「裸の王様」だった「史上最強」の日本代表は、あまりにも弱かった。 | 元U-20ホンジュラス代表GKコーチ・山野陽嗣の「世界一危険な国での挑戦」

「裸の王様」だった「史上最強」の日本代表は、あまりにも弱かった。

 
 「優勝する」と豪語していた日本代表が、優勝どころか1勝もできずにグループリーグ敗退しました。

 選手だけでなくマスコミも大会前、グループリーグの組み合わせが決まった時に、根拠もなくギリシャを格下扱いしたり、「3連勝もありえる」「相手にとっては日本を引いたのが不幸」など、世界における日本の立ち位置を全く理解しない、まるで日本が世界有数の強豪であるかのように祭り上げ、国民を勘違いさせました。この事に関してはW杯の組み合わせ抽選が終わった直後に【日本は本当に「楽な組」なのか?】で書いて警鐘を鳴らしていたのですが…。心配は現実となってしまいました。

 しきりに選手の口から言われていた「自分たちのサッカー」とは、一体、何だったのか?僕はコロンビア戦以外はコートジボワール戦、ギリシャ戦とフルで見ましたが、彼らの言う「自分たちのサッカー」が何なのか全く伝わってきませんでした。

 そもそも前から気になっていたのが、一部の選手たちの「選手の中で話してこういうサッカーをしようという理想があり、それに向かってやっている」といった発言。それが「自分たちでボールを支配して攻めるサッカー」なのかどうかは分かりませんが、そもそも「どういうサッカーをするか」というのは選手が話し合って決める事ではなく、監督が決める事のはず。今回、終盤にパワープレーをした事でザックが批判されていますが、ザックは以前、親善試合で終盤にハーフナーを投入してパワープレーをしようと試みました。しかし選手たちが全くボールを放り込まず、足元でパスばかり回して上手くいきませんでした。監督の指示は絶対です。監督がパワープレーをするためにハーフナーを投入したのなら、好き嫌いに関わらず、そうしなければなりません。それを選手たちが「自分たちの理想」を追求して指示を守らず勝手な事をやってては、チームとして上手くいくはずがありません。また、監督として選手を自分の指示通りに動かせなかったザックも問題です。

 パワープレーに関しては、ネット上でも多くの日本人が「だったらなぜ、ハーフナーや豊田を入れなかったんだ!?」「自分たちのサッカーが封じられた時の『高さ』というオプションをなぜ削ったんだ!?」と批判していますが、日本国民の大半はW杯のメンバー発表の際、ザックのその選択(ハーフナーや豊田を外してパワープレーの選択肢をなくす)を批判していませんでしたよね?それどころか「高さは必要ない。日本は強いから、『自分たちのサッカー』だけで勝てる」と思い込んでいたはず。みんなマスコミのミスリードに流されて、日本を本当の実力以上に過大評価してしまっていたのではないでしょうか?

 今回の日本が「強い」と言える根拠はどこにあったのか?オランダにアウェーで引き分けたから?ベルギーにアウェーで勝ったから?ちょっと待って欲しい。どっちも「親善試合=結果は重要じゃない、テスト目的の練習試合」ですよね?「強い」の「根拠」が「練習試合」って…。そう言えば中国も数年前に親善試合でフランスにアウェーで勝ってますが、W杯ではアジアの最終予選にすら進む事ができません。「練習試合」と「本番」は全く違う。そして、「アジア」と「世界」は全く違う…。ヨーロッパでプレーする選手が増えた事も「強い」と言える根拠の1つになっていましたが、そこで比べるなら、コロンビア、ギリシャ、コートジボワールの方が日本以上にヨーロッパで活躍する選手が多い訳で、どう考えても「的違いの根拠」と言えます。

 冷静に見てみると日本はアジアの大会である東アジア選手権を除くと、公式戦はボコボコにされたコンフェデ杯の3連敗から数えて、W杯含めて「5敗1分」。全く、結果を出していません。残念ながらこれが現実であり、今の日本の本当の実力なのです…。

 日本ではよく格下扱いされる北中米カリブ海地区ですが、コスタリカ、メキシコ、アメリカと、4チーム中3チームが決勝トーナメント進出を果たしました。実に「勝ち点18」を獲得しています。対するアジアは…1勝もできずたったの「勝ち点3」で、4チーム全部が「最下位」。正に大惨敗です。日本はジャマイカにW杯で負けてるし、どうして日本やアジアが北中米カリブ海地区を「格下扱い」して馬鹿にできるのかが全く理解できません。そう言えばW杯前に練習試合でコスタリカに勝った時も、日本では「弱い相手に勝っただけ」とコスタリカを格下扱いしていましたが(驚く事に日本が敗退した後も「大会前にコスタリカなど弱いチームとしか親善試合しなかった」と書くスポーツ紙があるなど、この期に及んでもまだコスタリカを格下扱い)、コスタリカは「本番」でウルグアイ、イタリアを破り「死の組」を首位通過するという全世界を驚かす快挙を達成。実は「日本の方が格下だった」事が判明しました。

 世界的な常識で考えれば、今回の日本のグループリーグ敗退は全くサプライズでも何でもなく、充分にありえた普通の出来事。それが日本国民に大きなショックを与えたというのは、いかにそれまでマスコミによる過大評価に次ぐ過大評価で国民が実力以上に日本が強いと思い込まされて過度に期待していたかという事。選手の「優勝する」という発言といい、「史上最強」ともてはやされた日本代表は、世界の中で完全に「裸の王様」となってしまいました。8年前のドイツW杯の時に書いたブログ【日本W杯史上最悪の…】を改めて見てみると、今とあまりにも共通点が多くて驚きます。8年前の教訓を全く生かせなかったどころか、同じ過ちを再び繰り返してしまいました…。

 W杯後は早くも日本代表後任監督に元メキシコ代表監督のハビエル・アギーレの名前が挙がっていますが、これにも違和感を覚えます。おそらく協会としては「日本と同じように小柄な体格でも、しっかりとしたパスサッカーで6大会連続W杯ベスト16入りを果たしたメキシコのサッカーを真似たい」という意図があるのでしょうが、代表は戦術を浸透させる練習期間も限られてるし、メキシコ人監督を連れてきたからといって、一朝一夕でメキシコスタイルのサッカーができるようになんてならないですよ。そういうものじゃない。メキシコ代表があのパスサッカーをできるのは監督がアギーレだったからではなく、育成年代やクラブチームでも同じ哲学をもってあのパスサッカーに取り組み続け、長い歴史をかけてあの普遍のサッカースタイルを確立したから。だからメキシコ代表は誰が監督になっても芯となるサッカースタイルは変わらないし、今回のように即席チームでも完成度の高いサッカーができるのです。日本が本当にメキシコスタイルを目指したいなら、育成年代からメキシコスタイルに変え、クラブチームでもメキシコスタイルを浸透させ、それを長い年月をかけてコツコツ自分たちのものにしていかなければなりません。短くても10年、20年はかかる地道な作業。それを、育成年代やクラブチームは全く違うサッカーをしてるのに、代表だけメキシコ人監督を招聘して表面上だけメキシコを真似ようとしても上手くいくとは思えません。あまりにも短絡的過ぎます。

 それよりも「自分たちで支配する」とか「華麗なパスサッカー」とか形にこだわるのではなく、外国人監督にも固執せず、日本人監督でも良いから、例えば南アW杯やロンドン五輪の時のように「勝つ」事だけを考えて、日本人らしく謙虚に真面目に必死に泥臭く献身的に走って守って相手を研究して弱点を突いて戦う…その歴史を積み重ねていく事により、自然と「日本のサッカー」が確立されていくのではないかと思います。「日本のサッカー」は日本のサッカーを探す事で見つかるのではなく、「勝つ」事だけを考えて取り組む事で見つかるような気がします。メキシコも「勝つ」ためには、あのスタイルしかなかったんです。「勝つ」事だけを考えて、あそこに辿り着いたんです。監督もずっとメキシコ人がしています。ギリシャもあのスタイルで日本戦は10人になってボロボロになりながら耐えに耐えて守り抜き、コートジボワール戦は後半ロスタイムのPKで劇的に決勝トーナメント進出を果たしました。決して華麗なサッカーではないけど、彼らの必死に守って戦うスタイル、まるで映画のような劇的展開は人々を感動させました。華麗じゃなくても見る者を感動させ、なおかつ勝てるサッカーがある。日本もとにかく「勝つ」事だけを考えて戦う歴史を積み重ねていけば、世界で日本にしかできない普遍の「日本スタイル」が確立されるはずです。僕はそう信じています。

 あとはマスコミの言う事に流されるのではなく、日本国民1人1人が第3者の立場で客観的に自国の物事を見て分析する事の大切さを改めて学びました(サッカーに限らず)。また「裸の王様」が生まれないために…。


 日本人なのでどうしても日本代表、日本サッカーについて熱くなってしまいましたが、日本以上に僕が怒りを覚えているのがホンジュラスの戦いぶり…。これに関しては、また改めて書きたいと思います。



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