブログ──『過ぎたるは及ばざるにしかずだよ、佐々木君』

「切りすぎた肛門は元には戻せないんだよ・・」故隅越幸男先生の言葉をいつも心の真ん中に置いて「切りすぎない手術」「切らない肛門診療」を追求する肛門科専門医が、手術のこと、治療のこと、日常のことを、綴ります。

若い頃勉強させて頂いた社会保険中央総合病院でのお話です。

当時、故隅越幸男先生はすでにご高齢でしたがまだ手術をされていて、私も時々助手をさせて頂きました。

隅越先生は、日本の肛門科を長年にわたって引っ張った第一人者で、数年前に亡くなりました。

私たちの世界では今でも隅越の名を知らない者はおりません。

なにせ、痔瘻の分類で最も標準に利用されているのが隅越分類なので、イヤでも覚えるのです(^_^;)

私にとっては、隅越先生と一緒に仕事をさせて頂いたことは、大変な誇りです。

このブログのタイトル「過ぎたるは及ばざるにしかずだよ、佐々木君」も隅越先生のお言葉から頂戴しております。

 過去の記事 過ぎたるは及ばざるにしかず


さて、ある日の手術室。

隅越先生が「はい、メスちょうだい」とおっしゃって、リラックスした雰囲気で手術が始まりました。


私   「あれ?隅越先生、今日はここの部分、メスで切られるんですね。いつもはハサミなのに・・」

隅越先生「うん?ああ、何でもいいんだよ、切れればさ(笑)

私   「え?・・(一瞬驚愕)・・そうなんですね。やっぱり『弘法筆を選ばず』ですね、恐れ入りました。」

隅越先生「・・・でもさ、最近の弘法は筆を選ぶらしいよ?

私   「?」

隅越先生「最近はさ、学会でも、どの道具がいい、とか、いやいや、こっちの道具の方がいいとか言ってるじゃない。」

私   「はあ?・・」

隅越先生「道具をうまく使えることが、弘法だって思っている人が多いんだよね・・


診療所のセラピードッグ、ラブです。
高いところは本当は苦手なのですが・・
ラブ君に座布団2枚!!



私はぐうの音も出ませんでした。

確かにその当時、肛門科ではYAGレーザーという手術機械が大流行していました。

しかし社会保険中央総合病院にはありませんでした。

多分、隅越先生はいらないと思ったのでしょう。

道具じゃない、もっと大切なものがあると確信しておられたのだと思います。

そして、その後YAGレーザーの流行は廃れました。

その後も様々な治療法が、一世を風靡しては消えてゆきました。

今も、同じ事が繰り返されています。


流されないように、本質を見極めることのできる肛門科医になりたいものです。