台詞を発するということ。 | オーディオキネマ 研ぎ師伊之助深川噺

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声優の仕事というのは、

つくづく面白いものだと思ってしまいます。

それは、

やはり、

舞台や映像ドラマの演技と違い、

「声のみの表現」というしがらみのせいでしょうね



このしがらみの条件の中で、

かつての声優達は、

その「声」に、

目一杯の表現を盛り込んだんですよね

昔のアニメ映画や外画を観ていると、

そんな彼らの表現の鋭さ、賢さ、繊細さに、

ただただ感心させられてします




私は、

新人声優さんにも、

常に高い演技を求めることにしています。

それは、まさにベテラン級の演技表現を求めるのです。

その理由は唯一つ、

末永くお付き合いをさせて頂ける声優さんを探しているからですね

私の制作人生において、

いつかはメインキャラクターをお願いできる方との出会いを探しているのです。

(制作パートナーの様な存在ですね

ですから、

そんな片鱗を感じる声優さんとの出会いを求めているのです




演技というものは、

ある意味、

人に見せた時(初見)が大事で、

そこでどれだけ周囲を魅了できるかが命だと思っています

なぜならば、

ここで物足りなさを感じさせる役者さんは、

明らかに、

準備作業を怠る方だからです・・・・

こういった場で、

もしも、その声優さんの表現が間違っていても、決して構いません。

そんなことは全く問題ではないのです

なぜならそれは、

ただ、シナリオの分析や解釈が、

脚本家や演出家と違っていた・・・ということですからね。

そんなことは、

少しの時間話し合えば、

難無く解決に至る問題であることがほとんどです

重要なのは、

とことん準備をして見せてくれる声優さんかどうかが問題なのです。




でも・・・・

最近の新人さんの演技を拝見していると、

そもそも、

「シナリオの台詞を演技する」

という意味すら分かっていない方に出くわすことが多いのです・・・




台詞とは、

会話ですから、

シーンの中の台詞というのは、

全体が密接に結びついているものです。

それらは何で結び付くかと言うと、

であり感情で繋がっているのです。

ですから、声優さんは、、

その結び目をしっかりと考えておく準備をすることが、

仕事の大部分を占めることになるのです




例えば、

こんな台詞があるとします。
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道場主
「貴様など当道場にふさわしい武士とはいえぬ。
その金を持って立ち去るがいい!」

半四郎
「・・・お師匠。どうか拙者とお凛どのとの間をお認め下さい!
半四郎、これまで同様鍛錬に励みますゆえ」

道場主
「勘違いするなよ、半四郎。貴様の腕前でワシの跡目を継ぐつもりであったか!
さいわい我が娘の縁組は、昨日滞り無く済んでおるのだ」

半四郎
「な、なんと!」

道場主
「お相手は、お前の親父の主である小納戸頭取高瀬様のお子息である!」


「お、お師匠様・・・」

道場主
「呼ぶな!不愉快な!」

半四郎
「・・・図りましたな・・・お師匠」

道場主
「フンッ・・・黙ってこの国を去るがいい。さもなくばお主の父親がどうなるか、
分からぬ貴様でもあるまい」

半四郎
「くくっ!・・・・許せぬ」

半四郎、左手で静かに大刀の鯉口を切る。
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ざっくりと書いてみました。

テキトーなので、細かい内容や質の悪さはご容赦下さいね



この二人のやりとり、

演技はし易いかと思います。

怒りや緊張感が大切なのは一目瞭然ですよね。




しかし、

先にも述べましたが、

結び目が大事なのです

ここの繊細さ、その読み込みが演技の質を作用するのです。

ここからが大切です

ちょっと単純に考えてみましょう




一人が台詞を発すると、

相手の心にはリアクションが生まれます。

これが①。

リアクションの後には、

ある種の感情が芽生えます。

これが②。

その感情を吐露するか、もしくは隠すか(押さえつけるか)、

それは分かりませんが、

相手はここでやっと言葉を発するのです。

これが③となります。

この①~③までの心模様を、

全ての台詞の行間に考えることが大切な準備作業なのです。

そして、

この心模様の表現を、

それぞれ自分の台詞に盛り込める声優だけが、

プロの現場へと導かれるのです




私のミニ台本では、

半四郎君の驚き、

そして、師匠への忠臣、

裏切りからの失望、

沸き起こる怒り、

狂った欲望と殺意、

などなど考え始めたらいくらでも考えられますね




人は、

常に無意識に、

受けとる言葉にリアクションを取り、

その後、心情を浮かべながら言葉を発します。

発せられる言葉は、

その人物の人柄や、その場の状況によって、

千差万別です

ここをリアリティーをもって組み立てられる声優さんが、

私は大好きなのです。

間違っても、

こういった時間を無視して、

台詞の文字だけで雰囲気(空気)を察して演技をする・・・・

なんてことがあってはならないと思っています




これを訓練することは、

ちょっと大変なように感じるのですが、

プロの声優さんとは、

ここの自由を楽しんでいるのです

ここの繊細なパートは、

声優さんの持つクリエイティブな能力を存分に発揮する行程です。

ここの準備は、

誰にも邪魔されない声優さんだけの聖域みたいなものなのです




私は思うのですが、

トレーニング中の声優さんも、

ここを楽しまなくては、

何にもならないということなのです

この作業を楽しむ人が、

もっともっと増えていくことを望むばかりですね。

これこそが、

レコーディングの現場で、

もっとも盛り上がるところですからね




オーディオキネマ(脚本・演出)
山中勇人



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