≪ご案内≫
この話はキョーコの誕生日&クリスマス企画として、ななちのブログ のななちさんとスタートさせたコラボ作品です。
ななちさんサイドではキョーコ視点でのお話がUPされていきますので、そちらもぜひご覧になってくださいませ。(一応1週間ごとにうちとななちさんとで交互にUPしていく予定です)
では、以下からどうぞ~v
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光と闇のフォークロア 7(ACT.4 裏切り)
魔王の城にたどり着くまでに、ティア達一行は更なるレベルアップを果たしながら進んで行く。
闇の眷属の支配する領域に入り、闇の力の支配は魔王の城に近付くにつれて更に強くなっていたが、それでもティア達はこれまでの旅の間に手に入れた力と魔法具によって、その力を如何なく発揮して前へと進んでいた。
魔王の城に入れば更に戦いが熾烈を極めることは明確…なはずだった。
「これは…いったいどういうことなのかしらね」
アリアが辺りを慎重に見回しながらそう言えば、他の者たちも同様に怪訝そうに周囲に目を向ける。
敵の大軍を次々と撃破して、いざ、決戦!と勢い込んで飛び込んだ魔王の城。
しかし、そこはこれまでの戦闘が嘘のように静けさを保ち、人っ子一人、魔物の一匹もいないという信じがたい状況になっていた。
「俺たちより先に誰かがここに来て、魔物を倒して先に進んでる、なんてことは…」
「あるわけないだろ。それなら俺たちが外で散々やり合ってた奴らがこっちに向かってたはずだ」
ディルトの推論をさっくりとロッドが斬って落とす。
だが、本当にその推論で合っていたのではないかと思うほど、いつまでたってもそこに魔物が新たに現れる気配はなかった。
「敵がいないに越したことはないわ。今のうちに少しでも体力を回復させておきましょう。こっちを油断させておいていきなり襲ってくる可能性もあるんだから」
「そうだな。魔王との戦闘が控えてるんだ。今のうちに…はいいけど。アリア、ティア。あんた達はここで魔力使って平気なのか?」
「はぁ?ディルト、あなた今頃何暢気なこと言ってんの?」
「暢気って…酷いな。傭兵の俺たちには眷属の領域なんて関係ないけどさ、魔法を使うあんた達は領域が違うと力が半減する、って聞いたぜ」
ディルトのその言葉に、本人を除くパーティーの面々は皆あきれ顔で、ある者はため息をつき、ある者は首を振り、ある者はひきつり笑いをし、ある者は憐みの視線を向け…。
「うわ!なんだよ、その酷い態度!しょうがないだろ、俺には魔力が全くないんだから!」
「魔力がなくてもそのくらいは常識、だろ。何のためにこれまで色々な法具を集めてきたと思ってる。子どもでもそのくらいの知識は持ってるぞ」
「まぁ、いいじゃない。私たちの心配をしてくれただけですもの。ね、ディルト」
「ティアぁぁ~。ほらみろ、ロッド。これが仲間の優しさ、ってモンだろう!」
「ティア、甘やかさなくていい。頭の使えない戦闘要員は早々にやられると相場も決まっている。こいつは少し勉強した方がいいんだからな」
「あ、私もその意見に賛成だわ。無鉄砲だけならまだしも、そこに 『無知』 っていうのが重なるとねぇ…」
これまで緊張の続く場面ばかりだったからだろうか。ほんの少しのその雑談のおかげで少し緊張が解け、自分たちの肩に力が入りすぎていた事を実感する。
気持ちがほぐれたことで、全員が冷静に周囲の状況を分析し、これからどう動くかを決めるべきだという結論に至った。
「罠だ、とみるのが普通だよな」
「そうね。でも、ここまで来た以上、進むしかないわよ?」
「ティアはどう思う?」
「…まっすぐ。進むしかないと思うの…ただ…」
「?ただ?どうしたんだ?」
「ううん…何でもない。魔王は…多分この先にいる。目的地がそこだから仕方ないんだけど…行きたくないな、って」
ティアの弱音とも取れるその言葉に、全員の驚きの視線が集まる。
これまで、どれだけ戦況が不利になろうとも、パーティーのメンバーが諦めそうになっても、いつだって前を見て全員を励まして引っ張ってきたティア。そのティアが今、一番弱気な発言をしている。
「…どうして、そんな弱気な発言になるんだ?こっから先に進むのに、そんな弱気じゃ皆も前に進めないぜ?それに、ティアがそんな風に思う、ってのは何か大事な意味がある、と俺は思うんだ」
「ディルト…。意味があるかどうかは分からないのよ?でも…足が前に進むことを嫌がるの。不安でも、恐怖でもない。何か…とても嫌な感じがする。それだけなの…」
「ティア…」
何かが起こる。それは確実なこと。
これまでの道程であれば、尊重すべきティアの予感。
ティアの選択は、大概において事態が好転するものだった。
だが、ここから先については選択肢はない。
行かなければ自分たちのしてきたことは全て無となって終わる。
「カイルとの約束はどうするの?」
「!…アリア?」
「何か、約束してるんでしょう?このまま終わって、その約束は果たせるの?」
「私っ…そんな個人的な感情でここまできたんじゃないわっ」
「当たり前じゃない。そんな理由だけだったらここまで一緒に来てないわよ。でも…ここまできたからこそ、そんな理由が大事じゃないの?」
アリアが言うのは、大義名分だけで戦えるわけではないということ。
時に戦いは、どれだけ強い意思を持つかで戦況が変わる。
人は “想いの力” で時に思いもよらぬ力を発揮する。
その力にこそ、付いていく者たちは自分の願いを重ねられるのだ。
「俺たちも願ってるんだよ。眷属の違いなんて関係なく、皆が平和に暮らせる世界を」
「ティアとカイルみたいに、さ」
「……みんな…」
「さ、行きましょう。足が竦むならみんなで引っ張って行ってあげる。残る敵は魔王だけよ。他の魔物と同様に、皆で倒すだけよ!」
「そう、よね。迷ってる場合じゃない…進まなきゃ始まらないのよね」
迷いを吹っ切ったティアに、皆が改めて団結を誓う。
そして、一路、魔王の元に続く回廊へ全員で踏み出した。
・-・-・-・-・-・-
一歩、また一歩。進むごとに勝手に明りが灯されていく仄暗い回廊。
道が分かれるところでも、灯されていく灯はただ一つ。
行く先を指し示すかのように、光はティアが歩を進めるたびに回廊の先を照らす。
それはまるでティア達をその闇の深淵へと手招き、そして誘うかのように、ゆらりゆらりと揺れながら、皆の不安もろとも暗い影にして映し出す。
それは魔王の罠なのか……。
だが、罠だろうが何だろうが、進むしかない。心に巣くう不安を打ち消して、一行は導かれるままに城の中心部へと進んでいった。
そして、たどり着いた先は……・大広間。
何故か何者も襲ってこない回廊を進んできたティア達は、息ひとつ乱すことなく、その大広間へとたどり着いた。と同時に全員がその先にいる敵の姿を確認して戦闘態勢を取る。
「ほほ…魔王様、ようやく勇者殿ご一行がたどり着いたようですぞ」
「ここまで来るのに随分と時間がかかりましたなぁ。まぁ、来れたことだけでも褒めてやるべきですかね」
「…………・」
ティア達の確認できた敵は、中央の玉座と思しき椅子に腰かける「魔王」と呼ばれた者と、その玉座を頂点とした階段を数段降りたところに左右に分かれて立つ見た目は初老の魔導師風な二人。
魔王にご機嫌伺いをするように諂うその姿は、いかにその魔王の存在が脅威であるかを物語っていた。
魔導師風の二人が弱いわけではない。それはこれまでの戦いを切り抜けてきたティア達にはひしひしと伝わって来ていた。
この広間に入った瞬間から感じる驚異的な圧迫感。
それはそこにいる者たちから発せられる力。
わざわざ誇示しなくてもあふれ出る力はそれだけ膨大な魔力を秘めているということだ。例え魔族でも、並みの魔物ならこの場にいることすらできないだろう。
その二人がここまで控えて接するからには、その玉座の主の力は計り知れない。
だが、倒すしかない。
「……?どうした、ティア?」
異変に最初に気付いたのはロッドだった。皆が魔王と魔導師に対してそれぞれの武器を構え直す中、真横に立つティアが剣を構えるでもなく愕然とした表情で正面を見据えている。
ロッドにかけられた声に応じたわけではないが、ティアが震える声でようやく発した言葉。それは…
「…どうして…あなたが 『そこ』 にいるの…?」
ティアの言葉に、ティアと魔王の面識があるのか?と皆が二人を交互に見遣る。
その様子に、魔王がゆっくりと立ち上がった。長身に均整のとれた肢体。顔の目元までを隠す仮面ではっきりとはわからないが、整った顔立ちをしている様子が見て取れる。その口元が薄い弧を描きニヤリと笑みを作った。
「どうして、と言われれば…もともといるべき場所だから、と答えれば満足か?」
朗々と響き渡るその声に、ティア以外の者たちも言葉を失う。
その声はあまりにも聞き覚えがありすぎるものだった。
「ようこそ…光の勇者殿…」
優雅な動作で仮面を外し、その手からするりとそれを放す。
スローモーションのように黒い仮面が床に向かい、カラーンと乾いた音を立てて落ち、同時に空になったその手がティア達に向けて広げられた。
「そして…さよならだ」
その手から放たれた闇の波動を、…というよりもそれを放った相手を、ティアは微動だにせずに見つめていた。
「どうして…どうして裏切ったの?? カイルーーっっ!!」
ティアの叫びと爆音が、同時に広間に響き渡った…。
つづく