「「フィリップス曲線に関する誤解」の誤解をといておくよ」の誤解 | 秋山のブログ

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inemuri-papaさんからコメントをいただいて、フィリップス曲線について振り返ってみた。それに関する氏の必読の記事がこちら

以前書いたフィリップス曲線に関する考察はこちら
おさらいすると、失業率が低いことも、賃金が上がっていくことも、物価があがっていくことも、好景気の結果であるから、相関があるというのは当然であるということ。それぞれを上げ下げする政策は、景気をよくも悪くもする政策になるので、同時に他の要素がフィリップス曲線に従って変化する可能性が高いが、物価上昇が直接失業率に影響を与えるわけではない。与えるという理屈は間違っているということだ。

ところで、フィリップス曲線についてぐぐって、いろいろ読み歩いていたら、「「フィリップス曲線に関する誤解」の誤解をといておくよ」という記事を見つけた。
そのもとの「フィリップス曲線に関する誤解」はこちら

もとである「フィリップス曲線に関する誤解」には、私も賛成しない。前述のように考えれば相関はあってしかるべきである。直接の関係といえば、直接の関係があるというロジックは出鱈目なので、まあないと言っていいだろうが、赤ん坊とコウノトリは言い過ぎだろう。

さてそれでは、誤解の誤解の方を考察してみよう。

まず一から。
『期待インフレ率が金融政策を受けて引き上がった場合、名目賃金には硬直性があることから実質賃金が低下して失業率が低下します。また、実際のインフレ率は期待インフレ率に引き摺られる形で上昇します。』という内容。
易しく書き換えれば、物価が上がると予想されれば(そして給与は据え置きと予想されれば)、採算に合うと思われる事業が増えると予想されるので、雇用が増えるという論理だ。しかしこれを証明するような制度である最低賃金(インフレ率程度の実質賃金の低下でそれ程変化があるのであれば、最低賃金の変化で大きな雇用の変化が観察されるはずである)は、マネタリストの予想通りにはならない。実証がない。それは労働者が消費者であるという重大な要素を無視(木を見て森を見ていない)しているものであり、需要が足りないところでは給与の多寡に関わらず雇用は生まれないという事実を失念している誤りである。
間違いはこれだけでない。実際のインフレ率は、期待インフレ率から人の心が決めたものである。賃金が硬直している分だけ経費が少なく、そこまで上げる必要がないと考えれば、一致することもないだろう。
最悪なのは『名目賃金の硬直性ですが、(中略)完全雇用に十分なまでは賃金が下がらないという形でまだまだ存在する』という文章。繰り返しになるが、賃金の低下によって採算性のある事業が増えることで、存在しない需要を補うことはできない。また、前述のメカニズムと同様に、労働者の給与が、需要の源であることも忘れた馬鹿な主張でもある。

次はニ。
まず『この曲線は期待インフレ率によって上下にシフトします』という内容。
物価というものは人間の心理が重要である。物価の上昇が予想されるならば、価格決定者は安心してその位までの値上げをおこなえるだろう。すなわち、同じような景気状況であっても、人間の心理によってインフレ率は変わってくるだろう。フィリップス曲線で、予想外の値を取ることは、そのことを考えれば当然のことだ。(例えば春闘で給与が必ず数%上がっていた頃には、給与上昇による価格転嫁も含めて、物価もそれなりに上がることが予想できただろう。今との違いを考えるとよく分ると思う)
というわけでここまではよい。ダメなのはこの文章。『「失業率を下げようとすればより高めの物価上昇を受け入れる必要がある、すなわち失業率と物価上昇率にはトレードオフがある」ということが、少なくとも短期においてはかなり普遍的であることを意味します。』
期待インフレ率が上下に曲線を動かし、それを考慮すれば曲線がかなり現実と合致するというのはその通りであろう。しかしだからと言ってトレードオフだという証明にはならない。実質賃金の低下が雇用を増やすというロジックは前述した通り誤りである。スティグリッツ教授も、トレードオフだという主張が時の試練に耐えられなかったと記述している。
物の価格というものは、期待インフレの値、資源や人の取り合いの状況や、さまざまな背景により、決定されるものである。また、期待インフレの値は、他の要素から独立しているものでもない。これを相関でなくて、因果関係であると主張するのは、ミルトン君の信者くらいなものだと思われる(因果関係だと考えるのは、誤った理論を信じているということだ)。

そして三。
『金融政策を受けて期待インフレが上昇し』
一にもあった記述だが、金融政策による期待インフレの影響を過大評価し過ぎ。金融関係者くらいしか金融政策を見てそれを自分の行動に反映はさせないだろう。価格の決定に重要な多くの企業家及び家庭にその影響はほとんどない。中立命題で見られるのと同じ、人の行動予測なので何とでも言えるというカラクリの詭弁
『物価上昇率は直接操作できないのですから』
直接操作は確かにできないが、期待インフレを介した金融政策によるものと比べたら、余程確実な方法は存在する。例えば公務員給与(特に中下層)の増額や、前述の春闘などによる大手企業の給与アップだ。(ちなみにその分を価格に転嫁すれば経済の状況は変化ないが、価格据置なら経済は活性化される。その分、下請けや非正規労働にしわ寄せさせれば、経済は悪化するだろう。フリードマンは組合非難に関して、好ましくない企業家の行動を前提で考えている)

最後に、『せめて上記のようなことは理解して変な誤解を拡散しないようにして欲しいものです。』と結んでいる。間違ったロジックを、せめて理解して欲しいというのは相当滑稽だ。そのロジックに重大な見落としがあることも分っている。そのロジックに関してまともな実証はない。ロジックを証明するものがフィリップス曲線で、フィリップス曲線を証明するものがそのロジックという、呆れた話だ。これを誤りといわずに何を誤りというべきだろうか。