解雇の理由【後編】 | 元U-20ホンジュラス代表GKコーチ・山野陽嗣の「世界一危険な国での挑戦」

解雇の理由【後編】



 
解雇の理由【前編】 の続きです。



 
 自分以外のコーチングスタッフが全員解雇になる中、チーム幹部から「来季もYojiは続投」の言葉をもらって何とか残留が決定し、新たに就任した新監督も自身と旧知の仲のアミーゴという「最高の流れ」…。


 僕は希望に満ち溢れていました。


 …とは言え、自身のアミーゴである新監督やチームからまだプレシーズンの日程等の知らせがないので、監督就任の祝福もかねて、こちらから新監督に電話して聞いてみる事にしました。※この時はまだオフ期間中でした。

 「監督就任おめでとう!!まさか、また一緒になれるとは!!驚いたよ!!…で、いつからプレシーズンは始まるの?俺はどうすれば良い…?」

 新監督に質問します。…が、「チームは何て言っている?チームに聞いてくれ」と、なぜか冴えない返答…。んっ?

 
 新監督の言う通り、チーム幹部に電話して聞いてみる事にしました。すると…

 「新監督は何て言っている?新監督に聞いてくれ」

 …という返答。いやいや、新監督は「チームに聞いてくれ」と言い、チームは「新監督に聞いてくれ」と言う…。それはないだろ?


 僕も長年、世界各国で様々な経験をしてきているから、この瞬間、直感で「何かおかしい」…と感じましたよ。


 その後も新監督に電話するも「今、忙しいから、夜に電話する」と言われて一切かかってこない、「ん?電話の調子がおかしくて、そっちの声が聞こえない」と嘘を言われて電話を切られる、しまいには、電話をしても出ない…という最悪の状況になりました。


 まさか…。この時点で、自分が置かれた状況に薄々気付き始めてはいましたが、この後に知人からかかってきた電話で、自分の置かれた状況がハッキリと分かりました。

 「Yoji。俺はパリーヤス・オネの新監督と知り合いなんだが、この前、彼と合ったら『俺はもう別のGKコーチが居るから、Yojiは必要ない』って言ってたぞ」




 ……………
…………………………………………………………………




 なるほど。そういう事だったか。

 言い知れぬ怒りが
、込み上げてきました。

 まさか、旧知の仲のアミーゴ(新監督)に、首を切られるとは…。

 しかし、ここは厳しい「プロ」の世界。いくらアミーゴとは言え、彼が別のGKコーチを連れてきたいのなら連れてくれば良いし、僕は彼の決定を尊重します。それに、彼が連れてきたGKコーチはもう何年も彼が監督を務めるチームで常に一緒にGKコーチをしてきた人物だし、彼が個人的に経営しているサッカースクールでも働いている人物。彼がこのGKコーチをパリーヤス・オネに連れてきたい気持ちは、よく理解できます。だから、そこに「怒り」は全くない


 僕が怒っているのは、この新監督の対応です。


 実は先に解雇になった監督やコーチングスタッフは半年契約が「満了」して契約延長されず退団していったのに対し、僕はパリーヤス・オネと1年契約を結んでいて、契約があと半年(1シーズン分)残っていました。その事はこの新監督も知っていたのですが、こちらからわざわざ電話して「どうすれば良い?」と聞いているのに、前述したようにチームの責任にしたり、嘘を付いてごまかしたり、しまいには電話に出ないなどしてはぐらかして本当の事を伝えないという、全く誠意に欠ける、完全に僕をゴミのように扱う「最悪な対応」をしてきました。そこが「許せない」のです

 アミーゴなら、きちんと事情を僕に直接、説明すべき。そうすれば、僕は納得していました。それが、僕の前では嘘を付いて一切、本当の事を言わないままはぐらかし、その影では「別のGKコーチが居るから、Yojiは必要ない」と、いろんな人に言いまくっている…。だったら、俺に直接そう言えよ!!表と裏が全然違う…。まさか、別のGKコーチを連れてきた事を彼から直接、聞くのではなく、知人の口から聞いて知る事になろうとは…思ってもみませんでした。それがアミーゴにする対応か?彼の事は信頼していただけに、正直、ショックはメチャクチャ大きかったです。


 そもそも彼(新監督)は、本当に僕の「アミーゴ」だったのでしょうか?


 よくよく考えてみると、彼が2011年に僕に接近してきたのには「理由」がありました。それは…。

 彼は僕が2シーズンほどシンガポールリーグ(Sリーグ)でGKコーチを務めていた 事を知るやいなや、突然、「アミーゴ!!」と言って僕に接近してきたのです。長年に渡ってコーチ業を務めてきた彼ですが、そのキャリアは全て「2部リーグ」止まり。「1部リーグ(その国のトップリーグ)」で指揮を執った経験はありませんでした。そんな状況を打破したかった彼は「ぜひ、シンガポールリーグで監督がやりたい!!向こうに俺を推薦してくれ!!Yoji、頼む!!アミーゴ!!」と僕に接近して懇願してきました。

 「シンガポールはお金持ちの国だから」という「金目当て」の側面もありました(いや、むしろそこが彼の狙いだった)。とにかく、ことあるごとに「アミーゴ!!アミーゴ!!」と僕に言い寄ってきては「シンガポールに推薦してくれ!!」と懇願してくる…。「もし、シンガポールで監督になれたら、当然、YojiをGKコーチとして呼ぶから!!」とも…。

 僕はこれまで世界各国で数多くの人に助けられてここまでやってこれたので、「これも人助けであり、恩返しだ」と思い、彼のためにシンガポールでチャンスを探してあげましたよ(残念ながら見つかりませんでしたが)。

 ところが…。今回こうして彼はパリーヤス・オネの監督に就任し、念願叶って人生初の「1部リーグ」での指揮が実現したら、もう僕は「用なし」。ゴミのように僕を捨て、嘘を付いたり電話さえ出ないという最悪の対応をしてきました。元々、彼からしたら僕なんてアミーゴでも何でもなかったんですね。自分がチャンスが欲しい時だけ「アミーゴ!!」と調子が良い事を言って近寄ってきていただけ。単に、僕を利用したかっただけなんです。

 彼は表面上は非常に人当たりが良い人物で、僕は彼の事を「アミーゴ」だと信じていただけにショックは大きかったですが、今回の件で改めて「人当たりが良い人物が、人間的に良い人物だとは決して限らない。やはり、下心をもって近寄ってくる人間には、気を付けなければならない」と、勉強になりました。


 一方、チームですが、前述したようにこの新監督が就任する前は「来季もYojiは続投」と僕に電話で通達しています。他のコーチングスタッフが「解雇」を通達されている事からも、この時点ではチームは本当に僕の事を必要としていたのでしょう。しかし、新監督の就任で全て変わりました。ただ、「変わった」からと言って「Yoji、前は続投だと言っていたのに、話が変わってすまなかった」なんて謝罪や説明をしてくるような国ではありません、ホンジュラスは。何か悪い事をしても、責任を押し付けられるのが嫌で「絶対に謝らない」のがホンジュラス。未だにチームからは解雇とも何とも、一切、何も告げられていません。当然ながら、前回ブログに書いたように「ノルマ」を達成したにも関わらずの解雇だった事も、お構いなしです。昨季、必死に結果を出したのは、一体、何だったのか…。


 こうして僕は、アミーゴだった新監督からもチームからも、解雇とも何とも全く何も告げられないまま、事実上の解雇(他のGKコーチを連れてこられる)…「無言の解雇」となりました。


 同じく解雇になった前監督や他のコーチのように「契約満了」という形なら、別に何も告げなくても良いです。けど、僕は何度も言うように「まだ半年、契約が残っている」状態…。何1つ事情を説明しないまま新しいGKコーチを連れてくるなんて、人を舐めるにもほどがあります。しかもその「舐めた扱い」をしてきたのが、「アミーゴ」だった人物(新監督)という…。本当に信じられません。


 「だったら、残り契約分のお金(給料)を協会に訴えて請求してやる」…もちろん、そう考えましたよ。

 ところが…。「正しい事をする」のが、必ずしも「正しい選択」ではないのが、これまたホンジュラス…。この国の常識では、もし仮に僕が残り契約分のお金を訴えて請求すると、チーム側に逆恨みされて、今後、僕が一切どのチームにも移籍できないように裏工作をされたり、下手したら命も…という危険な状況にもなりかねません。こういう問題が起こってしまったら、ほとんど「泣き寝入り」するしかないのが、ホンジュラスなのです。「日本の常識」は全く通用しないのです…(新監督やチームが僕に解雇とも何とも伝えなかったのは、解雇を伝えて残り契約分のお金を請求されるのが嫌で、あえて何も伝えず「自然消滅」させたかったのかもしれません)。



 ただし…。このまま「泣き寝入り」したまま終わる僕ではありませんよ。



 サッカーの借りは、サッカーで返す。



 今後、チームが決まったら、試合で必ずパリーヤス・オネをコテンパンに叩き潰して、この借りを100倍にして返します。必ず…。




※パリーヤス・オネのGKたちと。彼らと共にGK練習をする事は、もう、ありません。「無言の解雇」になるという許せない幕切れとなりましたが、ビザ手続きを行ってくれたり、遅れはしたけどちゃんと昨季分の全ての給料を支払ってくれたチームの会長には感謝しています(日本では当たり前の事ですが)。また僕は、パリーヤス・オネのホームタウンであるテラとサポーターたちの事が大好きでした。テラとチームを離れるのは寂しいですが、これが厳しい「プロ」の世界。パリーヤス・オネでも自分にできる最大限の事を魂込めて全力でやってきたので、全く悔いはありません。今後、必ず移籍先を見つけて試合でパリーヤス・オネを倒し、お世話になった人たちに「手痛い」恩返しします。

パリーヤス・オネのGKたちと2013




◆連絡先メールアドレス: cafehondurasyoji@hotmail.co.jp


facebookフェイスブック(誰でも閲覧可能!)やじるしYoji Yamano/山野陽嗣


ツイッターツイッターやじるし@yoji_yamano


メラメラブログその1やじるし「26歳」からのプロサッカー人生!山野陽嗣の「笑顔」で不可能を「可能」にするブログ