このカウンターにも世話になり -伊勢元酒場(八広六丁目) | 丁稚烏龍帳

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today,detch stood live on the earth,too…

 丸好をあとに、買物があるというm蔵さんとお別れして、ご近所と二人で向かった先は、伊勢元酒場。

 今日も赤提灯が揺れています。八広駅から道に出て、遠くにポツリこの赤い光が見えると、なんだかホッとするんですよね。最初のうちは、親父さんが強面な感じがして腰が引けていたんですが、通ううちに顔をおぼえてもらえて、掛け合いが楽しくなってきたんです。少しずつ夕方の常連さんたちとも、面が通じるようになってくると、その酒場がますます好きになってきます。


丁稚飲酒帳-納めボール2  暖簾をくぐると、こちらも今日も盛況ですねぇ。テレビ下にちょうど並んで空いていた二席に腰掛けます。言わずと出てくるハイボール、こちらのボールにも、今年もお世話になりました。

 思えばニホンシトロンが廃業したのが今年の四月の出来事、この伊勢元の炭酸もドリンクニッポンに置き換わって、あの頃のような瓶によってはのどが灼けるような強烈なキックバックは味わえなくなりましたが、琥珀色の液体が生み出す伊勢元ボールの味わいは変わっていません。ここのボールも優しくて、空きがこなくて何杯でも飲める味わいなんですよね。

 

 

 いいボールの条件って、僕は飲み飽きないことだと思うんです。特徴的な味わいのあるボールは、時にその香りや味が鼻について、飲み飽きてしまうことがあります。それに対して、この伊勢元や丸好、あとは江戸っ子や岩金などもそうですが、押さえた風味で途中で味を変える必要のないのが、僕にとってのいいボールなんです。しかも、それでいて決して無個性ではないというのも、大事なところです。

 

 

 


丁稚飲酒帳-とろっとろすじ煮込み  さてさて、あては…と親父さん手書きの黒板を見てみると、お「レバ刺し300円」の文字がありますぞ。これは聞いてみなくちゃ…と、「ごめん、切れちゃった」とのお返事。あらら、さすが人気メニューですね。では、次善に考えていたすじ煮込みをお願いします。

 

 

 

 と、先ほどの丸のボールがきいたかな、ちょっとはばかりへ。伊勢元の店内構造は、暖簾の正面を短辺にしたL字カウンター、その長辺の先端部分におトイレがあります。さーっと小用を足して出ていくと、常連Hさんから「お、早いな、少年」…三十路も半ばになって少年もないものですが、このお父さんはよく僕のことをこう呼んでくれます…「いや、若いから切れがいい」と切り返すと、お隣のケンちゃんもろとも「よく言った」と笑ってくれます。んー、先ほどの丸好もそうだけど、お客さん同士の笑顔があるお店って楽しいんだよなぁ。

 

 

 

 ほどなく温まってまいりましたすじ煮込み。この煮込みは熊さんも太鼓判の一級品。塩味のスープに牛スジの出汁が染み出して、これがまた温まる。さらにとろとろに煮込まれた牛すじ肉をかみしめると、ゼラチンのねっとり感が味わえてたまりませーん。秀の小さめに切られたすじ肉もいいけど、伊勢元のこの大ぶりのすじを食べると、関西人に生まれてよかったーと思うんだろうなぁ…と思います。以前、秀に京都出身の方をお連れした時に、そう言われたもので、たぶんこちらも気にいっていただけるだろうなぁと(笑)。ああ、京都行きたい。

 


丁稚飲酒帳-冬の名物  さてさて温まりメニュー第二弾は、おでんでしょう。厨房の左隅でことこと煮込まれているおでん鍋の蓋が御開帳。

 いつものように「何にする?」と聞いてくれる親父さんに、大根に定番ちくわぶ、それにうまそうに浮いているがんもどきとつみれをお願いします。何が入っているかわからないので、他のお客さんの交渉を聞いて勉強したり、しまったなぁ~なんて思うこともしばしばなんですね。煉り芥子と一緒に出されるこのおでん、これが始まると冬が来たって感じがします。

 肉厚の大根、出汁の染みたがんも、みっしりと詰まった感じのつみれと、いずれもよく味が染みていますが、中でも圧巻がこのちくわぶ。もう溶けだすくらいのとろとろ感、今日はいいとこもらったぞ~。あたしも大抵ちくわぶ好きですが、ここのちくわぶが結構好きなんですわ。ちなみに、実家のおでんにはちくわぶは入っていませんでしたが…。

 

 

 お隣さんが帰ったあとは、これまた顔見知りのNさん、Mさんがお二人でお見えです。先日、最後のお客さんになった時にお付き合いいただいたのがこのお二方でして、「この間はどうも」なんてご挨拶をひとつ。

 


丁稚飲酒帳-温かいカウンター  むこうのHさんたちと親父さんの掛け合いの中で、お引越しの話が出ていますね。こちらでも年始の営業開始と合わせて、ちょいと聞いてみますと「年始は五日から、ほんでもって十日までやろうとおもってるんだ」と親父さん。実は伊勢元さん、このお店を引き払ってお引越しなさるというお話を聞いておりまして、その時期を測ってらしたのです。ちょうど業者さんの都合で、11日に作業が入るということで10日がこちらでの最後の営業になるようですね。

 

 

 冒頭の話に戻りますが、最初は一人で来て常連さん方の話を笑顔で聞きながら、いつか熊さんと仲良くなって、とかげさんと三人で来て突っ伏してしまったり、M蔵さんの注文に「ウーロン茶?…お帰りください」と言って笑うのがいつか定番の掛け合いになって、カウンターをはさんでマスターと一緒にVサインの写真を撮ったり…この白木のカウンターにもお世話になりましたね。

 

 200円のクリームコロッケを食べ、250円のレバ刺しをつまみ、目玉焼きに舌鼓を打って、冬場はおでんで温まる。ここも紛れもなく僕の巣だったんだなぁと、あらためて思います。

 お世話になったお店に感謝、でもお引っ越しされても、きっとまた人の集まる場ができると思います。その中心に親父さんの笑顔と、あんパンをぱくつく姿が見られることを思いながら、年越しのご挨拶をすることにしましょう。また、来年もお邪魔します!

 

 

 伊瀬元酒場 八広六丁目店  年末30日まで年始5日から営業