20.水曜日 | 【作品集】蒼色で桃色の水

【作品集】蒼色で桃色の水

季節にあった短編集をアップしていきます。

長編小説「黄昏の娘たち」も…

 四月二十八日(水曜日)


 結花子は暗闇の中で目を覚ました。

「此処は何処」

結花子はふらふらと立ち上がると光が少し射し込んでくる牢屋のような扉の方へと近づいて行くと外が少しでも見えないかと張り付いて覗いてみる。

目の前にも、おそらく自分がいる部屋と同じであろうと思われるドアから光が見えた。結花子はドアにもたれ掛かるようにしゃがみ込むと暗闇に目が慣れるまで待った。部屋は六畳程の広さでシングルベッドとドレッサー、ファンシーケースが置いてある。部屋の中にはもう一つドアがあり、そこを開けると中はユニットバスになっていた。習慣で手探りにスイッチを見つけると何の事はない電気はついた。結花子は自分が裸である事にようやく気付き、何か身につける物はないかと見回すとシャワーの所にバスタオルが畳まれていたのでそれを取り敢えず体に巻き付け部屋の方へと戻り、スイッチを押す。

鉄製のドアを除けばそこはプチホテルの様な内装になっていた。ファンシーケースを開けると中には同じデザインの白いドレスが何枚もぶら下がっていた

「しばらくは帰さないって事?」そう呟くと一枚を取り出しシャワーを浴びに向かった。

上がってくると部屋中を隈無く探し廻ったが来るときに自分が身につけていたものは全て無くなっていた

「黎明の奴…」結花子はベッドの上に座ると自分に何が待ちかまえているのだろうかと考え始めていた。時間も判らず、する事もなくぼんやりとしていると何やら女の啜り泣くような声がすることに気付きドアへと近づくと

「ねぇ誰かいるの?」と声をかけると

「あなたも連れてこられたの?」女の声が聞こえて来た

「貴方もって…貴方も連れて来られたの?黎明の奴何考えてるのかしら」

「黎明?ラドウって人が女を集めてるみたいよ」

「私は多分二日前に雅って人に連れて来られたの…ここは多分地下室で、もう一つ下にもあるみたい」

また別の女の声がしてきた。「私は昨夜、ジャンクションのタカシに呼ばれて知り合いっていう男に此処まで連れてこられたわ」

「私も昨夜。店にタカシの使いって人がやってきて…」

「ちょっと待ってよ。一体何人いるのよ」結花子はあっちこっちから聞こえてくる女達の声を聞きながら不安になってきていた。どうやら六人閉じこめられているらしい…一番長くいる子は一週間も「きっと此処から生きて帰れない…私の前にも何人かいたけど、いつの間にかみんないなくなってる…けれど誰もこの前の廊下を上がっていっていないの…他に出口があるのなら別だけど。多分夕食にあたると思われる食事を出されると睡魔に襲われて眠ってしまうんだけど一度食事を摂らずにトイレへ流したら…そしたらこの奥の牢屋へ連れて行かれてぐったりしている男の元へ…でも、その人はただじっと見つめているだけで何もしないの…その人は何日か前に逃げたみたい…大騒ぎで男達が探していたみたいだったから…それからはラドウが毎晩部屋へ来て闇の口づけをするの…」

結花子はとぎれとぎれ話し続ける彼女の話を聞きながらも思わず

「口づけ?」

「昨夜来たばかりの子達は信じられないだろうけど、ラドウと逃げた男は吸血鬼よ」

「吸血鬼?」結花子は、今話をしている子はずっとこんな所に閉じこめられているから気でもおかしくなったのかなと思いながらも茉莉子の事を思い出していた。彼女は霊やら魔術やらオカルト関係に興味をやたら持っていて、一時ヴァンパイアに凝っていたことがあったのだ。結花子が茉莉子の家に遊びに行くと、「ビデオ借りてきたんだ」と嬉しそうにしながら新しいのから古い無声映画まで様々な吸血鬼ものを見せられたのだった。本人は楽しんでいるようだったが、結花子にとってはあまり楽しい物でもなく、そういう趣味は辞めるように何度か言ったのだが小説なども読み漁りしばらくはまっていたのだった。でも最近の茉莉子は飽きたのかいつの間にか吸血鬼の事も話さなくなっていたのである。結花子は茉莉子が此処にいれば、きっと真偽を計れるのではないだろうか…と考えていた

「鏡を見てご覧なさい。首に牙の痕があるはずだから」

結花子は女の言うことを聞いてバスルームへ行くと首筋を見つめた。確かに二つ小さな傷が出来ている

「吸血鬼なんて本当にいるの…茉莉ちゃん…」

他の女達も結花子と同じようにそれを確認したらしく、もう誰も話す気がなくなったらしく、また沈黙が辺りに広がった。