登場人物
カイン……主人公。口数の少ない優男。元王宮兵士
ヤンガス……元盗賊。カインをアニキと呼ぶ
ゼシカ……元アルバート家令嬢。猪突猛進
トロデ王……亡国の国王。呪いで魔物の姿にされている
ミーティア姫……トロデ王の娘。呪いで馬の姿にさせられている
トーポ……ネズミ
ククール……マイエラ寺院聖堂騎士団
マルチェロ……聖堂騎士団長
オディロ……マイエラ修道院長
ドルマゲス……悪の魔法使い。トロデ王に呪いをかけた道化師
マイエラ寺院。
尋問室にて。
ククールはマルチェロに説教を受けていた。
もちろん、
ドニの酒場での騒動の一件である。
「どこまで修道院の名を落とせば気が済むんだ」
この点では、
マルチェロも頭を痛めているところだった。
聖堂騎士団長であるマルチェロは、
出世欲の大きい野心家ではあるが、
しかし、その野心を叶えるためには、
マイエラ修道院の評判を上げる必要がある。
修道院長のオディロに評価される必要もある。
であるので、
本心では他の聖堂騎士と同じように考えていたとしても、
表面的に横暴に振る舞うわけにはいかず、
暴虐武人でいることもできない。
血の気の多い聖堂騎士たちを諌めつつ、
身勝手な行いをするククールを咎めつつ、
それでいて、執務に手を抜くことなく、
マルチェロは、
日々、苦労を強いられる立場にあった。
切り捨てたいほど面倒な旅人たちが訪ねてきても、
せいぜい嫌味顔をすることぐらいしかできない。
聖堂騎士団長という立場ゆえに、
マルチェロは大きな権力を持つ反面、
好きなように行動できないという足枷をされている。
どうせ外せぬ足枷ならば、と、
さらに大きな権力を求める欲望が、
マルチェロの中に沸々と沸き立ち続ける。
そんなマルチェロの野心に歯止めをかけ、
心の闇を少なからず払ってくれる存在がいた。
修道院長のオディロである。
徳の高いオディロの教えによって、
マルチェロは、良識を保つとともに、
今の地位を築き上げるに至っている。
マルチェロは、
オディロ院長には頭が上がらなかった。
オディロのおかげで今のマルチェロがある、
それは、ただ単に、
良い職務を与えてもらっているというだけに止まらない。
よく出世させてもらっただけに止まらない。
身寄りのなかったマルチェロを
子供の頃から育ててくれた、
という恩があるのだ。
マルチェロにとってオディロ院長は、
命の恩人、
と言っても差し支えないほど、
大きな存在なのである。
マルチェロは不幸な生い立ちにあった。
生まれはドニ。
領主の子として生を受けた。
しかし、正妻の子ではなく、妾の子であった。
ドニの領主はすこぶる評判が悪く、
金に汚く、無類の女好きで、最低の男として、
10年前に他界したときには、
死んでみんなが喜んだ、と言われるほどだった。
そんな領主が、
無類の女好きであった結果生まれた子がマルチェロだったのだ。
マルチェロは、
生まれてすぐに捨てられた。
いや、
捨てられた後に生まれた、と言うべきかもしれない。
ドニの領主は、
妾の子を自分で育てる気など毛頭なく、
妾ごとマルチェロを捨てたのだ。
しかし、
正妻がなかなか子を産まず、
跡継ぎに悩んだ領主は、
一度捨てたマルチェロを呼び戻し、
養子にして跡継ぎをさせようとした。
ところが、
さらなる悲劇がマルチェロを襲った。
この段になって、
正妻が子を産んだのだ。
新しい男子が誕生したという吉事が、
マルチェロに凶事を引き起こしたというのは、
ただただ不幸と言うしかなかった。
正式な跡継ぎを得た領主は、
もはや無用となったマルチェロを
再び追放したのだ。
その頃には、
領主の妾、すなわちマルチェロの母はすでにこの世になく、
身寄りを失ったマルチェロは、
無一文でマイエラ修道院へと追い出された。
そんなマルチェロを拾って育てたのが、
オディロ院長だったというわけである。
マルチェロにとってオディロ院長は、
親であり師であった。
そんなマルチェロにとって、
マイエラ寺院の規律を正すことは、
職務であるとも言え、使命であるとも言える。
もちろん、
野心を叶えるための、中点作業という側面もある。
どの点から見ても、
ククールの愚行を看過することはできない。
「お前は疫病神だ」
説教を通り越して、
マルチェロは、
ククールの行いではなく存在を否定した。
マルチェロとククールは、
立場上は団長と団員という、
上司部下の関係にあったが、
それよりも深く悲しい関係があった。
マルチェロ同様、
ククールもまた身寄りをなくして修道院を訪れた。
マルチェロ同様、ドニで生まれ、
マルチェロ同様、親を失い、
マルチェロ同様、オディロに救われて、
今、マイエラ修道院で聖堂騎士としての立場を得ている。
そして、
マルチェロ同様、領主の息子だった。
唯一にして最大の違いは、
マルチェロが妾の子であり、
ククールが正妻の子であったことだ。
マルチェロとククールの父であるドニの領主は、
ククールが生まれると同時にマルチェロを捨て、
ククールを跡継ぎにすることを決めたが、
結局は10年前に斃れ、
残されたククールは家もなくして修道院暮らし。
先に修道院に入り、先に出世をしていたマルチェロの部下として、
今、ククールは聖堂騎士として修道院に仕えている。
腹違いではあるが、
マルチェロは、ククールの兄であるのだ。
そんな弟に、
マルチェロは憎しみを抱いている。
「お前さえ生まれてこなければ」
マルチェロが不幸な育ちを余儀なくされたのも、
ククールが生まれてきてしまったから。
マルチェロは、そう言ってククールを責め、
「お前と同じ血が流れているかと思うとぞっとする」
と吐き捨てた。
散々罵られた挙句、
ククールはマルチェロに謹慎処分を言い渡された。
もし修道院から出た場合は、院を追放する、
そうマルチェロに固く釘を刺された。
もうドニの酒場でギャンブルもできないのか、
と、ククールはため息を吐く……どころではないことが、
この時ククールにはわかった。
相当に禍々しい気配を感じたのだ。
同僚たちに聞くと、
ククールが説教を受けている間に、
恐ろしい雰囲気の道化師が、
オディロ院長の部屋に入って行ったと言う。
お笑い好きのオディロが、
芸人を自室に呼ぶことは度々あったが、
今回はひどく危険だ。
そうククールは直感する。
ククールはすぐにオディロ院長の部屋を訪ねようとした。
が、
門前で、見張りの聖堂騎士に追い払われてしまう。
頭の固い騎士たちは、
マルチェロの許可がないと、
何人たりとも、オディロの部屋には通せない、と言う。
しかし、
たった今、謹慎処分を受けたククールに、
マルチェロが許可を出すはずもない。
オディロを守りたいと思いつつも、
手立てを持たないククールが焦りを覚えていた、そんな折り。
ククールの前に3人の旅人が現れた。
優男と悪人面と、ククール好みの美女だった。
「あれ、あんたたちは確か」
ククールはすぐに名前を思い出す。
カインとヤンガスとゼシカである。
「なんでこんなところに?」
ポカンとするククールに、
「あんたが指輪を返しに来いって言ったんでしょ!」
とゼシカが怒鳴る。
それを聞いてハッとするククール。
言われて思い出したのだ。
ククールは、
ゼシカに指輪を渡していたことを思い出すと同時に、
その指輪が移転前の旧修道院の鍵になっていることを思い出した。
今は廃墟となってしまっている、
古い時代に使っていた修道院建屋のことだ。
その古い修道院は、
オディロ院長の部屋へと繋がっていると、
ククールは聞いたことがある。
つまり、
頭の固い聖堂騎士たちに通してもらうことなく、
マルチェロの許可を得ることなく、
院長の部屋まで行くことができる経路があるということだ。
ククールは、
カインたちに捲し立てるように言った。
「頼みがある。院長の部屋に道化師が入って行った。今感じる禍々しい気配は、そいつのものだ。オディロ院長の身が危ないんだ。助けてくれ」
古い修道院は、現修道院から少し離れた場所にあり、
謹慎中のククールが行くことのできる場所ではない。
ククールが頼ることができるのは、
ただ1度会ったことがあるだけのカインたちだけだった。
どういうわけか、
カインたちも、
『道化師』という言葉に敏感に反応した。
ククールが、道化師の邪悪な気配について多く語らなくとも、
カインたちはすぐに納得して、
オディロを救う協力をしてくれると言う。
「誰があんたの頼みなんか聞くものですか!」
と言っていたゼシカも、
手のひらを反すように、協力的になった。
「指輪が入り口の鍵になっている。頼む。急いでくれ」
そのククールの言葉が終るより前に、
カインたちは走り去っていった。
あまりの物わかりの早さにククールは驚きながら、
同時に、次の作戦にも考えを巡らせる。
カインたちは信用できそうだが、
しかし、それでオディロ院長を守れるかどうか、
ククールには不安が残る。
だいいち、
自分で何とかしたい気持ちが強い。
カインたちを裏口に向かわせている間に、
自分は正面から入る方法を探す。
どうにかして、
頭の固い騎士たちの目を盗まなければならない。
場合によっては、
カインたちを囮に使う手もある。
裏口から侵入者だ、と言えば、
騎士たちも道を塞いでばかりもいられないはずである。
そうすれば、
正面から自分がが入ることも、
できるかもしれない。
優男を騙すのは気が引けるが、
向こうだって、俺がイカサマ師なのは知ってるはずだ。
計画を立てつつも、ククールは祈る。
時間がない。
いずれにしても、
早くカインたちに裏口まで到達してもらう必要がある。
カイン:レベル、ドニ
プレイ時間:12時間59分
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