テフロン加工の鍋の水が不味い話

(後日談その④)


デュ○ン社のHPには「問い合わせ」のフォームがあった。


そこには、まず「お問い合わせ製品名・製品番号」を書き込む蘭がある。自社の製品でなければ問い合わせは受け付けないというのか? と早速びびる私。


製品名が不明の場合は、以下ご記入ください。」と続く。


製品の用途、製品の素材・原料(ポリアセタール樹脂、フッ素系潤滑材などと)」、なるべく詳細に記入するように指示がある。


製品名もわからん人間が、その素材など分かる訳がなかろうに? 「ポリアセタール樹脂? 何ですか、それは?


次に「製品の形状、その他」を書き込めとある。お、形状なら私にだってなんとか書けそうな項目だ。深めの鍋とか、直径○cmのフライパンとかね。 が、なになに? 「例:フィルム状、原剤など」?? それが「形状」の具体例? 何のこっちゃ?


もうここら辺で小心者の私は頭の中がぐらんぐらんしてくる。


ぐっと堪えて、さらに読み進めると、「お問い合わせ内容」の選択肢が出てきた。


カタログ請求」……要らん。


技術資料請求」? ……こんなのを請求したら一体どんな資料が送られてくるのだろう? 取り寄せてみたい気もするが、私などには分からないことを、まことしやかに体よくまとめたものが来るだけだろうね。要らん。


担当者と電話かE-mailで連絡をとりたい。」……電話は要らんのよ。


直接、詳しく説明を聞きたい。」……直接でなくていいのよ。電話は要らないってば。メールに対して返信していただければ。


でも、この項目から察するに、つまり上の「担当者と……」って奴を選ぶと、「電話」でも『直接詳しく説明』してくれないってこと? 訳のわかりにくい選択肢だ。


お、一番最後に「その他」がある。これだろう。これっきゃないでしょう。小さいながらもメール用の小さな窓口がある。ここにメールを書き込めば返信がくるかも。


で、フォームの下方には、こちらの名前、eメールアドレス、郵便番号、住所、電話番号、FAX番号を書き込む蘭が続く。身元がはっきりしていない人間には答えないって感じね。


さて、質問文を書き込もう。


うわぁ。それにしても、「その他」のメール蘭のなんと小さいことか! 縦1.5cm、横6cmだよ。これじゃ、まともな文章など入れていられない。


○西技研に宛てたメールと同じ文面を送りたかったが、そんな状況ではない。


で、質問事項①~③を並べ、挨拶も簡略に端折ってメール送信!


ふぅぅぅぅ。わかりにくいHPだ。ともかく送信完了。さぁ、いつ返事がくるかな?


と、数時間待っても返事はこない。○西技研の対応が早かったからつい速答を期待してしまったが、そうそうすぐに対応してくれるところはないのかもしれない。デュ○ン社は、今色々取り沙汰されていて対応に追われているのかも?




しかし、その夕方、私の携帯に2度電話が入っていた。丁度歯医者さんで治療を受けていたので電話に出られず、留守電のメッセージを聞いた。デュ○ンからだった。


eメールではなく、直接電話してくるとは! やられた! eメールで返信くれるよう念を押しておけばよかった。しかし、まさか電話でくるとは……。びっくりである。


急ぎの質問でもないのに、こちらのeメールのアドレスも教えてあるのに、わざわざ電話で答えようとしてくる点に、私はちょっとカチンとくる。


電話なら、「言った・言わない」の水掛け論に持ち込める。相手にゆっくり考える隙を与えずまくし立てることができる。


留守電に吹き込まれていた中年女性の声が、妙に落ち着き払っている。 「問い合わせに答えてやるわよっ」という、どこか大上段な気風を音声の端々に感じる。 (これは全く主観的な問題だが。) やっぱりカチンとくる。


この留守電を聞いているときが、またよくなかった。


歯医者さんで下の歯茎に麻酔注射をしこたま打たれ、下唇と顎がひどく腫れているように思われた。下唇と歯の間に大きな明太子1腹詰め込んでいるような顔になっているんじゃないか? という不安に打ち震えていた折も折であった。


しかも、その麻痺した下唇のせいで余計にアンニュイになる出来事があった直後であった。


歯医者の帰り道、今まで気になっていた和菓子屋さんで、「今日こそ桜餅を買ってみよう!」 と決意していたので、下口が麻痺していてもなんとかなるさ! とその店に入ってみたのだ。


が、その店はちょっと変わったディスプレイで、カウンターのショーケースに桜餅がない! この時期、最も脚光を浴びているべき桜餅ちゃんがなぜ王座に鎮座ましましていないのか? 


夕方6時過ぎ、閉店時間迫る時間帯には、桜餅は既に売れ切れてしまったということか?


店の中を顎を押さえつつ (顎を押さえていないと下の口ががくんと開いて涎がだらーっと垂れそうなのだ)、うろうろ桜餅を探した。が、見当たらない。


これは思い切って聞くしかない。なんとか一言もしゃべらずに済ましたかったが、仕方ない。


店員に向かって声を発してみた。「ひゃふらもひ、あひまふは?」


うううっ。やっぱり言葉にならない~。顎を押さえつつ、もう消え入りたい。


が、店員さんは優しかった。羞恥の念に身を硬くして、顎を押さえながら俯く私に、「桜餅ですね。後ろの棚です。」


へ? 振り向いたら背後の菓子棚の下の方に、桜餅はちゃんと並んでいた。振り向けば桜餅。 ……もっと目に付くところに置いておいてよ。


その後も、店員さんが何か言うたびに、頭を横にふりふり、縦にこっくり。頭蓋骨の動作で返事をして、なんとか無事桜餅をゲット。ふぅ。疲れた。桜餅はゲットしたものの、怪しいおばさんに思われただろうなぁ……と、気分はブルーになったのであった。


そんなことがあった直後、留守電に気づいたのだった。私は顎を押さえつつ、かなり凹んだ気分になっていた。デュ○ン社担当者のメッセージが鼻に付いたのは、そんな個人的「不調」のせい大であるかもしれない。


口の下半分が麻痺してろくに話もできない。電話を折り返しかけ直す元気も出ず、「またかける」というデュ○ン担当者の言葉を信じ、その日は終わった。

                  つづく
     後日談③        後日談⑤