≪ご案内≫

この話はキョーコの誕生日&クリスマス企画として、ななちのブログ のななちさんとスタートさせたコラボ作品です。

ななちさんサイドではキョーコ視点でのお話がUPされていきますので、そちらもぜひご覧になってくださいませ。(一応1週間ごとにうちとななちさんとで交互にUPしていく予定です)


では、以下からどうぞ~v




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光と闇のフォークロア 4 (side:蓮)




「カット!よし、いい感じだ。この先のシーンもこの調子でいくぞ」


 黒崎の機嫌のよいカットの声に、緊張していた現場にようやく穏やかな空気が流れた。


「はぁぁ~、殺陣って難しいですねぇ…」

「うん、そうだね。俺も練習してるけど、なかなか難しいと思うよ。良く頑張ったね、最上さん」


 次のシーンの撮影に入る前の休憩に、キョーコは大きくため息をつきながら笑顔を見せた。

 よほど緊張していたのであろう、自分の持つ剣を近くの机に置く手がわずかに震えていた。

 手のアップはないからいいようなものの、よほど熱心に練習したんだなと蓮は思う。キョーコの華奢なその掌には、剣をかなり握っていなければできないだろうマメが出来ていて痛々しい。

 だが、そんなことを気にせず、うまくできてよかった、と胸をなでおろしているキョーコの真摯な姿に愛おしさと誇らしさが募る。

 できればそんな傷はつけてほしくはないが、かといって中途半端なことをしてもきっと黒崎は納得しないだろう。妥協はしない。それは黒崎も、自分も、そしてキョーコもプロとして譲らない同じ気持ちなのだ。

 そんな思いでキョーコを見つめていると、キョーコはふと蓮を見上げて言った。


「そう言えば…敦賀さんも練習してると仰ってましたけど、アーネストさんに教えてもらってるんですか?」

「うん。今回のは西洋風…っていうか世界観が違うよね。殺陣って言っても時代劇の殺陣とは間合いとかいろいろ違うし、同じ剣でも刀と太刀は扱い方も違うから、きちんと扱い方まで教えてくれる人に教えてもらった方がいいかと思って。…それに、社長の友達、というより剣の師匠らしいからね。事情も色々知ってるからやりやすいんだ」


 苦笑して答えれば、納得顔して頷いているキョーコに、蓮は内心冷汗をぬぐっていた。

 そもそも、蓮の場合、日本の殺陣よりも今回のパターンの方が馴染みはあるのだ。昔、アメリカにいた頃、何本か下っ端役ではあるが演じた中にそういうシーンもあった。だが、日本(こっち)で時代劇に触れたことなど一切ないわけだからして具体的な違いなどわからない。わかるのは、少し調べたりしていけば知ることができる程度の知識面だけだ。そういった点からしても、教えを乞うのがローリィの知り合いというのはとても助かっているのだ。


「はぁ~、そうだったんですか。稽古中は厳しいですけど、とてもよく教えてくださるいい先生ですよね」


 今度はキョーコの言葉に蓮が引っ掛かりを感じる番であった。


「……ねぇ。一つ聞いていいかな」

「?どうされたんですか?」

「稽古の時に、この衣装みたいに足を出した格好してるわけじゃないよね?」


 蓮が指さした先は、今現在キョーコが身に纏う衣装。

 キャラクターが 『魔法剣士』 なだけあって、軽装ではあるが、上は甲冑っぽく肩当と胸当てがある。しかし全身として見ると、魔法というファンタジー要素が込められているとしか思えない装飾と、全体的に露出度の高い衣装。何より、足の露出は高く…。いわゆる目のやり場に困る程度には短いスカート状態なのだ。蓮が指さしているのはその部分で、キョーコはその指が指し示す先を視線で追って自分の足にたどり着いた。同時に一気に顔を赤くして、両手で伸びないスカート状の布の裾を握って引っ張った。


「へ?な…なんてこというんですかぁぁ~!当たり前じゃないですかっ、基本ツナギですっ」


 その仕草の可愛さにうっかり見惚れそうになっていた蓮だが、キョーコの口から飛び出した練習時の服装の情報にその脳内が一気にショッキングピンクに入れ替わった。


「……ラブミー部の?」

「はいっ!動くにはとてもいいですし、色があれでしょう?カメラチェックしてもらいながら練習してるんですけど、自分の動きが見やすいんです」

「そう、だね。あれだと、動きが良く見えるよね」

「はい。だから先生が画面と実際の動きで説明してくれる時に比べやすくてわかりやすいんです」

 確かに、他のどの色よりも見やすいだろう。それゆえに足さばきなどの細かい指示も教える側もだしやすいだろうな、と思いつつも苦笑を禁じ得ない。どこまでも貪欲に、技術の習得のために自分の恰好までも利用するとは、本当にいつの間にかプロとしての行動が身に付いている。


 ―― それも無意識なんだから怖いんだよな…


「…?どうかされました?」

「ん?いや。なんでもないよ…(プロ根性はともかく…。言えない…このミニスカのような格好で動き回ってるんじゃないかと心配したなんて…)」


 蓮の内心の動揺に、何か感じるものがあったようだが、どうやら気のせいで過ごしてくれたらしい。

 ほっとする蓮に気付かないまま、キョーコは話を続けた。


「それに、設定だから仕方ないですけど、この格好だって本当はすっごく恥ずかしいんですよ。敦賀さんはすごく似合っててかっこいいですけど、私は…こんな恰好なのに少しも色気がないし」


 俯き加減に顔を赤くしてそう呟くキョーコに、蓮は思わず溜息がもれそうになった。


 ―― どこまで無自覚なんだ、この子は…


 メイクと髪型と服がいつもと違うだけで、キョーコは完全にゲームの中の主人公になりきっている。この本番前のカメラチェックで、可愛らしくも美しい、ゲームキャラというイメージの世界の人を体現するという荒業をやってのけ、キャラクターデザインをした作画監督から絶賛されているのだ。

 基本、ゲームの売れ行きはストーリー性やゲームそのものの面白さもあるが、そのキャラクターにファンがつくかどうかということにも影響される。だから、作画監督は自分の目で確かめたかったのだろう。

 自分の作り出したキャラクターが活きるかどうかは、キョーコや蓮のビジュアル的な要素にかかってくるともいえる。

 それゆえ、実写版にすることを了承したものの、実際を見てあまりにもイメージに合わなければ配役を変えることも考えていたという作画監督は、キョーコの姿にいたく満足していた。

 そのことから考えても、とてもすごいことをやってのけているというのに、キョーコは相変わらず自己肯定が低い。

 それに、今日の撮りでも女性スタッフを含め、男性陣はほとんどと言っていいくらい、黒崎のカットがかかるまでキョーコに見惚れていたのだ。少しは危機感を持ってほしい、と願わずにはいられない。何しろ自分がいる時ばかりの撮影ではないはずなのだから。


「どうしたものかなぁ…」

「え?何かおっしゃいましたか?」

「ん?いや、別に」


 呟きをうやむやにして、準備が進むスタジオセットへと視線を向ける。

 スタッフの動きとセットの状況が休憩の終わりを示していた。


「さて、そろそろ次のシーンの撮りが始まるね」

「あ、そうですね。さ、気を引き締めていかなきゃ…」


 キョーコの言葉と同時に、撮影の再開の声がかかり、二人はまた物語の中へと戻るのであった。


つづく



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…お気付きかとは思いますが、文中の剣の講師はオリジナルです~。

社長の知り合いなら変に事情を探る人もいないはず、と。