塔の最上階で、ジャミと再会することとなる。
カインは、憎きパパスの仇であるジャミを覚えていなかった。
何せ、パパスがジャミと戦っていたとき、
カインは気絶していて、ジャミの姿を確認していなかったので。
ジャミもカインを覚えていなかった。
何せ、奴隷としてさらった子供の顔など、
いちいち覚えていられなかったので。
こうして、お互い初対面だと思ったまま、戦闘へと突入した。
ジャミには狙いがあった。
グランバニア王を抹殺し、
自らがグランバニア王になりすまして、
国を乗っ取る、という狙いが。
そのためにグランバニア王妃を連れ去り、
王自らが王妃を助けに来たところを抹殺するという、
なにやら無駄にややこしい策を練っていた。
ジャミは、策略家気取りだったが、
どんな策略家も犯さないような愚を犯していた。
それは、祝い酒に眠り薬を仕込むことに、成功したにもかかわらず、
眠りこけているカインに手も出さず、
敢えて、唯一眠らなかったデボラを連れ去ったことである。
通常、第一目標のカインを仕留められる機会があるのなら、
まずはカインを殺害するのが、暗殺の王道である。
そして、それが叶わないときのみ、
第二目標として、王妃誘拐を考えるのが妥当な思考回路。
この場合、ジャミは自分の居場所をカインに伝え、
ひとりで来なければ、王妃の命はない、
ということを伝達しておく必要がある。
そうでなければ、カインの捜索が遅れれば遅れるほど、
ジャミ側もカイン暗殺が遅れることとなるし、
カインでなく、グランバニア兵士団が訪れた日には、
多勢に無勢な上に、カイン殺害も果たすことができず、
ジャミとしても手を打つことができなくなるからである。
よく考えれば、穴の多いジャミの策略であったが、
その穴をくぐることなく、
カインは単身、ジャミのもとにたどり着く。
つまり、このジャミとカインの対決は、
穴の多い策略と、カインの失策の双方が相まって、
実現した戦いでもあった。
さらに、今となっては何のビジョンを持っていたのか、
よくわからない大臣。
3者の愚による、
世にも珍しい形の暗殺事件が起ころうとしていた。
戦局はまず、ジャミが優位に立っていた。
カインの剣では、ジャミの体に傷を付けることができなかった。
逆に、ジャミの蹄は強力で、
カインは為す術がないところまで追い込まれた。
しかし、この窮地を救ったのは、デボラだった。
本人さえも知り得ないことであったが、
デボラは天空の血を引く子孫であり、
その隠された力が、ジャミの纏う邪気を振り払った。
そして、ジャミは、カインとデボラに敗れ去った。
「ゲマ様、ゲマ様・・・」
死に際にジャミはゲマの名を呼んだ。
ゲマが駆けつけたのと、ジャミが息絶えたのは、
ほとんど同時だった。
ゲマは高笑いをしながら現れた。
カインは、ゲマの顔は忘れていなかった。
父パパスを死に追いやった張本人。
突如現れたゲマを前に、
カインを襲ったのは憎しみと恐怖。
父を殺された怒り、悔しさが沸々と沸いてきた。
一方で、自分も父と同じ末路を辿るのではないかという恐れも。
この憎しみのあまり、そして恐怖のあまり、
カインはゲマに直面して身動きがとれなかった。
ゲマは、デボラを見て気付いた。
天空の血を引いていることを。
ゲマは、
天空の勇者は、高貴な身分の者である、という、
魔界の王ミルドラースの予言を信じて、
貴族を狙って勇者狩りをしていた。
以前、高貴なヘンリーを狙ったのも、そのためであった。
すでに、デボラの血を引くカミュとクレアが、
存在していることを知らないゲマは、
デボラを封じることで、
天空の血が途絶えるものと思っていた。
ジャミが殺害しようと思ったのはカイン。
そして、そのために誘拐したのがデボラ。
逆に、
ゲマが封じたかったのはデボラ。
そして、ついでに封じられるのがカイン。
ジャミとゲマの狙いは違うものであり、
どうにも意志疎通がとれていない光の教団であったが、
カインが身動きできないでいることもあり、
とにかくも、ゲマの石化能力で、
カインもデボラも石像と化してしまうのだった。
「その体で、世界の終わりを見届けるがいいでしょう。」
そう言って去って行くゲマを
ただ見つめるしかできないカインとデボラ。
2人の運命は、この後、さらに辛いものとなるのだった。
2人組のトレジャーハンターがいた。
ハンターたちは、危険な洞窟や塔に入り、
宝を探しては、持ち帰って売ることを生業としていた。
今回、このハンターたちの目に止まったのが、
カインとデボラだった。
石像と化したカインとデボラを
精巧な彫刻と思ったハンターたちは、
2体の石像を運び出し、持ち帰って競売にかけた。
カインを競り落としたのは、とある富豪。
富豪は、幸せを呼ぶ像だと信じ、
自宅にカインを飾った。
カインは、もはや見聞きすることができるだけの石像だった。
あまりに長い年月を
カインは石として過ごした。
富豪にはジージョという子供がいた。
ちょうどカミュやクレアと同じくらいの赤子だったことが、
カインには見て取れた。
来る日も来る日も、カインは石として、
その家とジージョの成長を見守った。
ある日、ジージョは立って歩くことができるようになる。
日に日に成長するジージョの姿を
カインはカミュとクレアに重ねた。
何もできない父としての自分が歯がゆかった。
カインはまた、ジージョの母親を見ながら、
デボラのことにも思いを馳せる。
何もできない夫としての自分がまた歯がゆかった。
ジージョはまた成長し、
走り回れるような子供になっていた。
その光景はほほえましいものであったが、
すぐに、緊急事態であることを知ることになる。
モンスターの魔の手が、ジージョに延びていた。
魔物が、ジージョを連れ去っていくのを
カインは、ただただ見ているしかできないのだった。
それから、明るかった富豪の家族から笑顔が消えた。
来る日も来る日も、富豪はためいきばかりをついた。
ついに、富豪は、カインを蹴り倒した。
何が幸せを呼ぶ像だ、と罵倒した。
それからも、ジージョの捜索は続いたが、
うれしい知らせは、結局届かなかった。
カインは、倒れたまま起き上がれないでいた。
倒れたまま、朝が来て夜が来た。
秋が来て冬が来た。
春夏を巡ってまた秋が来て、そして冬が来た。
横倒しのまま年月を経て、
カインは風化しつつあった。
冬を6回越しただろうか、7回越しただろうか。
もう、数え切れないほどの日々を
石として過ごしてきたカインに、
やっと光が射す日が来た。
カインの耳に、懐かしい声が聞こえる。
カインの目に、懐かしい姿が見える。
それは、カインが幼少の頃より、
声も姿も変わりなく、
忠誠心も変わりないサンチョであった。
「さあ、ストロスの杖を。」
これは聞き慣れたサンチョの声。
「うん。」
こちらは、聞き慣れない少女の声。
聞き慣れなかったが、
声の主が、自分の娘であることは直感的にわかっていた。
生まれたばかりのジージョが、
すくすくと育ち、
走り回るのを見ていたカインは、
サンチョがつれてきた少年少女が、
ジージョと同世代のカミュとクレアだと、すぐにわかった。
ストロスの杖は、カインを石化から解放した。
カインは、瞬間的に、
自分の体が動くようになっていることがわからなかった。
「ぼっちゃん、いえ、カイン王。」
サンチョがカインの手を取り、起き上がるのを助ける。
「お父さん!」
カミュが、クレアが、口々にカインを呼ぶ。
ようやく体を動かせたカインは、
もう一度、体が動くことを確認し、
感余って涙を流した。
また動けるようになるとは思っていなかった。
またサンチョに会えるとは思っていなかった。
カミュと、クレアと、
こうして会話ができる日が来るとは思っていなかった。
カミュ、クレア、こんなに立派になって。
カインは嬉しくてしかたなかった。
同時に、
「パパ」と呼ばれなかったことで、察することがある。
それは、デボラがまだ助かっていないこと。
カインには、デボラがまだ生きているのかどうか、
わからなかった。
しかし、カミュとクレアは、
デボラが生きていることを信じて疑わなかった。
デボラを助け出せることを信じて疑わなかった。
カインは、子供たちのその姿を見て、学ぶべきを知る。
そうだ、子供たちが信じているのに、
僕が信じなくてどうする。
デボラ、待っていてくれ。
僕たちが必ず助けに行くから。
そして、母さん。いや、今となってはおばあちゃん、かな。
おばあちゃんも、僕たちが必ず助けるからね。
そのために、伝説の勇者が必要であるのだが、
カインには、もうわかっていた。
デボラが天空の血を引く者であるということは、
デボラの子のカミュとクレアのどちらか、
または両方が勇者であることが。
そう思って聞いてみると、
カミュは天空の剣を装備できるのだという。
カインには込み上げるものがあった。
それは、無駄じゃなかった、という思い。
奴隷生活は無駄じゃなかった。
勇者を産むべき存在、デボラが成熟するまでに、
あの長きにわたる期間が必要だった。
石化時代も無駄じゃなかった。
カミュが剣を扱えるようになるまでに必要な期間だった。
父さんが探し出した天空の剣、
装備できたのは、他ならぬ父さんの孫だったよ。
カインは、
このときほど運命というものを感じたことはなかった。
すべては、父さんから始まっていたんだね。
僕がこうして生き延びているのも、
僕がデボラと巡り会えたのも、
始まりは、すべて父さんだったんだね。
こうして、親子3代に渡り受け継がれる宿命に、
強い因果を感じるカイン。
故パパスに、
子供たちを守り抜くことと、母マーサを助けることを誓い、
グランバニアへと帰還するカインだった。
カイン:レベル25、プレイ時間15時間39分
パーティー:カイン、カミュ、クレア、サンチョ、ピエール、ゲレゲレ、ベホマン、マッド

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