アレクサンドル・デュマ『三銃士』 | 文学どうでしょう

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アレクサンドル・デュマ(生島遼一訳)『三銃士』(上下、岩波文庫)を読みました。いつもにもまして長くなっちゃいました。すみません。『三銃士』に興味のある方だけどうぞ。

最近『三銃士/王妃の首飾りとダ・ヴィンチの飛行船』を観まして、折角なので原作も読み直してみました。

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まず映画について触れておくと、思っていたよりもかなりよかったです。原作にはダ・ヴィンチの飛行船は出てこないですし、ど派手なアクションもそれほどないんですが、それ以外のストーリーの、要素てきなものはわりと忠実に映像化されていたと思います。

すべてを原作に忠実に映像化して、冗長な、そして退屈なものになってしまっては意味がないわけで、ああこういう解釈があったかあという思い切ったものになっているので、一つのバリエーションとしては、すごくよかったです。

元々フランスとは敵対関係にあるイギリスの貴族ですから、まあいいんですが、原作と違ってバッキンガム公爵が何故か悪役みたいになっていたのと、ボナシュー夫人、ロシュフォールの設定がやや変わっていたこと、それからやはりアトス、ポルトス、アラミスのキャラクターに深みの足りない部分はあります。原作ではもっとキャラクターが濃いんですよ。

それでも映像ならではの剣での格闘はしびれるほどかっこいいですし、これも原作ほど深みのあるキャラクターではないものの、ミレディーがすごくよかったです。ミレディー役のミラ・ジョヴォヴィッチはあまり好きな女優ではなかったんですが、悪役すごくいいですね。はまり役でした。

映画についてはこれくらいにしておいて、徐々に原作の方へ入っていきます。『三銃士』は実は『ダルタニャン物語』の第1部になります。『ダルタニャン物語』は今は絶版だと思いますが、講談社文庫で出ていました。11巻あるので、なかなか骨が折れますが、第2部、第3部もかなり面白いです。

ダルタニャン物語』の内容について知りたい方は、そちらの記事でも多少触れてますが、今ほど熱心に書いていた時の記事ではないので、まあ大したことは書いてません。時間があればその内、もうちょっとなんとかするやもしないやもです。

『三銃士』の前半は、ダルタニャンと三銃士がイギリスに王妃の首飾りを取りに行く話です。敵の目をかいくぐりながら、フランスを抜け、イギリスに渡らなければならない。待ち受ける様々な困難をいかに乗り越えていくかが重要な要素となります。つまり、与えられたミッションをこなす、スパイものに近い展開です。

ダルタニャンと三銃士の敵としては、リシュリュー枢機卿がいます。宗教的なもの、そして軍事的なもののトップに立ち、フランスを牛耳っている人物。どうやら実在の人物らしいです。このリシュリュー枢機卿の手下で手強いのが2人。

まずはロシュフォール。ロシュフォールは、ダルタニャンと因縁が深く、様々なところで謎の男として登場しています。ダルタニャンはロシュフォールをやっつけようとするんですが、いつも姿を消してしまう。リシュリュー枢機卿の腹心の部下です。

そしてもう1人はミレディー。ミレディーは名前ではなく、単に「貴婦人」という意味で、美しい謎の女です。ミレディーは悪女として語られることが多いですが、相当すごいやつです。ミレディーの人生にはいくつかの謎があるんですが、物語が展開するに従って、すべての謎が明らかになっていきます。

そんな魅力あふれるキャラクターが登場する、わくわくどきどきの物語です。

作品のあらすじ


物語の主人公は、ガスコーニュ生まれのダルタニャン。少年と大人の中間くらい。ちょっと落ちぶれた感じの古い貴族の生まれです。父親の知り合いのトレヴィル殿の銃士隊に入るために、少ないお金と紹介状をもらい、馬に乗って旅立ちます。

勇気と知恵のあるダルタニャンの冒険の始まり始まり。ダルタニャンは鼻っ柱が強く、馬鹿にされたら黙っていられない性格。旅の途中、ある男とささいなことでケンカになり、その男の仲間たちにぼこぼこにされてしまいます。おまけにトレヴィル殿への紹介状まで盗まれてしまう。

ダルタニャンは、トレヴィル殿と会うことができて、旅の途中であった出来事を話します。すると窓からあの男が見えたんです。旅の途中で揉めた、頬に傷のある男。あの屈辱、晴らさずにはいられないとダルタニャンは部屋を飛び出して行きます。

そこでぶつかったのが銃士の1人であるアトス。アトスは大怪我をしているのを無理してトレヴィル殿のところに来ていたので、怪我が痛んで怒り心頭です。ダルタニャンも頬に傷のある男を追いかけて急いでいるから、謝っても絡んでくるアトスに腹を立て、2人は決闘することになります。

面白いのは、この後ダルタニャンは、ポルトスともアラミスとも揉めてしまうんです。それぞれ違う時間に決闘することになります。結局、頬に傷のある男は見失ってしまう。アトスの決闘の介添人としてポルトスとアラミスがやって来ます。果たしてダルタニャンの運命はいかに!?

まあそれからざっくり省きますが、あんなことやこんなことがあって、ダルタニャンと三銃士は仲良しになります。「1人はみんなのために、みんなは1人のために!」という合言葉が有名ですよね。ラグビーなどチームプレイの競技で使われたり、英訳の「one for all,all for one」は森田まさのりの高校野球マンガ『ROOKIES』でも印象的に使われてました。

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でも岩波文庫の訳だと、《四人一体》(上、191ページ)でした。しかも剣を掲げずに、手をあわせるだけ。ちょっと物足りなかったり。

三銃士のキャラクターについてちょっと触れます。ちなみにみんな貴族なので、本名ではないんですよ。映画ではプランシェしか出て来ませんが、4人とも従者がそれぞれいます。この従者もご主人にあわせてそれぞれ個性的ですが、触れている余裕がないので省きます。

アトスは頼りになるリーダー格。ところが、物静かでどことなく影があるんです。過去になにかあって、心の傷をおってしまったらしい。それと関連しているかどうかは分かりませんが、恋愛には全く興味がない。従者は無駄口を叩かないようにしつけています。

ポルトスは頭の回転はそれほど早くないですが、力に優れています。貧乏貴族なので、金持ちの奥さんにお金を融通してもらっていますが、プライドが高く、それを認めようとしなかったりも。身分など、出世欲があります。憎めないいいやつですが、第2部、第3部では、ダルタニャンとアラミスによって、駒のように取り合いされます。

アラミスは神父の道と銃士の道と、両方を天秤にかけて常に迷い続ける男。三銃士随一のモテ男で、恋の噂は絶えない。信仰一筋だったアラミスがなぜ銃士になったかのエピソードがすごくいいです。ぐっときます。あえて紹介しないので、ぜひ読んでみてくださいね。アラミスは、すごい策士で、第3部では同じく頭のいいダルタニャン腹の探り合いをするところが印象的です。

ダルタニャンもそうですが、この三銃士もお金があまりないんです。やがてイギリスとの戦争が始まりますが、戦争に行く支度が出来なくて、みんなそれぞれ色んな工夫をします。誰かお金があればみんなで飲み食いしてしまうところなんかは、なんだか高校生がバンドをやっていて、スタジオ代を工面する感じに似てるなあと思ったりしました。仲がよくていいなあと。

いかんいかん、全然終わらなくなってきました。でもとりあえずダルタニャンと三銃士はオッケーですよね。

ある時、ダルタニャンの家の大家さんボナシュウが相談に来ます。奥さんが何者かにさらわれてしまったと言うんです。話を聞くと、どうやら以前、屈辱を味あわされた、あの頬に傷のある男がさらったらしい。やがて奥さんは帰ってくるんですが、この若くて美しいボナシュウ夫人にダルタニャンは恋してしまいます。

奥さんは宮廷に出入りしていることから、政治的な陰謀に巻き込まれてしまったんです。リシュリュー枢機卿の陰謀。フランス王妃は、イギリスの貴族バッキンガム公爵と密会して、思い出の品として首飾りを渡します。具体的にどこまでの関係があったかはよく分かりませんが、プラトニックな恋愛の感じもします。

まあそれはともかく、スパイによってそれを知ったリシュリュー枢機卿は、フランス王に舞踏会を開くように進言します。舞踏会で首飾りをつけなければ、王妃は浮気をしているということになる。つまり、舞踏会が開かれるまでに、王妃の元に首飾りを戻さないと、王妃は身の破滅というわけです。

ボナシュウ夫人からその話を聞いて、ダルタニャンは、王妃のため、いや王妃を心配するボナシュウ夫人のため、イギリスのバッキンガム公爵に会いに行くことを決意します。

固い絆で結ばれた三銃士も一緒に旅立ちます。それを阻止しようとするリシュリュー枢機卿の様々な妨害。1人、また1人と三銃士は欠けていく。少年マンガ風に言うと、「おれをおいて先に行け!」という感じです。

果たしてダルタニャンは王妃の首飾りを奪還できるのか!?

とまあここまでが前半の話です。

では後半には何が書かれているかというと、ほとんどがミレディーの話です。ミレディーというのは、前半にもちょいちょい出ていて、いわばリシュリュー枢機卿のスパイみたいな役割を果たしていました。ダルタニャンはある秘密を探る必要があって、ミレディーに近づきます。しかしミレディーの魅力に囚われていってしまう。

ミレディーの家で働いている女性が、ダルタニャンに恋をします。ダルタニャンはそれを利用して、さらにミレディーに近づこうとします。この辺りのダルタニャンはいくら任務のためとは言え、なかなかにひどい感じだったりもします。

やがて明らかになるミレディーの恐るべき秘密。

ダルタニャンと三銃士の知恵で、ミレディーは牢獄ではないんですが、ある城に監禁されます。そこからしばらくしたら島流しにあうことになっている。この辺りからは完全にミレディーが主役と言ってもいいです。果たしてそこからどう脱獄するか、が描かれるんです。

男の脱獄ものは、たとえばスプーンで壁を延々掘るとか、力技でなんとかするとかがありますが、美しい女性の脱獄ものなので、看守のような人を色気でなんとかしようとするわけです。ところがうまくいかない。そこでその人の心に訴えるにはどうしたらいいか、ということを考えていくわけです。

やがて物語は恐るべき結末に向かいます。

まとめに入ります。『三銃士』は簡単に言えば、迫り来るフランスとイギリスの戦争を背景に、ロシュフォール、ミレディーを従えたリシュリュー枢機卿が張り巡らす陰謀を、ダルタニャンと三銃士が阻止しようとする物語です。そこに登場人物同士の意外なつながりというか、様々な因縁が絡んできます。

『三銃士』は明朗闊達な冒険譚、つまり悪いやつを正義の味方が倒す、という物語ではなく、歴史の裏側を描いた、陰謀に満ちた物語です。リシュリュー枢機卿も立場が違うだけで、簡単に悪いやつとも言えない。要するに権力闘争なんです。

そうした政治的なものが背景にあるので、若干読みづらい部分がある小説なんですが、アトス、ポルトス、アラミスの三銃士のキャラクターが他に類を見ないくらいいいので、ぜひ読んでみてください。

おすすめの関連作品


リンクに映画を3本紹介します。

まずはスパイものといったらこれでしょう。トム・クルーズ主演、ジョン・ウー監督の『ミッション・インポッシブル2』。

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なぜ1でなく2かというと、単純にぼくが好きだからですよ、もちろん。なんだか2は評判があまりよくないですが、オープニングのロッククライミングの場面から、指令を聞いて、数秒後に爆発するというサングラスを放り投げる。爆発と同時にでっでっでーでーでっでっでーでー♪てれてーてれてー♪というあの音楽が流れるところからもう興奮ものですよ。2は最高に面白いです。

マスクを被って他人になりすますとことかいいですねえ。というか本に関してはともかく、映画についてのぼくの趣味はあんまり信用しない方がいいかもですけど。ちょっと今回紹介する3本はどれもぼくの周りの評価は悪いです。

でも気にせず我が道を行きますのだ。同じくトム・クルーズ主演のスパイもので面白いのが、『ナイト&デイ』です。これ最高ですよ。夢中になりました。

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『ナイト&デイ』は深刻なスパイものではなくて、銃弾飛び交っていても全く当たらないというコメディタッチの作品なんですが、それがいいんです。トム・クルーズとキャメロン・ディアスの関係もいいんですよね。前半と後半でキャメロン・ディアスのキャラクターが大きく変わるところがいいです。

恋愛というのは基本的に勘違いというか、相手のことを自分のいいように解釈してしまう部分があると思うんですが、そうした勘違いのパワーみたいのが恋愛に結びつく物語だったりもします。くり返しの展開や台詞もグッドだと思います。単純に好きですねえ。

それから仲間とのミッションという点では、スティーヴン・ソダーバーグ監督、オールスターキャストの『オーシャンズ12』がずば抜けていいです。これも1より2の方が好きです。

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1を観ていることが必須の作品ですが、『オーシャンズ12』はかなり面白いです。まず1の敵が復讐に来ること。つまり1の敵にお金を返すためのミッションなんです。その時点でもうかなり熱いです。それからフランスの怪盗「ナイト・フォックス」が信じられないくらい優雅でオシャレ。いいですねえ。さらに凄腕のユーロポール捜査官がキャサリン・ゼダ・ジョーンズなんですよ!

この捜査官がブラッド・ピット演じるキャラクターと以前恋愛関係にあって・・・。もうこれだけの要素が集まっていたら、面白くないわけがないじゃないですか。あっ、でも今、単にキャサリン・ゼダ・ジョーンズが好きなだけじゃないの? という風の便りが届きました。黙秘権を行使します。

まあ機会があれば観てみてくださいな。

明日はホーソーン『緋文字』を紹介します。