消費者心理とマーケティング -テレビCMの効果No2 Part1-
消費者心理とマーケティング -テレビCMの効果No2- として、テレビCMの効果を主張している重要な概念である階層的効果モデル (例、AIDAなど) を取り上げます。
以前、興味を持ってマーケティングの本を読んでいると、たいていAIDAやその変型モデルが載っていました。マーケティング実務もこれらのモデルを前提に行われていることも多いのではないでしょうか?
これらのモデルは非常に説得力があるように聞こえるし、CM効果測定にも(リサーチャーやコンサルタントからして)使い勝手が良い点が長所ですが、一方で限界もあることも消費者心理学・行動論の学問の世界ではコンセンサスとなっています。
今回は2つの代表的なモデルを説明した後、これらのモデルの限界を提示したモデルを説明します。いずれもテレビCMの効果を主張しているモデルです。
(1) AIDA
1990年に発表された概念で、いまだに最も(世界的に)知られているモデルで、下記の4ステージを仮定し、決められた順序を踏むことで消費者は説得されるとされています(Barry & Howard, 1990)。
1. 注意 (attention)
2. 興味 (interest)
3. 願望 (desire)
4. 行動 (action)
(2) Lavidge と Steiner による階層的効果モデル (hierarchy of effects model)
1960年代の階層的効果モデルの発展の契機となったモデル (Bendixen, 1993)。消費者は下記の階層的な段階を経て説得され、購買に至ると仮定される。
1. 注意 (awareness)
2. 知識 (knowledge)
3. 好み (liking)
4. 優先的好み (preference)
5. 確信・信念 (conviction)
6. 購買 (purchase)
◎上記のモデルの問題点
・モデルの効果を実証できなかった (e.g., Barry & Howard, 1990)。
◎提案
(1) 上記の階層的効果モデルの順序を変えた変形モデルの登場
(2) 消費者が広告のメッセージを適当に情報処理(認知、情報検索、代替案評価、態度形成など)するケースを含んだ包括的なモデルの登場
3. ELM (Elaboration likelihood model, Petty, Cacioppo, & Schumann, 1983)
・1980年代以降の研究の流れに多大な影響を与えたモデル。
・彼らは、従来のモデルの課題は、全てのケースで消費者は、しっかりとした情報処理(広告の認知、情報検索、代替案評価、態度形成など)を行っていると仮定していることと考えた。
しっかりとした情報処理 (elaborative information processing) とは、経済学などで一般的に前提とされている人間像で、最善の結果を得るために必要な全ての情報を得て、それらを分析して意思決定をする処理を言います。
例、シャープの液晶テレビのCM を見た消費者は、そこで提示されているメッセージについて、何を訴えているのか? CM を通じた見栄えは良いか? 値段や製品機能の表示があるか? などしっかりと考える。
例、石鹸のCM についても同様であろうか?
たいていの消費者は、ボーっと見ているか、好きなタレントが出ているか、などしか考えないことが多いはずだ。
従来のモデルの前提は、消費者は全てのケースでしっかりとした情報処理を行うことを前提としていたが、ELM は適当な情報処理のケースをモデルに組み込んだ。
ポイントは、中心ルート(しっかりとした情報処理)と周辺ルート (適当な情報処理) に分けて、消費者の情報処理を仮定したことです。
中心ルート
・従来の従来のモデルと同様のモデル(例、注意、興味、願望、購買など)で、下記の一定の条件を満たした場合のみ、中心ルートは使用されるとしました。
(1) 消費者がしっかりと考えるという気 (motivation) がある場合
(2) 消費者が情報処理する能力的余裕(例、情報量が多すぎない、忙しすぎない、理解可能など)がある場合
周辺ルート
・上記の中心ルートが使用されない場合、消費者はしっかりとした情報処理(例、注意、興味、願望、購買など)を行わずに、わずかな情報(例、好きなパッケージ、メッセージの響きが良い、以前使った)を手がかりにして購買意図を形成します。
石鹸の例では、スーパーに買い物に出かけた際、前日見たCMで自分の好きなタレントがあるAというブランドの石鹸を宣伝していたことを思い出して、Aを買うなどが当てはまります。
Part2へ続く