心理学のお勉強(社会心理学)No9 : バイアスのかかった判断No1 | 消費者心理学とマーケティング - 消費者心理学・消費者行動論の研究より -

心理学のお勉強(社会心理学)No9 : バイアスのかかった判断No1

心理学のお勉強(社会心理学)No9 : バイアスのかかった判断(Judgement heuristicsNo1

今回取り上げる内容は、バイアスのかかった判断(Judgement heuristics)です。

人間にはかなり不安定な判断であっても簡便な意思決定をする傾向があります(Fiedler, & Bless, 1988)。ボリュームが多い内容なので2回に分けます。今回は第1回目です。

1.情報処理と妥協

心理学のお勉強のNo2(情報処理) で扱ったように、基本的な人間の情報処理の流れは下記の通りです。(テレビCMなど)刺激知覚コード化記憶意思決定。この流れでは情報を合理的に判断しバイアスがかかることは想定されていません。(入門段階の)経済学での前提の合理的経済人のモデルと同様です。

しかし、上記のような情報処理は非常に労力がかかるため、多くのケースでは人間は合理性と経済(簡便)性との間で妥協をしています。それがヒューリスティックな判断(Judgement heuristicsです。多くのケースでは経済的だけど妥当な結果をもたらすと思われる経験則にそった判断と考えても構わないと思います(Fiedler, & Bless, 1988)

2.ヒューリスティックな判断(Judgement heuristics

(1)入手可能性(Availability heuristics) (Tversky, & Kahneman, 1973, sited in Fiedler, & Bless, 1988)

関連する記憶の取り出しやすさによってその事項は発生する確率の予想が決定される直感的方法です。例えば、メディアが災害や殺人に関しての記事を頻繁に取り上げた時期には、心臓病や自殺(これらの方が人数・確率は高い)よりも災害や殺人によって死に至る確率を(実際よりも)高く見積もる傾向があります(Combs, & Slovic, 1979, sited in Fiedler, & Bless, 1988)。

《注》心理学者のダニエル・カーネマンKahneman)は行動経済学(経済心理学)の研究によって2002年のノーベル経済学賞の受賞者となっています。

(2)代表性(Representativeness heuristics) (Tversky, & Kahneman, 1972, sited in Fiedler, & Bless, 1988)

ある事象がカテゴリー (分類)に属しているかという判断を、統計的な確率ではなく、カテゴリーの代表的特徴に類似しているかで行う直感的方法です。例えば、プラモデルの飛行機、チェスとコンピューターに興味がある人は物理学者の可能性が高いか、それとも先生の可能性が高いと思いますか?この質問に対して、プラモデルの飛行機、チェスとコンピューターは物理学者というカテゴリーイメージに近いので物理学者であろうという直感が働きます。しかし統計上は明らかに先生の比率の方が圧倒的に高いので、統計的には先生の可能性が高いというのが正解です。

《応用》 いくつか質問をしますので皆さんも考えて下さい!!

(1)なぜマーケティングや消費者行動論ではヒューリスティックな判断(Judgement heuristics)という概念が重要なのですか?

ヒューリスティックは消費者行動を考える上では非常に大切な概念です。多くのケースにおいて、消費者は経済学が考えるような合理的な消費者ではありません。皆さんは普段の買い物であらゆる情報を考慮してバイアスのかかっていない判断をしている自信はありますか?


(2)どのようなケースで消費者はヒューリスティックな判断(Judgement heuristics)を使う傾向がありますか?

以下の2点が熟慮するための条件です(Petty, Cacioppo, & Schumann, 1983)。よって下記の2条件がそろわない時にヒューリスティックな判断が使われます(詳細はこちら )

(a) 消費者が熟慮する気持ち (motivation) がある場合

(b) 消費者が情報処理する能力的余裕ある場合

具体的には、時間的な切迫がある時、理解するのが難しい複雑な商品(新技術を使っているなど)、商品そのものへの関与が低い場合(値段が安い、特別な興味を持っていないなど)、酔っ払っているケースなどが考えられます。

(3)私の上司(60歳)は頭が固くて「昔はこうだった」ばかり言って現在の消費者の変化について行けていません。なぜ?

人間は年を取る(シニア)と熟慮するよりもヒューリスティックな判断(Judgement heuristics)を使う傾向が高まります(Yoon, 1997)。

(4)なんでサッカーワールドカップにて日本代表が強いと思い込んでいたのですか?

入手可能性(Availability heuristics)の影響だと思います。つまりマスコミの提灯記事が毎日のようにテレビ・雑誌などで流されたため、日本代表の強いイメージに関連する記憶部分が活性化されていたのだと思います。よって日本人の多くが実際よりも強いのではと思い込んでいたのではないでしょうか。

(5)マラドーナ2世など**2世と呼ばれる選手(タレント)はなぜほとんど期待を裏切るのですか?

確かに多くのマラドーナ2世と呼ばれた選手がアルゼンチンから出てきました(サビオラやメッシーなど)。ただし未だマラドーナ並みになった選手がいなく多くは期待を裏切っています。代表性(Representativeness heuristics)の影響だと思います。よく考えて下さい。マラドーナは数10年に1度の選手です。数年に一度出てくる2世は確率論的には外れる可能性の方がはるかに高いのです。見た目(背が低い)が似ていて、ドリブルがうまくて、才能があるというマラドーナの特徴を見たしているため、2世と呼ばれる選手は過大な評価を受けていると思われます。芸能界や日本のスポーツ界にもこのような例は非常に多いと思います。長島一茂(元)選手などは非常に気の毒だったケースだと思います。(ちなみに、私は、メッシーは非常に好きな選手で期待もしています。しかしマラドーナほどになるかは分かりません)

次回も今回の内容の続き(No2)です。

他にも応用例や身近な事例を思いついたら、お気軽にコメント下さい!!

更新は、本編(衝動買いのまとめ(最終回))を本日の夕方に行う予定、心理学のお勉強(バイアスのかかった判断No2)を明日の午前中に行う予定

《お願い》

皆さんの実例があると、わかりやすく内容も発展しますので、皆さんの実例やコメントをどんどんお待ちしています!!下記コメント欄からお気軽に書き込んでください。

参考文献

Fiedler,K., & Bless,B. (2001). Social cognition, in Introduction to social psychology: A European Perspective Third edition, (ed) Hewstone,M. & Stroebe,W. Oxford, Blackwell Publishing.

Petty,R.E., Cacioppo,J.T., & Schumann,D. (1983). Central and peripheral routes to advertising effectiveness: The moderating role of involvement. Journal of consumer research, 10, 135-146.

Yoon,C. (1997). Age differences in consumer’s processing strategies: An investigation of moderating influences, Journal of Consumer Research, 24, 329-341.