カインが奴隷として石を積み上げて場所。
ここ大神殿は、長い年月の末、
遂に光の教団の本部として機能するに至っていた。
マスタードラゴンの背から大神殿に降り立つカイン。
再びこの地を踏むことになって、感慨深いものがあった。
奴隷のときには、逃げ出すことで精いっぱいだった。
今度は、自分の意志でここを訪れることになろうとは、
思ってもみなかった。
一度は自分で築いた神殿に、
今、敵として乗り込むことになろうとは、思ってもみなかった。
カインは、ゲマへの憎しみ故、
また、母マーサと妻デボラを助けたいが故、
教団に敵対していたが、
自分の行動が正しいかどうか、自信を持てなかった。
光の教団を支持する声は、世界中で聞こえていた。
身内の仇のため、身内を助けるために、
この世界中の声に敵対することが正しいことかどうか、
明確な答えを持っていなかった。
一方で、カインは、カミュという勇者を擁しており、
勇者の名のもとに、
正義を振りかざすことができることを自覚していた。
もしかしたら、カインがどんな行動をとったとしても、
後世の歴史には、
勇者こそが正義である、と伝えられるかもしれない。
あるいは、光の教団と勇者が敵対した場合、
勝者こそが正義であった、と語られるかもしれない。
カインが求めているものは正義でもなんでもなかったが、
勇者であるカミュを正義へと導く義務があると考えるカイン。
カインは、今、勇者の存在を重く感じていた。
確かにカミュは可愛くて愛おしい。
そして、その愛おしいカミュが勇者であることを
初めは誇らしく思った。
しかし、幼くして、
勇者の使命を全うせざるを得ないカミュを不憫にも思うし、
一方で、その父であるカインは、
カミュの手本として、
強く正しい行いをしなければならないことを重荷に感じていた。
カインは、我が子に、
危ない所へは近付かないようにと教育したいと思っていた。
しかし、我が子が勇者であるとなると、
積極的に危ない所へと赴き、その根本を解決するように、
働きかける必要があるような気がしてきた。
カインは、我が子に、
他人に騙されることのないように、
人の発言を簡単に信用しないように教育したいと思っていた。
しかし、我が子が勇者であるとなると、
人々の言葉を疑うようなことを
教えるわけにはいかないような気がしてきた。
危険であるとしても、身を引くなかれ。
騙されるとしても、疑うことなかれ。
勇者とは、なんと重い使命を持っていることだろう。
勇者を育てる者として、自分はその器を持っていないのではないか。
カインは何度もそう思った。
一度は、子育てのあり方を考えたカインだったが、
子育てと勇者育ては、根本的に異なることを
今になって知ることになる。
平凡であっても、健やかに生きてくれれば、
親としても嬉しいことであったかもしれない。
しかし、勇者は、平凡であることを許されず、
死と隣り合わせに生きていかねばならない存在なのかもしれない。
そんな生き方を余儀なくされるカミュの親として、
カインは辛かった。
単純に、我が子が勇者であることを誇れる心境には、
とてもなれなかった。
そんなカインを神殿で待ち受けるは、
マーサと名乗る女性神官だった。
女性神官はカインにこう話しかけた。
「もう気付いているでしょう。私はあなたの母です。」と。
カインは激しく心を揺さぶられた。
魔界から助け出すつもりだった母マーサが、
今、教団の神官として、自分に相対している。
何かの間違いであってほしい、とカインは祈り続けた。
そんなカインの心境を逆撫でするごとく、女性神官は続けた。
「思えば、パパスという男は、実につまらない男でした。」
カインは、
マーサの口からそんな言葉が発せられたことが信じられなかった。
「そうそう、こんなこともありましたよ。聞きたいですか?」
パパスをつまらないと言うからには、
それ相応の理由があるのだろう。
カインは、その話の内容に聞き入った。
「聞きたいならば、教団の教祖のイブール様に忠誠を誓うのです。」
カインは、もちろん拒否した。
教団と戦うためにここに来た自分が、
教祖に忠誠を誓うなど馬鹿げている。
しかし、教団に敵対する理由は、母マーサを救うため。
教団側に母マーサがいるからには、
カインが教団に敵対する理由はない。
そう思っていると、案の定、女性神官はこう口にする。
「この母と戦うことになったとしても、イブール様に忠誠を誓うことを拒みますか?」
今度は拒めなかった。
母を助けるために旅を続けてきたカインに、
母と戦うことなどできなかった。
母さんは・・・、母さんは操られているんだ。
カインはそう願った。
そう願わずにはいられなかった。
もちろん、最初はニセモノであるとも考えた。
しかし、マーサの顔を知るサンチョが、
マーサ本人の姿であることを確認していた。
母さんを操りから解放するにはどうしたらいい?
ひとまず、どんな手段で操っているのか、探る必要がある。
いずれにせよ、一旦イブールとやらに忠誠を誓ったフリをして、
母さんに近付き、様子を見よう。
カインは一時的な結論を出した。
「では、イブール様に忠誠を誓いますね?」
カインは頷いた。
それを見た女性神官は、カインに怪しいまじないをかけ、
カインたちは呪いの餌食となった。
カインたちの呪いを確認して、かかったな、とばかりに、
女性神官は、ひとつ目の巨人に姿を変えた。
「ばかめ!マーサなど、もはやこの世界にはおらんわ!」
襲いかかる巨人をカインは一蹴した。
体を包む呪いの闇に蝕まれたカインは、
逆に、心の闇から解放されていた。
よかった。
よかった。
本物の母さんじゃなかったんだ。
もう顔も覚えていないけれど、
話したこともないけれど、
母さんがあんなことを言うわけがないと思っていたんだ。
父さんと母さんは、
それはそれはお互いを尊敬し、尊重し合ってきた関係なんだ。
これは、カインの単なる希望ではあったが、
事実は、このカインの希望と相違なかった。
「おばあちゃんに化けるなんて、許せない!」
巨人を倒した後、カミュが怒りを露わにする。
しかし、カインには怒りなどなく、安堵の気持ちでいっぱいだった。
女性神官が、母マーサでないとわかった瞬間の安堵感。
父パパスを罵倒したのが、母マーサでなかったとわかった安堵感。
教祖イブールを崇拝するのが、母マーサではなかったという安堵感。
巨人を倒し、安堵感に包まれ、
カインは腰を抜かして床に膝をついた。
ははは。カミュ。おばあちゃんは教団の神官なんかじゃなかったよ。
カインは鼻声になりながら、カミュにそう言った。
しかし、気になるのは、
巨人の言った言葉。
「マーサはこの世界にはいない。」
これは、もう死んでいることを示すのか、
この世界ではなく魔界にいるということなのか。
いずれにしても、カインはまだ目的を達成してはいない。
まだまだ、カインは進まねばならなかった。
ところで、今になって気付いたのだが、
石になったデボラが、神殿には飾ってあった。
そうか、ここにいたのか、デボラ。
カインは、デボラの頬をそっと触った。
冷たい石の感触がした。
見えてるかい、デボラ?
聞こえてるかい、デボラ?
僕たちが、必ず助けてみせるからね。
ほら、デボラ、カミュとクレアだよ。
あの日、君が守ったカミュとクレアが、
もうこんなに大きくなっているんだよ。
カインは、何も言わない石像に、延々と話しかけた。
カミュとクレアとサンチョには、
その姿が奇異なものに映ったが、
石化経験のあるカインは、
この言葉が、デボラに伝わっていると信じていた。
しかし、とカインは思う。
ゲマという輩は、なんと酔狂な振る舞いをするのだろう。
ひと思いに殺せたものを
奴隷にしたり、石にしたり、
やたら回りくどいことをしている。
さらに、ここ大神殿にデボラ像を飾るつもりだったのなら、
ゲマが自分で石像を持ち帰ればよかった。
それをわざわざトレジャーハンターから貢がせるなどと、
やたら回りくどいことをしている。
ボブルの塔でも、ゴンズと共に待ち伏せをしたかと思いきや、
カインの力量を計ったのみで脱出してしまった。
さらに、こんなことも思う。
なぜ、巨人はわざわざマーサの姿に変身していたのか。
マーサ自体に知名度があるならばともかく、
エルヘブンの隠れ里から人知れずグランバニアに嫁いだ、
名もなき一児の母である。
そんなマーサの姿に変身するのは、やや不自然である。
仮に、カインが来ることを見越していたとするならば、
もっと不自然なことがある。
教団にとって大事な大事な天空の鎧の番人が、
蛇手男という、なんとも弱弱しい魔物だったのだから。
カインが来ることがわかっていたら、
天空の鎧に、あんな小物を配置しなかっただろうと、
カインには思えてならない。
ゲマが酔狂なのか、教団が酔狂なのか、
カインにはわからなかったが、
おかげで、カインは今まだ命を長らえているし、
天空の鎧も簡単に手に入れることができた。
そういえば、石化させられたとき、
ゲマとジャミでさえ、
よく意思疎通ができていなかったことを思い出したカイン。
このまとまりのない教団に引導を渡すために、
カインは神殿の地下に潜るのだった。
カイン:レベル32、プレイ時間22時間59分
パーティー:カイン、カミュ、クレア、サンチョ、ピエール、ベホマン、ゴレムス、エビルマ

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