アレクサンドル・デュマ・フィス『椿姫』 | 文学どうでしょう

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椿姫 (光文社古典新訳文庫)/アレクサンドル デュマ・フィス

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アレクサンドル・デュマ・フィス(西永良成訳)『椿姫』(光文社古典新訳文庫)を読みました。

作者のデュマ・フィスは、アレクサンドル・デュマの息子です。アレクサンドル・デュマと言えば、『三銃士』や『モンテクリスト伯』の傑作を書いた、フランスの大文豪です。

このブログをやっていて、うれしい時は、こうした本当に面白い小説を紹介できる時です。『椿姫』は傑作です。ストーリーを知っている人も知らない人もぜひぜひ。おすすめです。

『椿姫』の名前はみなさんご存知なのではないでしょうか。舞台やオペラなどでも有名です。ぼく自身もDVDですが、オペラを観たことがあります。

ストーリーラインはそのままなんですが、小説の方が物語のからくりとして、より楽しめるような気がします。書きたいけど書かないですが、どんでん返し的な仕掛けですね。いやどんでん返しを期待されるとそれはそれで、さほどどんでん返しでもなんでもないんですけど、つまりある出来事の真相というか、裏側が見えるということがあるわけです。

作中でアベ・プレヴォの『マノン・レスコー』が重要な役割を果たしていて、そしてある程度『マノン・レスコー』が下敷きになっている要素があるんですが、内容は全く違うと言ってもよいと思います。

断然『椿姫』の方が面白いです。読みやすいということもありますが、なにより『椿姫』は愛の物語だからです。愛とはつまり、自己犠牲的な部分があるわけで、その点は『パルムの僧院』の公爵夫人と重なる部分があるかもしれません。

物語の構造としては、『マノン・レスコー』に似ています。いわゆる額縁小説で、語られる物語とは別の叙述から物語は始まります。

作品のあらすじ


書き手である〈私〉は、ある家にまつわるものが競売にかけられているのを知ります。その家の女主人が亡くなってしまったんです。その人物がマルグリット・ゴーティエという高級娼婦。貴族の愛人など、羽振りのいい豪勢な暮らしをしていたけれども、どうやら最後は借金まみれだったらしい。

骨董品などに興味のある〈私〉は、競売に参加して、マルグリットの所有していた『マノン・レスコー』を競り落とします。

やがて〈私〉の元に、アルマン・デュヴァルという青年がやって来る。このアルマンが、マルグリットに『マノン・レスコー』を送った人物だったのです。どうやら、マルグリットと深い関係があるらしい。

悲しみと絶望に打ちひしがれているアルマンから、〈私〉はアルマンとマルグリットの話を聞きます。

ここからアルマンの〈ぼく〉という語りの形式になります。高級娼婦マルグリットを見て、恋に落ちた〈ぼく〉。友達に紹介されますが、最初の出会いは険悪なもので終わります。数年後再会し、〈ぼく〉とマルグリットの距離は少しずつ縮まっていく。

〈ぼく〉の熱意におされる形で、マルグリットも心を開いていく。2人はやがて愛しあうようになります。しかし将来有望な、いいところ出の〈ぼく〉と豪勢な生活をし、貴族の囲いものになっている高級娼婦とでは釣り合いが取れない、というか本来なら真剣に愛しあう仲にはならないはずなんです。

生活を維持するため、そして借金を返すためには、伯爵など貴族からお金をもらわないといけないわけで、〈ぼく〉の収入ではとてもやっていけないから。ところがこれが本当に面白いところですが、マルグリットは愛に生きようとするんです。つまり〈ぼく〉のために豪勢な生活を捨てようと決意する。

田舎で幸せに暮らす〈ぼく〉とマルグリット。ところがある日、ある人物がパリにある〈ぼく〉の自宅にやってきたという知らせが2人の元にきて・・・。

とまあそんな話です。ここからが本当に面白いんです。書きませんけども。気になる方はぜひ読んでみてください。面白いですよ。

マルグリットが本当にいいんです。最初は生意気な女性として登場して、アルマンがいくら愛を囁いても相手にしない。いわゆるコケティッシュな魅力ですね。コケティッシュというのは、まあ男の気をそそるような感じです。

いつでも本気にならない。男を手玉に取るというか、適当にあしらって何も感じない。楽しく暮らせればそれでいいんです。パーティーなど、不規則な生活をしているせいで健康を害しているにも拘らず、全然気にしない。

ところが、一旦アルマンを愛しはじめると、本当に深く愛するようになるんです。それがすごくいい。

恋愛ものにはいくつかパターンがあると思います。たとえば、どちらか片方が愛しているが、もう片方が愛していなくて、愛が実らないパターン。『椿姫』の場合は、両方とも深く愛しているが、外部からの圧力がかかるパターンです。その場合、ぼくなんかは本当に感情移入して、涙涙ですよ。

詳しくは書きませんが、後半のアルマンのマルグリットへの態度からのまさかの真相という流れが本当にぐっときます。まあベタな流れというか、途中である程度展開は読めるんですが、それでもやっぱり感動してしまいます。

恋愛の相手が高級娼婦であるにも拘らず、純粋な愛で包みこまれた傑作です。マルグリットの悲運の影に一人の人物の幸福があるということも忘れられない印象を残します。

恋が実った時の高揚、愛する相手への嫉妬、喜び、そして悲しみまで、様々な要素が組み込まれた感動の傑作です。恋している人もそうでない人も。文学作品は敷居が高いと感じている人も、わりと読みやすいと思うので、ぜひ手にとってみてください。かなりおすすめの一冊です。泣けます。