「あぁ、そんなに離れたところにいるわけじゃないのに、久々に戻ってきたよ」
私はまだ誰も座っていないカウンター席を陣取り、懐かしむヤツの顔をまじまじとながめた。
「マイ、紹介するよ。こいつ、学生時代の悪友で弘寿っていうんだ」
マイって、確か奥さんだったよな。髪が長く、とても綺麗で若く、ヤツにはもったいない。
「初めまして、マイです」
にこやかな顔が店の雰囲気を明るくしてくれる。
「こいつとは学生時代にいろいろと語り合ったからなぁ。今の思想の原点ともいえるかな」
そうなんだ、私もこいつと同じ考えを持っている。だから今日はここに来たんだ。
「おい、早速だけど話があるんだ」
「話、か。うちのオリジナルブレンドでいいか?」
ヤツはそう言うと、早速コーヒーを淹れる準備を始めた。そして耳はオレの方を向けてくれる。ヤツがコーヒーを淹れながら私の話を聴くってスタイルも懐かしい。よくヤツのアパートでこんな感じで会話を進めたものだ。
「おまえ、神様って信じる方だったよな」
オレはいきなり本題に入ることにした。ヤツに回りくどい言い方は不要だ。
「あぁ、神の存在は信じているというより感じているからな」
「じゃぁ、その神様が夢枕に立って、とあるお告げをしたら。お前はどう思う?」
「それが神だという確信が持てれば、そのお告げを信じるだろうけど」
「そうか、まずはそこが問題だったな」
確かにヤツの言うとおりだ。あの夢に出てきたのが神かどうかさえわからないまま、悩んでいる自分がいる。
「神かどうかなんて、どうやって調べればいいんだ?」
ヤツにそう質問。これにはどう答えを返してくるのだろうか?
「そんなこと簡単さ。夢枕に出てきた時に聞けばいいんだよ。あなたは神ですかって」
「それで正直に答えてくれるのかよ?」
「神ならね」
なんだかわかったようなわからないような答えだ。とりあえず話を進めることにしよう。
「じゃぁ、それが神様だったとしよう。その神様から、お前の命は残り三ヶ月だと宣告されたら。どうする?」
ここでヤツの動きが一瞬止まった。
「そうだな、それが真実なら受け入れるしかないだろう。そして、残りの三ヶ月を悔いのないようにどう生きるのか。それを真剣に考えるかな」
オレがヤツに期待した通りの答えが帰ってきた。ヤツは続けて私に質問してきた。
「弘寿、そう言われたのか?」
その顔は真顔であった。私もその質問には無言ではあるが、真剣な目で首を縦に振った。
「そうか、だからここに来たのか」
これに対しても同じように首を縦に振る。ヤツは一拍置いて、こう質問してきた。
「それ、いつだ?」
「夢に出てきたのはつい二日前だ。五月に入るときだった。そして、八月一日の午後三時二十五分にはお前の命は尽きてしまう。そう言われたよ」
「やけに細かい時間まで言われたんだな。でも、どんなふうに命が尽きるんだ? 今病気でも持っているのか?」
「いや、至って健康だよ。先日人間ドッグにも行って異常なしと太鼓判を押されたからな」
「となると事故か何かなのかな?」
「それはわからん。わからんが…これからどう生きればいいと思う?」
私は本気で考え始めた。
「そうか…じゃぁその答えを見つけるのに、こいつに手伝ってもらおう」
そう言ってヤツはコーヒーを私に差し出した。