医学生がする定番アルバイトは、やはり家庭教師。
僕もしたけど、家庭教師のお話は後日に譲ろうと思う。
初めてのアルバイトは、工事現場でのアルバイトだった。
フロム○を見て、ガテン系の人材派遣会社に登録した。
早朝に新大阪の会社の事務所に集合して、同じ仕事先のアルバイトの人間、数人をアルバイトのリーダー格の人間が連れて行く仕組みだった。
アルバイトに入った経験や回数によって、アルバイトの階級が上がっていき、時給も上がっていく。
その仕事先で階級が最も上位の人間が、その仕事のリーダーとなって、リーダー手当てなるものももらえる。
その日のアルバイトのリーダー格のお兄ちゃんは、アルバイトらしからぬ風格漂う、大人だった。
一ヶ月に20回以上は、現場に入っていて、翌日の仕事のために事務所に集合するのが、大変なので、ほとんど事務所に寝泊りしていると、アルバイトのリーダー格のお兄ちゃんは言っていた。
カッコいい革ジャンを着ており、「すっごい稼いでるのかな?」
と思った覚えがある。
初仕事は、ビルの工事現場、もう建物自体は、すっかり出来ている。
軍手は各自持参で、事務所で安全ヘルメットを渡された。
現場監督のおじさんと、アルバイトのリーダー格のお兄ちゃんの簡単な打ち合わせの後、作業開始。
建物の外に駐車されたトラックで搬入された、一枚一枚が結構重い合板のパネルを数枚束ねて持って、階段をダッシュして四階に持って上がるのが、最初の作業だった。
力には自信があった。アルバイトのリーダー格のお兄ちゃんを除いては、同時に行っていたアルバイト4人の中で一番、多くのパネルを抱えて、最も早く走っていた。
ただ現場監督のおじさんには、物足りなく見えたらしい。
「ちょっとしか、パネルもっとらんのに、遅いぞ~、何をちんたら運んでるんだぁ~」
と檄をいただいた。
それからは、もう必死で、必死で
「ぐを~」と歯を食いしばりながら、より多くのパネルを、より早く運ぶことに、すべての力を注いだ。
そしてお昼の予定時間少し前に、無事に午前の部のパネル搬入作業が終了した。
お昼休憩になり、各自が早朝にコンビニで購入しておいた、弁当を路上で座り込んで食べていると、一足先に食事を終えた現場監督のおじさんが、僕のほうに近寄ってきた。
何か、怒られるのかな、と少し身構えたが、ニコッと笑ってみた。
現場監督のおじさんは、上機嫌で
「よく、頑張ったな~、偉い偉い」
と言いながら、僕にジュースをおごってくれた。
二人一緒にジュースを飲みながら、ふと賃金の話になった。
僕は、1時間で1000円いただいてる、と話すと、
びっくりされた。
どうやら現場監督のおじさんの会社自体は、人材派遣会社に、一人あたり、ほぼ倍の賃金を払っている、とのことだった。
「それだけ高い賃金をこっちは、払ってんのに、働きようが足りねぇように思えたから、ついつい怒鳴ってしまって、ごめんな。しかし、えげつない仕組みだね」
と、現場監督のおじさんは、しみじみと話した。
当時は、数多くの人材派遣会社が、栄えていた。
なるほど、人材派遣会社が成長するわけだ、と賃金の仕組みを知って、僕は納得した。
午後からは気持ちを入れ替えて、さらに頑張って働いて、アルバイト初日を無事終了した。
体は疲れ、足や腕が、がくがくとしていたが、何か新しい気持ちでいっぱいになった日だったことを覚えている。