ナオミ・クライン、危機を利用する資本主義【2】 | PAGES D'ECRITURE

PAGES D'ECRITURE

フランス語の勉強のために、フランスの雑誌 Le Nouvel Observateur や新聞の記事を日本語に訳して掲載していました。たまには、フランス語の記事と関係ないことも書きます。

前回の ナオミ・クライン、危機を利用する資本主義【1】  の続きです。

今回は原文 の N. O. - Pour vous, la torture est liée à la «thérapie de choc» économique,  で始まる段落からです。


『資本主義はいかにして危機から利益を得るか』(つづき)


Comment le capitalisme profite des crises

par Naomi Klein



(つづき)

N. O. あなたによれば、拷問は「ショック療法」に関連しており、あなたは1970年代のラテンアメリカにおける拷問と、アブ・グレーブやグアンタナモで起こったこととの類似性を確証しています。イラクにおけるアメリカの軍事的教義が『Shock and Awe』(ショックと恐怖)と名づけられたとしたら、偶然の一致でしょうか?


Noami Klein
N. Klein.
– 一つの偶然の一致です。しかし、軍の戦略家とエコノミストが同じ隠喩を使っているという事実は示唆的です。私は拷問と新自由主義的経済モデルを関連付けたことで、激しく非難されました。しかし、1975年にミルトン・フリードマンがピノチェト宛に書いた、ショック療法の必要性に固執する手紙を読むとき、チリの体制が拷問を利用していたことを世界中が既に知っていたと考えることは怪しからぬことです。当時チリで行われていたショック療法は、隠喩的なものなど何もありませんでした。この隠喩を選んだのは私ではなく、「シカゴ・ボーイズ」です。この隠喩は示唆的です。なぜなら、軍事または経済戦略家と拷問実行者との思考の共通性を暴露しているからです。あらゆる形態の抵抗を無力化し、絶対的な統制を課し、大規模な暴力に訴えて、自らの意志を人々に押し付けるという欲望を暴露しています。拷問の場合におけるショックとdésorientation(訳注:失見当識、精神を幼児まで退行させることに相当すると思われる)、あるいは「ショックと恐怖」戦略の場合の圧倒的な軍事力の行使です。基本的な思想は、白紙状態から再建するために既に在るものを破壊しなければならないということです。
Janvier 2002 : prisonniers à Guantanamo

N. O. あなたは2001年9月11日の心的外傷と「ニュー・エコノミー」に関連性があると考えますか?

N. Klein. – 私が「災害の資本主義(惨事利用型資本主義)」と呼ぶ「ニュー・エコノミー」は、恐らく9-11とともに始まりました。私は、アメリカ政府が9-11を計画したとは少しも思っていません。私が詳述すること、そして私がミルトン・フリードマンの引用文に明白に見ること、それは、いかなる危機、いかなるショックにも立ち向かうことができるために備えなければならないという強迫観念です。ブッシュ政権が9-11によって生まれた危機にどの点で準備していたかを主張した陰謀論の支持者が、アメリカ政府は必然的にテロ攻撃を仕組んだと想像するのは、部分的にはそのためです。ところで、35年前から、新自由主義者はその思想を前進させるために、考えられ、想像できる「全ての」危機を利用しています。9-11はその最新の例に過ぎません。ニューヨークへの攻撃は、「ニュー・エコノミー」と呼ぶべき終わりなき戦争の開始を可能にしました。ドナルド・ラムズフェルドが、私的部門が1990年代にしたことを再現して、ペンタゴンをいかにして根本から変える意図を持っていたかを知るには、9-11前であっても、彼の演説を読めば十分です。私の最初の本、『No logo』(邦題『ブランドなんかいらない―搾取で巨大化する大企業の非情』)で書いたことですが、我々ができることを全て外部化しよう、と。2001年9月10日、ラムズフェルドは前代未聞の演説をしました。その中で、彼が旧ソビエト連邦に喩えていたペンタゴンと、戦争状態にあると言いました。私的医療会社が兵士を治療できるのに、なぜアメリカ軍は未だに独自の医師を雇っているのか?私的部門が住宅を供給できるというのに、なぜ軍は部隊のために住居を所有しているのか?彼の軍の見方は、空の貝殻のそれであり、彼のレトリックは資源の外部化を称賛した1990年代のマネージャーのそれと同一です。彼が高度の技術に特化した企業のために大いに働いていたという範囲で、未来の軍は企業世界の技術革新を組み込んで構成されると確信していました。ラムズフェルドはまた、この変化が内部で達成されることはできず、何よりもまず、私的部門のための市場を構成すると確信していました。


Forces de sécurité privée de Blackwater en opération en Irak
9-11は、このニュー・エコノミーが飛躍することを可能にした背景をもたらしました。ブッシュ政権はそのことを明白に言いました。我々は時代の終わりまで、悪の存在するところならどこででも悪と戦うだろう、我々はそれを達成するためには、納税者の金を計算しないで消費するだろう、しかし我々はこの戦争を我々自身で遂行する、なぜなら我々は私的部門から必要な手段と専門能力を買うからだ、と。私たちはインターネット・バブルの進展と似たような現象に直面しています、ただし治安と監視の部門で。9-11の後、治安に特化した数千の企業が花開きました。ロビー活動をする事務所が、政府のもとで私的治安部門の利益を引き継ぐために、企業が契約を結ぶのを助けるために、乗り出してきました。メディアはそれをテロリズムとの戦争と呼んで満足しています。この戦争における全てが私物化され外部化されることを望む基本的な原則に乗り遅れないように。情報部門も含めて。ブッシュ政権は、その手段の70%が外部化され私的部門に委ねられた、新しい情報局を準備しました。このニュー・エコノミーは二つの前線で機能しています。国境管理または生態認証データの管理を含む、アメリカ合衆国の国内の治安、そしてもちろんイラクです。これはテロリズムに対する国際的な闘争に関しての実験室のように見えます。そしてイラクの状況が悪化すればするほど、イラクでの戦争は私営化されます。軍事介入当初、アメリカ兵10人に対して1人の臨時職員がいましたが、現在は米兵16万人に対して18万人の臨時職員がいます。ハリバートンのような下請け企業は、絶えず新しい市場を探しています。例えば、ブラックウォーターという会社はメキシコ国境近くに新しいオペレーション・センターを開設しようとしています。その目には、国境の管理が災害の資本主義(惨事利用型資本主義)の新しい黄金郷に映るのでしょう。ハリバートンもまた、突然の難民の流入に備えて私営刑務所を建設しつつあります。ブラックウォーターは、ジェノサイド防止の市場に取り組むつもりであるとさえ言明しました。国連がダルフールに介入しなかったことを激しく非難し、もっとうまくできたと主張しています。イラクがこの新しい経済の実験室となっていると言っても、誇張ではありません。企業が最初の経験を得て、異なる状況下で利潤を生ませるように努力する、例えばブラックウォーターがカトリーナの後でニュー・オリンズに上陸して警察の代わりに治安維持を保証すると提案する時のようなものです。


(つづく)

Propos recueillis par FRANÇOIS ARMANET et GILLES ANQUETIL



出典

LE NOUVEL OBSERVATEUR 2272 22-28 MAI 2008

http://hebdo.nouvelobs.com/hebdo/parution/p2272/articles/a375514-comment_le_capitalisme_profite_des_crises_.html


次回、ナオミ・クライン、危機を利用する資本主義【3】 に続きます。

前回にも紹介しましたが、こちらでも似たような話題を読むことはできます。


「ショックドクトリン 大惨事につけ込んで実施される過激な市場原理主義改革」 ナオミ・クライン新著を語る

このページがある以上、私の一連のエントリーの存在は不要だとに言われても仕方ありませんが、このブログは私のフランス語学習を目的として存在していますので、ご了承ください。