天才 | 大阪肛門科診療所 院長 佐々木いわおブログ──『過ぎたるは及ばざるにしかずだよ、佐々木君』

大阪肛門科診療所 院長 佐々木いわおブログ──『過ぎたるは及ばざるにしかずだよ、佐々木君』

「切りすぎた肛門は元には戻せないんだよ・・」故隅越幸男先生の言葉をいつも心の真ん中に置いて「切りすぎない手術」「切らない肛門診療」を追求する肛門科専門医が、手術のこと、治療のこと、日常のことを、綴ります。

故 隅越幸男先生にまつわるエピソードです。

隅越先生は日本の肛門科の一時代を築かれた巨人(小柄な方でしたが)で、数年前に亡くなりました。

私は若い頃、隅越先生に3年ほど教えていただく事ができました。

その施設でのことです。

長年隅越先生の元で仕事をされていた、私の上司が話してくれたエピソードです。


「隅越先生の手術はね、まねできないんだよ。

鼻が効くって言うかさ。

昔に手術の時にさ、隅越先生が言うんだよ。

『なんかおかしいよ。なんかあるよ。』

それで探してみたらさ、本当に具合の悪いことが見つかるんだよ。

上手いだけなら努力すればまねできそうだけど、努力してもまねできない何かがあるんだよ。

あの人は、天才なんだよ。」

私は高齢になられてからの隅越先生しか知りませんので、そういう場面には出会いませんでした。

しかし、それを話す上司の口ぶりから、ものすごい切れ味の手術だったことは想像できました。



境港市の水木しげるロードにて。
種類は違うのでしょうが、すごい切れ味の仕事かと。


その話には続きがあって、さらにこう続きました。

確か、大体こんな内容だったと思います。

(細かい状況は違っているかも知れません、すみません)


「でもさ、隅越先生は誰よりも勉強していたよ。

オレ(上司)が若かったころに、ある朝すごく早くに医局(注)に行ったらさ、

隅越先生がコート着て、立ったまま教科書読んでるんだよ。

英語のさ。

すげえ寒い朝でさ。

暗い中で一人で立ったままでさ。

びっくりしてさ。

声掛けられなかったよ。

なんか鬼気迫る雰囲気でさ。

隅越先生は天才なんだよ、でもすげえ努力してたなあ。」


(注)医局 : 医者の控え室のこと。多くの場合、医師はこの部屋の中に机を与えられて、研究・執筆・事務仕事・食事・雑談・仮眠・・・などをする。学校で言う職員室みたいなもの。