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横関大『再会』(講談社文庫)を読みました。江戸川乱歩賞受賞作です。
昨年12月にフジテレビで単発ドラマが放映されたんですが、キャスティングがすごくよかったんですよ。
『再会』は、ある事件をきっかけに、かつての同級生4人が20数年ぶりに再会するという物語。その4人を演じたのが、江口洋介、香川照之、堤真一、常盤貴子です。
映画でもおかしくないくらいの気合の入りまくったキャスティングに、これはもう見逃せないぞと思って、実際観たら結構面白くて、折角なので原作も読んでみました。
ドラマを観た方いらっしゃいますか? 4人のキャストも勿論よかったですが、いわゆる探偵役の南良涼を演じた北村有起哉がよかったですよね。
クールさの中に情熱があるキャラクターで、非常にぐっと来てしまいましたよ。南良の魅力に関して言えば、完全に原作を越えていたんじゃないかと思います。
さてさて、物語で起こる事件は、スーパーの店長、佐久間秀之が何者かに銃で撃たれて殺されるというもの。
秀之は元々不良で素行が悪く、誰に殺されてもおかしくないような人物だったのですが、問題は殺害に使われた拳銃です。
その拳銃はこの町で起こった、23年前の事件で殉職した刑事のものでした。
殉職した刑事の息子である12歳の清原圭介とその同級生、飛奈淳一、佐久間直人、岩本万季子は、形見の拳銃をこっそりタイムカプセルに入れて、地面に埋めました。
その拳銃から、23年の時を経て、再び銃弾が発射されたのです。
いつも一緒だったのに、中学を卒業してからは、それぞればらばらに人生を歩んで来た4人。今ではみんな35歳になっています。
刑事になり、この事件の捜査を担当している淳一は、かつての仲間を集め、タイムカプセルを掘り起こしました。案の定、タイムカプセルの中には拳銃が見当たりません。
「あのタイムカプセルに拳銃が入っていたということは、俺たち四人以外に知る者はいない」
淳一の言葉が胸に響く。淳一の考えていることは、圭介にも手にとるようにわかった。それほど難しいことじゃない。ごく自然に考えれば、そういう結論にならざるを得ないからだ。
「それにカプセルにつけたダイヤル錠。その暗証番号を知っているのも四人だけだ」
「まさか淳一……」
万紀子がそうつぶやくと、淳一は大きくうなずいた。
「そうだ。俺たち四人のうちの誰かがタイムカプセルを開け、あの拳銃を持ち出した。そう考えるよりほかにない」(150ページ)
一体誰が拳銃を持ち出し、秀之を殺したのか? 事件の捜査を続ける淳一は、やがて23年前の事件に秘められた、思いがけない真実にたどり着いて――。
はっきり言って、現在の事件にしろ過去の事件にしろ、事件自体は大したことがないもので、ミステリとして期待して読むと、物足りない感じは否めません。
ただ、現在の事件と過去の事件が同じ拳銃という点で交錯し、そこに4人の人生が重なるわけですから、物語としては非常に引きこまれるものがあります。
それぞれが抱える苦悩が見事に描かれた作品でした。懐かしい思い出と、失われてしまった絆が描かれた、ノスタルジックな雰囲気漂う小説です。
作品のあらすじ
神奈川県三ツ葉市で美容室「シーズン」を営む岩本万季子の所へ、一本の電話がかかって来ます。
それはスーパー「フレッシュサクマ」三ツ葉南店の店長、佐久間秀行からで、息子正樹の万引きを知らせるものでした。
正樹は成績優秀な子供で、推薦で名門私立中学校への入学が決まったばかり。
女手一つで息子を育てている万季子にとっては、学費が大幅に免除になる推薦枠は、のどから手が出るほど望んでいたものだったのです。
もしもこの万引きの件が警察に知られ、推薦が取り消しになってしまったら? 生活が苦しくなるだけでなく、正樹の将来に暗い影を落とすこととなります。
慌ててスーパーに駆けつけた万季子に防犯のビデオを見せ、秀之はお金を要求して来ました。
「あんたの誠意をみせてくれたら、警察への通報は控えてやってもい。このテープもあんたにくれてやろう」
「誠意?」
「とりあえず今日中に三十万円」煙を吐き出しながら、佐久間は言った。「息子の将来を考えれば安いもんだろ」(24ページ)
夜11時に、お金を持って再び事務室へやって来る約束を交わしました。
しかし万季子は不安に駆られます。「三十万円。用意できない金額ではない。しかし一回払って終わる問題なのだろうか。この男のことだ。徐々に金額がエスカレートしていくとは考えられないか」(24ページ)と。
そこで、別れた夫の清原圭介に連絡を取りました。夜11時に圭介は一人、お金を持って秀之との交渉に臨みますが、圭介は金を受け取っておきながら、今度は万季子の体を要求します。
万季子は、「もしも私の体が目的だったのなら、昼間会ったときにそう言えばよかったのだ。最初に金を要求したということは、やはり佐久間が欲しいのは金に違いない」(48ページ)と考え、次の日の夜11時に再び交渉することになりました。
秀之の腹違いの弟で、2人のかつての仲間、直人に連絡しましたが、韓国に出張中ということでつかまりません。
翌日。夜11時。100万円でなんとか手を打ってもらおうとスーパーの事務室へ向かった圭介は、秀之が殺されているのを発見してしまったのでした。
万季子と圭介は、正樹の万引きの件が表沙汰にならないよう、その場から逃げ出し、お互いにお互いのアリバイを証言することに決めます。
一方、刑事の飛奈淳一は、一緒に暮らしている恋人博美への暴力で悩んでいます。酒を飲むと、自分でも知らない内に、博美を殴ってしまっているようなのです。
秀之の事件を担当することになった淳一は、神奈川県警捜査一課から志願してやって来たという、アメリカの大学で犯罪について学んだ変わり種、南良涼と組んで事件の捜査をすることになります。
南良と共に事件の関係者を訊ねる内に、淳一は23年間ずっと連絡を取っていなかった、かつての仲間、直人、圭介、万季子との再会を果たしました。
やがて、秀之の遺体から発見された銃弾は、警察の制式拳銃ニュー・ナンブM60から発射されたものであると断定されます。
そして、ライフルマーク(線条痕)の一致により、23年前の事件で殉職した清原巡査の、紛失した拳銃から発射されたということも分かりました。
それを知って淳一は愕然とします。その拳銃は23年前、市販のクーラーボックスに暗証番号式のダイヤル錠をつけ、タイムカプセルとして自分たち4人が、学校の校庭に埋めたはずのものだったから。
圭介の父親の形見として埋めた拳銃。もしそれが使われたとしたなら、自分たち4人の中の誰かが、タイムカプセルを掘り出したに違いありません。
23年前、3千万円を奪って逃走中だった銀行強盗と、それを追っていた圭介の父、清原巡査がお互いを撃ちあって死んだその遺体を、森の中で見つけたのが、少年時代の淳一、直人、圭介、万季子の4人だったのです。
圭介と万季子から、秀之が殺された当時のアリバイについて確認した南良は、現在の事件よりもむしろ、23年前の事件に強い関心を寄せているようでした。
「少し気になることがあるんですが……」
何やら思案するように、南良がつぶやいた。
「まあ今日のところはこれでいいでしょう。できれば四人お揃いのうえでお話を聞きたいものです。いずれにしても今回の佐久間さん殺害事件は、二十三年前の事件に間違いなく繋がっています。またお会いしましょう、清原さん。それから岩本さん、コーヒーご馳走様でした」(177ページ)
やがて、犯人らしき人物が任意同行で警察に連れて行かれ、自白を始めたのですが・・・。
拳銃をひそかに埋めた秘密を共有する、かつての仲間たち。強い絆で結ばれていたはずの4人が、ばらばらになってしまったのは一体何故なのか?
淳一が夜毎にうなされ続けるその理由とは? はたして、23年前の事件に隠された真実とは!?
とまあそんなお話です。それぞれの人物の抱える苦悩がとても巧みに描かれていますし、現在と子供時代の思い出が交互に進行していくスタイルも、なかなかに効果的に使われています。
ミステリとしてはやや弱いですが、友情や絆が描かれるとやっぱり物語として面白くなりますね。エピローグで初めて語られる事実が胸に残ります。
興味を持った方は、ぜひ読んでみてください。
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子供時代に人生を変える大きな事件と遭遇した仲間が、新たな事件をきっかけに大人になってから再会する映画と言えば、『スリーパーズ』があります。
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4人の少年たちが、思わぬことがきっかけで、少年院に入れられてしまうんですね。そして、そこで看守たちから性的虐待など、ひどい目にあわされるんです。
大人になった少年たちの内、2人はギャングに身を落としてしまったのですが、偶然再会した看守を、復讐心から射殺してしまいました。
その裁判に1人は検事、1人は新聞記者として、他の2人も関わることになり、4人は思わぬ再会を果たすことになるのです。
勿論、復讐したい気持ちは痛いほど分かりますから、みんなで力をあわせて、なんとかして2人の無罪判決を勝ち取ろうとします。
そして、強い絆で結ばれた4人は、無罪を勝ち取るだけではなく、残りの看守への復讐も密かに決意していて・・・。
なかなかに重いテーマの映画ですが、とても印象深い映画なので、機会があればぜひ観てみてください。
ちなみに、新聞記者役をジェイソン・パトリック、検事役をブラッド・ピットが演じていますよ。
明日は、首藤瓜於『脳男』を紹介する予定です。