『古い医術について』・その2 | くらえもんの気ままに独り言

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 前回に引き続き、ヒポクラテス『古い医術について 他八篇』を取り上げていきたいと思います。


 前回、リンクを貼り忘れておりましたが、本書はコチラです。


古い医術について―他八篇 (岩波文庫 青 901-1)

ヒポクラテス著 小川政恭訳

http://www.amazon.co.jp/dp/4003390113/


 前回の話についてはコチラです。


『古い医術について』・その1

http://ameblo.jp/claemonstar/entry-11967566896.html


 今回は『誓い』も含めた5本の著作を簡単にまとめてみたいと思います。


『人間の自然性について』


 人間とは空気であるとか、火であるとか、水であるとか、土であるとかいう主張が公然となされているなか、それはおかしいと主張するヒポクラテス。それはさておき、医者の中にも人間とは血液であるとか、胆汁であるとか、粘液であるとか主張する者もいたらしく、ヒポクラテスは


 人間は単一の者ではない!!


 と主張。そりゃそうです。色んな要素が組み合わさって生命というものは形作られているわけで。人間がみな単一だったらどうやって生殖するのだ?というわけですね。(分裂とか、自家受精とか?まぁ、実際は有性生殖をやっているわけで、単一の者ではあり得ませんが。)


 人間には血液もあり胆汁もあり粘液もあり、それらのバランス(調和)がとれていることで存在できるのだと。ここでも、やはりバランスが重要ということが述べられているようですね。そして、体の中のどの成分が優位になるのかは季節や環境で変わると。病気の種類は季節によっても変わりますしね。


 この後は割と専門性の高い話になるので割愛します(;^_^A


『流行病 第一巻』


 その年の気候と流行病について記されております。多くは専門性の高い話になるのでほとんど割愛しますが、一般的な話について簡単にまとめます。


「医の技術には三つの要素がある、すなわち病気、病人、および医者。医者は技術の助手である。病人は医者と協力して病気に抵抗すべきものである。(第十一節)」

 病気は医者が治すのではなく、医者と協力して治すもの。医者は病気を治すのでなく、病人と協力して病気を治すのであるということでしょうか。


 あとは診断のポイントも書かれておりました。


 巻末には14例もの症例報告が載っておりました(各症例の病因はいまいち分かりませんでしたが(;^_^A)。


『流行病 第三巻』


 本書では冒頭から12例の症例報告が記載(巻末には16例記載)。

 

 その後も気候と流行病の状況が詳しく書かれております、が、例によって割愛。


 そして、文献などを研究し、医学知識を深めていくことは医者にとって重要だと。そして、各々の季節と各々の病気について詳しく知ることも大事だと。


『医師の心得』


 ここでは、医師としての心得について書いてありますが、やはり経験と事実に基づく理論に対し机上の空論は患者に害を与えてしまうということですね。


 詭弁で人を欺いておきながら、効果のなかった場合の言い訳に始終するようではダメだというわけです。医術の体系の全容を解明するには実は素人の意見というか体験も重要なカギになりますので、そういうのにも耳を傾けることが大事なのです。(医学によらず社会科学全般に対して言えることです。)


 それから報酬の話をするのは、とりあえず治療をしてからにしろと。緊急の場合なんかは特にです。現代の日本の医療の場合、医療者側からお金の話をするケースってほとんどないですからね(保険外診療を行わざるを得ない場合には費用の説明がなされますが)。翻ってアメリカの医療の場合は治療前にお金の話や保険を持ってるかどうかの話がされるらしいです(もちろん、なければ治療は受けることができません)。医療の体制としてどちらが望ましいかは一目瞭然ですね。

 ただ、なんでもかんでも費用を無視して検査なり治療をするのではなく、一応患者の懐具合を気遣う必要はあります。現代では難しい話ですが、ヒポクラテスによれば場合によっては無料で診るべきだとも。


 それから医学的に正しくない治療法を患者が望む場合は無視して構いません。言い方に気をつける必要はもちろんありますが。


 またヤブ医者は患者をどんどん苦しめるが、ヤブ患者も自らをどんどん苦しめるはめになると。もちろん患者は苦しみのあまり正常な判断ができないということはありますが。適切な医術が成されるには医者と患者の間の信頼関係が大事というわけですね。昨今ではモンスターペイシェントや訴訟の乱発の問題もあり、この信頼関係が希薄化してきているような気がします。このような状況で、特に救急の現場では医療者側は患者にとって有意義な積極的な治療よりも訴訟を受けないための消極的な治療を行わざるを得なくなっているようです。(せめて救急の現場では医療者の過失は問わないなどの方策を取らないと「たらい回し」などはなくならないのではないでしょうか。)


 次に自分一人で患者の病状に窮する場合には遠慮せず救援を呼べと。プライドよりも患者の健康の方が大事です。


 そして、患者を励まし続ける事が大事であると。そう、患者自身が諦めてしまったら医者が何をやっても無駄です。医者はあくまで協力者であり、病気と闘う主人公は患者自身なのですから。


 派手なアクセサリーや香水も患者に不評を与えるし、品位に関わるからやめろと。


 大衆のための講演も褒められたものではないと。なぜなら、このような方々は実地訓練がないがしろにされているケースも多々あり、言ってることが間違っているかもしれないからであると。


Televised medical talk shows—what they recommend and the evidence to support their recommendations: a prospective observational study

http://www.bmj.com/content/349/bmj.g7346


 ちなみに上記のように最近の研究結果によれば、テレビでやってる健康番組で紹介される健康法の半分以上はエビデンスがないものですし、8割以上はどれくらい効果があるのかも言ってないようです。(この研究は日本のものではございませんが、まぁ、似たようなもんでしょう。)


 食事制限なんかも長期にわたって患者の欲求を抑制し続けてはならない。厳しいストレスなんかは回復力の妨げになりますしね。あとは過度な喜びや大声の談話も体には障るし、同情なんかも逆に苦痛を与えると。


 以上、医師の心得でした。


『誓い』


 有名なヒポクラテスの誓いですね。現代の医療の基本となっているとされております。


 Wikipediaより転用しますと


「医の神アポロン、アスクレーピオス、ヒギエイア、パバケイア、及び全ての神々よ。私自身の能力と判断に従って、この誓約を守ることを誓う。

  • この医術を教えてくれた師を実の親のように敬い、自らの財産を分け与えて、必要ある時には助ける。
  • 師の子孫を自身の兄弟のように見て、彼らが学ばんとすれば報酬なしにこの術を教える。
  • 著作や講義その他あらゆる方法で、医術の知識を師や自らの息子、また、医の規則に則って誓約で結ばれている弟子達に分かち与え、それ以外の誰にも与えない。
  • 自身の能力と判断に従って、患者に利すると思う治療法を選択し、害と知る治療法を決して選択しない。
  • 依頼されても人を殺す薬を与えない。
  • 同様に婦人を流産させる道具を与えない。
  • 生涯を純粋と神聖を貫き、医術を行う。
  • どんな家を訪れる時もそこの自由人と奴隷の相違を問わず、不正を犯すことなく、医術を行う。
  • 医に関するか否かに関わらず、他人の生活についての秘密を遵守する。

この誓いを守り続ける限り、私は人生と医術とを享受し、全ての人から尊敬されるであろう!
しかし、万が一、この誓いを破る時、私はその反対の運命を賜るだろう。」


 ということが書かれております。これももちろん医者に限った話ではありません。師を敬い、弟子たちに教え、ベストと思われる方法を選択し、犯罪には手を染めず、差別せず、不正せず、守秘義務は守る」ということです。


 全体を通しての感想ですが、医術に関する記載が主題とはいえ、その他の分野にも応用できるようなことがたくさん書かれていたように思います。

 古典って結構おもしろいかもですね(^-^)♪


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