ゾンビ映画製作回想録 第15回 | 地獄のゾンビ劇場 ~ZOMBIE THEATER~

地獄のゾンビ劇場 ~ZOMBIE THEATER~

「地獄の血みどろマッスルビルダー」監督・深沢真一によるホラー映画雑学&雑談ブログ!

「シナリオ修正地獄3」

 

共同製作者の田中君(仮名)が、
シナリオの細部にまで口むのには理由があった。

 

この企画を持ちかけた際、
彼が希望したのは、共同監督、共同脚本。
しかしそれには私が難色を示した。
結果、彼の方が一歩引き、製作者という立場から関わることになった。
彼によれば、
「製作者という客観視出来る立場の人間がいることにより、
作品は確実に良くなる。
たいていの映画はディレクターズ・カット版より通常版の方が面白い」

とのことだった。

 

つまり、彼としても作品をより良くしようと思っての口出しだった。

 

でもこれは自主映画。

 

自分の思うようにやりたい。
そのために全貯蓄を製作費に注ぎ込もうと決心したわけだし。
製作者としての介入は、
私が一人よがりに走らないよう助言する、
程度に留めておいて欲しかった・・・・・

 

とにかくシナリオに関しては彼と随分やり合った。
手紙でのやり取りのみに留どまらず、
仕事を終えた後、私の実家の向かいにあるファミレスまで御足労願い、
深夜まで激論を飛び交わした。

 

具体的にどんなことで意見が分かれたのだったか。


まず思い出されるのはヒロイン「美香」の性格のこと。

 

ジャーナリスト。性格は勝ち気。
幽霊屋敷の取材に主人公を誘う。
主人公の元恋人で、
いい加減な性格の主人公に愛想を尽かして別れている。
振った男に取材の協力を求めるくらいだからちょっと図々しい。

 

私はヒロイン美香のキャラクターをこう設定し、
それを基に行動させた。
当然ながら、少なくとも人並みにはおしゃべりな女性となった。

 

これに対し、
「セリフが多過ぎる。よくしゃべる女だな、と思った。
 か弱い女とたくましい男、という図式の方が良いのでは?」

というのが共同製作者の意見だった。

 

私は、ヒロインの性格は詳細なバックボーンに基づいたもので、
変更できない、と伝えた。

 

「それでも美香のセリフは切るべきだ」
田中君は再度そう主張。
理由は
「まともにこのセリフを言える素人役者はいないと思うから」
演技力の乏しい役者が美香を演じることになった場合、
しゃべらせることにより映画が壊れる。
それが恐いから、自分は無セリフ映画ばかり撮ってきた。
とのこと。

 

一理あるがそれを言い出したら、
ヒロインは無口な暗い女性以外に設定できない。

 

役者さんの演技力不足に備えて、最初からセリフを無くしておこう!
なんて、私にはとても考えつかない発想だった。
誰が演じようとも、私が必要と思ったセリフは全て言って欲しい。
下手でも出来る範囲で頑張って言って欲しい。

 

この件に関し、
私はファミレスでの会議で詳細に説明して彼を説得した。
土曜の晩だったと思う。
私は公休日。塚田君は仕事を終えてかけつけてくれた。

 

  美香の性格は、
  主人公の青年、直人の性格を描き出すため最適に設定されている。

 

  直人は亡くなった両親の遺産で気楽に暮らす青年。
  心配する人間もいないので、
  面倒は避け、好きなことだけやって生きている。
  好きなこと、と言っても決してギャンブルなどではなく、
  肉体を鍛えること。
  一言で言い表すと、消極的なポジティブ人間。ついでにマッチョ。

 

  この一風変わったキャラクターの魅力を、
  ヒロイン美香とのからみの中で引き出して行きたい。

 

  勝ち気でちょっと自分勝手な美香が直人にくってかかる。
  自分で幽霊屋敷に誘っておきながら、
  閉じ込められゾンビまで現れる事態に至ると、
  「ちょっと、どうするつもりよお!?」
  などと理不尽なことを言う。

 

  気の強い元恋人にせっつかれ、追い詰められて、
  直人も気楽に構えてなどはいられなくなる。

 

  恋人を守るために戦う男にならなければならない。

 

  ここで主人公の変化、成長を描くことができる。


  美香のキャラクターはそこまで考えて設定されたもの。
  従って無口なか弱い女性にはできない。

 

「言わんとすることは判ったけど・・・・・
 それ、ほんとにやる必要あんの?」


田中君、登場人物については企画段階での、
「マッチョなヒーローがゾンビ相手に大暴れ」
というレベルの設定で十分だと考えているようだった。

 

確かに、それだけの方が単純で面白くしやすい・・・のかも知れない。
私とて「主人公の人間的な成長を描くのだ」
などと言って、説教臭い映画にする気は毛頭無い。
ただ事件を通しての人物の心境の変化や人間的成長、

今回は描いてみたい。
あってもいいと思う。
無いよりはあった方がいいと思う。

 

私は説得を続けた。

 

  今回、登場人物にリアリティを持たせるため、
  個々の背景を詳細に設定した。
  その一つとして、美香が過去、直人に愛想を尽かしている、
  という裏設定がある。
  で、人間的に成長してゆく直人を美香が見直す、
  という方向に持って行ければ・・・・・

 

「フッ」
聞いていた田中君が鼻で笑ったのを、
私は見逃さなかった。

 

「まあ、判らなくも無いけど、やらない方がいいと思うよ」
呆れたように田中君は言った。

 

それ以上の議論は無駄に思えた。

 

この件に関し、私は自分の考えを押し通す事にした。
もともと私の意見を優先する、という約束だったので、
彼も無理強いはしなかった。

 

が、正直思った。

なんか・・・窮屈。

 

 

 


映画(オカルト・ホラー) ブログランキングへ

にほんブログ村 映画ブログ ホラー・サスペンス映画へ
にほんブログ村