≪ご案内≫

この話はキョーコの誕生日&クリスマス企画として、ななちのブログ のななちさんとスタートさせたコラボ作品です。

ななちさんサイドではキョーコ視点でのお話がUPされていますので、そちらもぜひご覧になってくださいませ。

おかげさまで、このコラボ作品については終着地点へとたどり着くことができました。

今回の話と、蓮編、キョーコ編のUPで一応終了ということになるはず、ですが。

場合によっては番外編等も出現するかも、です(笑)

派生話が出るか出ないか…。私とななちさんの気力体力次第(笑)なので、どうなるかは全くわかりませんけどね。あはは~。



では、以下からどうぞ~v





◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇



光と闇のフォークロア 9 (ACT.6 エピローグ)



 魔王がティア達 『光の勇者』 のパーティーに敗れた後。

 魔族の侵攻もカイルの言葉通りぴたりと止み、あれだけ溢れかえっていた魔族は森の奥深く、もともとの境界線付近で見かけることはあっても、トラブルになることはまずないようになっていた。

 荒廃しかかっていた人々の生活も落ち着きを取り戻して、町にも活気がもどり、復興事業も急ピッチで進められ、平和な日々と平和な時間を人々はようやく手にすることができ、穏やかな生活を送っている。

 驚くべきはその平和な状況は、光の眷属の地のみでなく、闇の眷属のそれも同じであることだった。

 互いの長が歩み寄り、復興に向けて協力し合う体制を作ったことが大きな一因であるだろう。

 その背景には、もちろんティア達のパーティーの面々がその体制作りに協力し、現在もなお活躍しているからに他ならない。ティア自身を除いては…。


 そのティアは、闇の眷属の領域との境に住み着き、静かな生活を送っていた。

 この事実を知るのは、もとのパーティーの仲間と、両眷属の長、そしてその補佐官のみ。

 ティアのたっての希望ではあったのだが、それに加えて 『魔王を倒した勇者』 として何かと振り回される煩わしさを避けるためでもあった。

 事情を知らない人々は、口々に 『魔王を倒した』 ことを讃えるが、それはティアにとっては記憶から消したいほどの辛い瞬間が蘇ることでもある。悪気はないからこそ、よかれと口にするのであろうが、最愛の人を失う瞬間を思い出してしまうことがティアには苦痛でしかなかった。

 だからこそ、人の訪れることの少ない場所に住むことを望んだのだ。



 そんな平和な日々を取り戻してからのとある朝。


 家じゅうの窓を開けながら、近くでさえずる小鳥たちに笑顔を向けてティアは大きく伸びをする。

 そして、徐に振り返ると白いシーツにくるまったベッドの上の人物へ近寄り声をかけた。


「カイル、起きて!出かける時間までに食事ができなくなるわよ!」

「…ん~、もうそんな時間か?」

「そうよ、早く支度しないとまたラギさんが怒って迎えに来ちゃうわよ!」

「……が………ら起きる」

「え?」

「ティアがキスしてくれたら起きる」

「なっ!何朝から寝ぼけたこと言ってるのよ!ほら、起きて!」


 顔を真っ赤に染めたティアがシーツをめくると、そこには悪戯っぽく笑うカイルの姿があった。


「寝ぼけてないよ。そうしてほしかったから言っただけ」

「~~~!!それを寝ぼけたことだと言ってるの!ごはんが冷めちゃうわ、早く着替えて来て」

「わかったよ。…本当に照れ屋だな、ティアは」


 真っ赤な顔をしたまま部屋を出ていったティアの姿を愛おしそうに見送って、カイルは言われたとおりにするべく寝台から足を下ろした。



 時を同じくして、光の眷属の長の屋敷でロッドとアリアが何やら話し込んでいた。


「あぁ、丁度よかったわ、ロッド。この書簡を 『あちらの長』 まで届けてきて」

「んぁ?アリアが行けばいいじゃないか。俺、宿直明けだぜ?」

「だから丁度いいって言ったじゃない。私はいまからし・ご・と、なのよ。 『あそこ』 に行けるのは限られた人間しかいないし、ね」

「…ちぇ。ま、いっか。あの二人に会うのも久しぶりだしな」

「じゃ、お願いね。あ…あと、あの子に 「たまにはこっちに顔出しなさい」 って伝えといて」

「了解」



 最後の決戦から目立った活動を一切せず、静かに暮らすようになったティアと、そんなティアとちゃっかりと一緒に住むことになったカイル。

 彼が魔王であったことを知るものは一部を除いてすでにこの世界にはいない。


 あの時、確かに魔王は 『死んだ』 のだ。


 この世で最も愛する存在―― ティアをも欺いて、彼女を守るため、世界を守るため、自らが滅ぼされることで全てを守ろうとしたが故に。

 だが、カイルの予測が唯一外れることが起きた。

 それは、ティアの想い。

 魔王の城で、ティアを庇ってカイルが倒れ、微笑みながらその命の灯が消えた直後、ティアの心の内に何よりも強い想いがあふれていた。

 そして、想いは願いに変わる。

 ティアが、魔王を倒すことよりも、世界のバランスを維持することよりも何よりも強く願ったこと。それは、本来なら光の勇者として願うべきではないことだったが、ティアにとってはその願いこそが何にも代えがたい唯一のものだった。


――― かえして…私のカイルを…お願い!!


 その願いに応じたものこそ、カイルが導き、手に入れさせた 『光の珠(オーブ)』 だった。


『その願い、叶えよう。勇者の唯一の願いなれば…』


 カイルとティアを中心にあふれ出した柔らかく暖かい光は、不自然な暗闇に覆われていた木々を、大地を、空を、闇の全てを光で覆いつくし、そしてその光の収束とともに穏やかな日差しあふれる緑の大地に辺りが変わり、魔王の城も静かで美しい城へと変わっていった。

 あっという間の出来事に、なにが起きたのか分からず、きょろきょろと辺りを見回す周囲の者たちをよそに、ティアだけはカイルをじっと見つめ、期待に胸を震わせていた。

 ほんの少し前に失われていったカイルの手のぬくもりが再び感じられ、土気色だったその頬に精気の輝きがもどっている。あとは、その閉じた瞼が上がるのを待つだけだった。

 ほどなくして、その瞬間が訪れる。

 ゆっくりと目を開けたカイルは、まるで永い眠りから覚めたばかりであるかのようにぼんやりと目の前にあるティアの顔を見つめていた。


「…ティ…ア…?」

「カイル!気が付いたのね!どこか痛むところは?苦しいことはない?」

「痛み…?いや、そんなものは何も…」


 そこまで言ってカイルはティアの顔にぶつからぬように慌てて起き上がる。


「何が起きた?俺は、ティアの代わりに呪いを受けて死んだはず…なのに、なぜ?」

「私にも…よくは分からないの。でも…」


 言いながらティアが差し出した手の上には、オーブが入っていた皮袋があった。


「これ、は?」

「アルセアの洞窟で…貴方が取らせてくれたオーブが入っていた袋、なんだけど」


 オーブが入っているならば、その球体の形になっているはずのものがほぼ真平らになっている。

 カイルがそっと袋を持ち上げ傾けてみると、さらさらとした光の粉がこぼれていった。


「私の願いは…勇者としては間違っていたのかもしれない。でも、私にはこれしか考えられなかったの。ごめんなさい、大切なオーブだったのに」

「いや、きっと、正しい願いだから聞いてもらえたんだろう。きっと俺の命が戻ったのは、そのおまけというか、その一環なだけだ。でなければ世界が光を取り戻しているはずがない」

「それならいいのだけれど…きゃ」


 未だ不安そうにしているティアをカイルはその腕を引いて抱き寄せる。驚いたティアが抗議の声をあげてもカイルはその腕の力を緩めようとはしなかった。


「夢じゃない…あのニルセアの街でティアと別れる時、本当は引き留めてこうして抱きしめたかった…。全てが終わったあとでこうして抱きしめることができたから…あの選択が無意味じゃなかったと、やっと思うことができる」


 闇の眷属を超えて、侵攻してきた魔族を片端から倒して魔王となり、絶妙な戦いのコントロールで徐々に魔族の数を減らしつつ、侵攻しているように見せかけた。ただ、その間に犠牲になった罪なき者とて少なくはない。そのことに表の顔で嘲笑い、心の内側で苦悩しながら、ティア達が自分を倒しに来るのを心待ちにした。

 ティアが到着した時には本当に狂っていたのかもしれない。早く自分を殺して欲しくて。


 だが、今こうして光の中で大切で愛しい存在を抱きしめることができる喜びに、荒んだ心は癒され、あたたかいものに包まれる。


 ティアとカイルたちの冒険の日々はここで幕を降ろしたのであった。




 そして時間は現在に至る。


 普通の生活に戻った面々がその後どうしたかは冒頭の通りであるのだが、カイルに至っては…。



「失礼しますよ。カイル様、お時間です。至急城までお戻りください」

「…ラギ、お前ももう少し気を遣え。毎朝不躾に呼びに来て…たまには恋人とゆっくり過ごす時間くらいつくらせろ」

「そう仰るのでしたら、さっさと溜まっている仕事を片付けてください」

「あ、あの、ラギさん。毎朝私が起こすのが遅いから…ごめんなさい」

「ティア様、貴女が悪くないことなど百も承知でございます。ご安心ください。いい加減長としての自覚をお持ちになってくださらないカイル様が100%悪いのですから」

「なりたくて長になったわけではないぞ…」

「ニルセアの街でその辺りは十分に話し合ったはずです。全てが終わったら長の職を継ぐ、と」

「………いくぞ」

「御意」


 不機嫌に奥の扉へ向かったカイルがドアを開ける。

 と、その先にはティア達の住んでいる家とは全く違う造りの廊下 ―― 城の回廊が伸びていた。


「できるだけ早く帰る。美味しい食事を期待してるから」

「うん、頑張ってきてね」

「お騒がせして申し訳ありません。それでは失礼いたします」

「あ、こちらこそ」


 すでに毎朝となった恒例行事を済ませてドアを閉めると、今度は玄関の方からロッドがやってきた。


「わ、一歩遅かったか!どーすっかな、これ」

「あら、ロッド。今日は直明けでしょ、大丈夫なの?書状だったら後で私が届けるわよ」

「ティアはホントにアリアと違ってやさしいなぁ。…うん、じゃあ頼む。カイルがいないところでこの家に入ってるのがバレるとあとでうるさいからな。あと、アリアがたまには顔を出せ、とさ」

「ふふふ、そうね。また差し入れもって行くわ」

「楽しみにしてるぜ。に、しても…カイルってどんだけ魔力余ってんだ?あの扉、今は開けても隣の部屋だろう?」

「うん、カイルが城へ行き来する時に使う以外はちゃんと普通の扉よ」


 なんでも空間を少しずらして城の通路と繋ぐのだとか言っていたが、普通に考えたらそのようなことは無理に等しい。そんなことをさらりとやってのけるカイルは、やはりもとからして魔力の素質が違っていたのだろう。


「…あいつで、いいのか?ティア」

「カイルだから、いいの」


 ふわりと微笑んだティアは、幸せそのものの空気を作りだしていた。

 そこに勇敢に戦いを潜り抜けてきた戦士の顔はない。



 ティアが願い、作り出した平和な世界の一日が今日も始まる。




CM編 おわり