オファーを断る。
【オファーが届く 】の続きです。
ホンジュラスリーグの全チームがプレシーズンを開始した状況になってもチームが決まらず「今回こそは駄目なのか?」と諦めかけていた時に、突如、届いた古巣レアル・ソシエダからの正式なる「獲得オファー」。会長からの電話に続きチーム幹部からも電話がかかってきて、早速「条件交渉」に入ります。
ところが…。
電話でチーム幹部から伝えられた条件提示に、僕は驚きました。正直、ありえないほどの低い額。僕の中では「最低限、食っていくのに必要なお金」という明確な「最低ライン」の基準があるのですが、レアル・ソシエダが提示してきた額はこの「最低ライン」すら大幅に下回る、とんでもない額でした。
古巣であるレアル・ソシエダ、ホームタウンのトコアには非常に深い愛着がある。オファーをくれたチームにも感謝の気持ちで一杯。よほどの事がない限り、僕は「復帰」を前提に考えていました。…しかし、この提示額は、完全に「よほどの事」です。僕にも生活がある。食っていかないといけない。いくら愛着や感謝があっても、この条件はとてもじゃないけど受け入れられない…。
「オファーをくれた事はありがたいが、残念ながらこの額では働きたくても働けない。チームへの愛情だけではどうにもできない問題。レアル・ソシエダには復帰できない。すまない」
僕は苦渋の決断で、古巣レアル・ソシエダからのオファーを断りました。
ここで、このように疑問に思う方もいらっしゃる事でしょう。「提示額が低いと言っても、仕事がなければ給料はゼロ。どんな額でもチャンスにしがみつくべきなのでは?」
…おそらく、一昔前の僕なら、そうしたと思います。しかしこれも世界各国で散々チーム探しをしてきて学んだ事なのですが、「どんな額でもチャンスにしがみつく」という姿勢を前面に押し出して行動していると、この世界(特にホンジュラス)では完全に舐められて「カモ」にされ、向こうからは「こいつには何でもありだ」と思われ酷い扱いを受け、例え契約できたとしても、その後に必ず後悔するような最悪の事態を招く事となるのです。「どんな額でもチャンスにしがみつく」という情熱や誠意が評価されるのは日本での話。ここホンジュラスでは、その手は通用しません。とことんまで舐められ、考えられないほど酷い状況に陥るだけなのです。
レアル・ソシエダが「GKコーチ」としての自分の仕事を必要としている事は確か。けど、この提示額からは「Yojiは今チームを失っているから、これくらい低い額でもどうせ食い付いてくるよ」という魂胆が見え見えでした。必要とはしてくれているけど、僕に対する「敬意」は著しく欠けていました。そもそも前述したように、この額では食っていけない。この先、別のオファーがくる可能性は極めて低く、このレアル・ソシエダからのオファーを断るともうチャンスはこないかもしれない…その事は、重々、分かっていました。が、それでも、僕の信念は変わりませんでした。「レアル・ソシエダのオファーを断る」以外の選択肢は自分の中にありませんでした。
こうして、条件面で折り合わず古巣レアル・ソシエダからのオファーを断った自分…。再び、「世界一危険な都市」サン・ペドロ・スーラで、たった1人、孤独に耐えながら「待つ」時間を過ごす事となりました。「このままチャンスがなければ、日本への帰国も考えなければならないかもしれない…」 そう頭をよぎりました。
そんな中…。
レアル・ソシエダからのオファーを断ってから、1週間後…。
再び、僕の携帯電話が鳴りました。
電話の相手は…これまた再び、古巣レアル・ソシエダのチーム幹部でした。
「Yojiが必要だ。帰ってきて欲しい。条件面は、前回提示額より上乗せする」
そう言われると、前回交渉時よりも僅かながらにアップした新たな条件を提示されました。
ところが…。その新たな提示額もまた、僕の中の「最低ライン」を大幅に下回るものでした。「今回は、自分の信念を決して曲げない。この最低ラインは譲らない」…僕はそう心に決めていました。僕は決して、多くのお金を要求している訳ではありません。普通に食べていけるだけのお金がもらえれば、それで良いのです。しかしこの提示額では、それさえ難しい…。ホンジュラスリーグの他のGKコーチの給料と比べても、非常に低い額でした。
「再びオファーをくれた事は本当に嬉しいし感謝しているが、やはりこの額では働けない。申し訳ないが、レアル・ソシエダには復帰できない」
こうして僕は、再び「苦渋の決断」を下し、レアル・ソシエダからの2度目のオファーも断りました。
すると、その直後…。
またしても、僕の携帯電話が鳴り響きます。
電話の相手は…三度(みたび)、古巣レアル・ソシエダのチーム幹部でした。
「給料を○○まで上乗せする。どうしてもYojiが必要だ。帰ってきて欲しい」
レアル・ソシエダからの、実に「3度目」となるオファーでした。
が、この3度目のオファーで提示された額も、自分の中の「最低ライン」には届かないものでした(パリーヤス・オネ 時代の給料よりも下回る)。しかし、チームがGKコーチである僕の事を本当に「必要」としている強い「気持ち」と「熱意」は伝わってきました。
「分かった。その条件で良いよ。チームに復帰する」
条件面は依然厳しく、食っていくのがやっとの状態…。だけど、断っても断っても3度もオファーしてくるというチームからの自分の事を本当に「必要」としてくれている「気持ち」と「熱意」に心を打たれました。
愛するチーム、選手たち、トコアの街…全てに「恩返しする」という気持ちで、僕は古巣レアル・ソシエダへの復帰を決断しました。
※昨年も共に戦ったレアル・ソシエダのアシスタントコーチ・カルロスと。6ヶ月ぶりとなる古巣への復帰、仲間たちとの再会を果たしました!!
ところが、ここから、まさかの「修羅場」が始まる事になろうとは、この時の僕はまだ知る由もありませんでした…。
つづく
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