第56話 残りの人生 その | 【小説】Cafe Shelly next

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喫茶店、Cafe Shelly。
ここで出される魔法のコーヒー、シェリー・ブレンド。
このコーヒーを飲んだ人は、今自分が欲しいと思っているものの味がする。
このコーヒーを飲むことにより、人生の転機が訪れる人がたくさんいる。

「いいじゃない、やりたかったことなんでしょ。インターネットであなたの様子も見れるんだし。やってみれば」

 一番障害と考えていた妻からもあっさりOKが出た。そうと決まれば早速計画開始。会社に出す計画書を作成し、翌日提出。出発は来週早々。それでもすでに二週間ほど経っている。つまり、私の残された命はあと二ヶ月半だ。もう後戻りはできない。

 そうだ、ヤツに連絡をしておかないと。私は出発前にヤツに電話をしてみた。

「そうか、いよいよ明日出発か」

「あぁ、でも途中事故にあったりしないかな?」

「大丈夫だよ」

「どうしてそう言い切れるんだ?」

「だって、残り二ヶ月半の命って神様から宣告されたってことは、残り二ヶ月半の間に死ぬことはないってことだろう?」

 なるほど、そういう考え方もできるな。ヤツはさらに続けてこう言ってくれた。

「死に物狂いって言葉があるじゃないか。でも、本当に死ぬ寸前までやった人なんかなかなかいないんじゃないかな。弘寿はいいよ。なにしろ、何をやってもあと二ヶ月半は死ぬことはないんだから。思い切ったことができそうだな」

 これで私の心は救われた気がした。そうだよ、何をやっても二ヶ月半は死なないんだから。本気で死に物狂いのことができそうだ。

 そうしていよいよパフォーマンスを行いながら日本一周の旅がスタートした。これはレースではない。自分との戦いだ。そう言い聞かせながらペダルを漕ぐ。おかげで初日は二百キロも離れた土地まで進むことができた。

 そしてその夜、第一回目のパフォーマンス開始。今回たどり着いた土地は、それなりに栄えているところ。駅前の人通りも多い。そこで意を決して、大きな声を出す。

「さぁ、御通行中の皆様。ちょっとお時間のある方はちょいと脚を止めて御覧ください」

 目の前にはスマートフォンを置いている。この模様はインターネットを介して生放送で放映されている。後から録画も見れる。私の初公演、果たしてどのように映っているのだろうか?

 パフォーマンスはわずか十分程度。特別な観客もいない。少しだけ足を止めて見ていた人は何人かいたが、終わった後に拍手があるわけでもない。とりあえずこの様子をツイッターに送り、さらにフェイスブックとブログにアップする。その日はそれで終了。安いホテルで疲れを癒し、深い眠りについた。

「ほう、なかなか面白いことを始めたではないか。よしよし、そんなお前にまた手助けをしてあげよう」

 えっ!?

 夜中、またあの神様の夢を見た。時計を見ると二時十五分。どうしてこの時間なのだろう? それにしてもまた手助けとは、一体どういうことなのか?

 わけも分からず次の土地へ。そしてまた同じようなパフォーマンスを繰り返す。ただし、話す内容は昨日とは違う。そんなことを五日間も繰り返しただろうか。ブログに始めてコメントがついた。

「話す内容やパフォーマンスがとてもおもしろいです。次はどこで話すのか、わかったら教えて下さい」

 そうか、予告をするといいのか。その日のブログから早速次の予定を書き入れることにした。この時点で旅がいきあたりばったりではなく計画を持って行うこととなった。

 さらに別の人からも書き込みが。

「なんかすげーって思った。感動です」

 その書き込みを境に、動画の閲覧数が増えていった。さらにブログのコメント書き込みも徐々に増えていく。私のパフォーマンスもだいぶ慣れてきて、徐々に演じる時間も長くなってきた。そしてまた、奇跡が起こった。

「ヒロトシさんですよね。よかったら取材させてもらってもいいですか?」

 私はブログや動画のタイトルを「ヒロトシが日本に笑顔を届けます」としている。それを見た新聞社が、なんと私を取材に来たのだ。

 その翌日の朝刊に私のことが掲載された。おかげで、観客がかなりついている。私はそれを見て、臆するどころかワクワクしてくる。こんな才能が私に隠れてたんだなよぉし、まだまだやってやるぞ。