なんとなく、カインの頭の中で、
結婚するためにサラボナに行く、
ような図式が出来上がってしまっているが、
サラボナに行くのは、あくまで天空の盾のため。
サラボナに行けば結婚できる確証など、
もちろんありはしない。
少なくとも、カインはそう理解しているはずであった。
にもかかわらず、
ヘンリーの入れ知恵のおかげで、
結婚が頭から離れなくなってしまっているカイン。
サラボナに着いて、早々に遭遇した女性との出会いを
運命の出会い、と思い込んでしまった。
女性は、名をフローラと名乗った。
フローラは、愛犬リリアンの散歩の途中で、
突如走り出すリリアンに振り切られて息を切らしていた。
たまたまそこに居合わせたカインは、
リリアンをそっと抱きかかえ、フローラに返す。
カインはリリアンを返しながら、フローラの目を見つめた。
「あら、初めてのはずなのに、どこかでお会いしたような・・・」
フローラは言う。
カインも、この青い瞳に見覚えがあった。
そして、考えに考え、
カインは思い出した。
10年前、ビスタ港で一瞬すれ違った青髪の少女のことを。
パパスに手助けされ、
カインと入れ違いに船に乗った青髪の少女のことを。
今、カインは幼い日のことを思い出しながら、
運命の出会い、という直感が、
あながち間違っていなかったことを納得した。
カインは、旅すがら、フローラの噂を聞いていた。
いや、サラボナの令嬢の噂を聞いていた。
サラボナの令嬢がフローラで、
それがこの青髪青目の女性で、
しかも、
10年前のビスタ港での出会いがあったことがわかったのは、
たった今のことである。
マリアよりも前に修道院に仕え、
6年間のシスターとしての務めを終え、
ほんの先日、サラボナに帰ったばかりの女性。
誰もがうらやむ器量の持ち主であり、
そのしとやかで温厚な性格は、
これまた誰もが認めるところだと聞いていた。
そのフローラを前に、カインは今、
運命の出会いを体験したのであった。
誰の思惑か、誰の謀か、
奇しくも、カインの頭の中と同じことに、
この町は今、フローラ嬢の結婚の話題で持ちきりだった。
なんでも、
フローラ嬢の父ルドマン氏が、
娘の婚期を鑑みて、フローラ嬢を修道院から呼び戻し、
花婿探しをしているということだった。
花婿探しは、募集型で行われた。
自信のある者は婿として立候補し、
ルドマンが候補者たちに試練を与える。
この試練を乗り越えられた者が、
晴れてフローラを花嫁に迎えることができる、
そういう形式だった。
なんとなく、政略結婚的な要素があることを気にしながらも、
カインは自らも立候補した。
それは、ヘンリーの言葉が効いていることもあり、
運命の出会いを感じたこともあるが、
ルドマンの言う「試練」に興味があったからでもあった。
この時点で、カインは、
結婚というものを浅く考えていたし、
だからこそ、ほんの一瞬の面識しかない女性の婿に、
立候補するという行動に出ていたのだった。
候補者が揃ってから、
一同の前にルドマン氏が現れる。
ルドマン氏の発言はこうだった。
どこにでもいるただの男に、
大事な娘のフローラは嫁に出せない。
だから、「炎のリング」と「水のリング」という、
特殊な指輪を探し出し、
結婚指輪とすることが出来る強者のみ、
フローラの婿としてふさわしい。
その勇気のある者は、指輪を探し出し、
それを以て求婚すること。
そうすれば、ルドマン家の家宝の盾も与えよう、
と。
この家宝の盾こそが天空の盾であるというのが、
もっぱらの噂。
一方で、フローラは、
このルドマンの考えに賛成しているわけではなかった。
結婚する相手は自分で見つけたい、という思い、
そして、何より、自分のために、
他人が危険な試練に飛び込むのを見てはいられない、
という思いを持っていた。
これを知ったカイン。
カインは今、複雑な心境にいた。
端から見れば、
花嫁と天空の盾が同時に手に入るチャンスのように見える。
しかし、母を探し、勇者を探しているカインからすれば、
フローラとの結婚は、単に、
天空の盾を手に入れるための手段なのではないかと、
自問せずにはいられない。
いったい僕は、
天空の盾欲しさにフローラさんに求婚するのか、
フローラさんと結婚したい一心で、天空の盾は二の次なのか、
どっちなんだろう。
カインには答えはわかっていた。
サラボナに来た理由、
それは天空の盾を目指して来ていたのだから。
カインをそこまで悩ませた存在。
それはアンディという青年だった。
彼はフローラと幼なじみで、
幼い頃からフローラに恋心を抱いていたという。
そして、そのことをおくびにも出さずに、
今、この試練に向けて、
ひとり危険な旅に出ようとしている。
その誠実な人となりを前に、
カインは自分の行動を省みる。
それは、確かに幼少の頃、一度すれ違ったかもしれないが、
実質的には、ほんのさっき顔を見た程度の知り合い。
そんなフローラを
たまたま天空の盾を探してこの地に来たカインが、
堂々と求婚していいのだろうか。
アンディのあの一心不乱な熱意に対して、
自分の熱意は恥ずかしくないものであるのか。
答えは否である。
カインは、
その場の勢いでエントリーしてしまったことを後悔した。
しかし、そうしなければ天空の盾は手に入らない。
いや、でも、
だからといって、フローラさんをダシにしていいものか。
天空の盾への執着と、アンディの熱意に、
板挟みにされているカイン。
結論は・・・、出ない。
待て待て、結論を出すのは、もっと後でもいいのではないか?
指輪を探した後にでも、
指輪と引き換えに、
天空の盾を譲ってもらう交渉をすることはできないか?
いやいや、それはいささか卑怯であると言わざるを得ない。
フローラさんの気持ちを考えると、
ルドマンさんの気持ちを考えると、
アンディの気持ちを考えると、
もう、僕は引くに引けないところまで来ている。
それを自覚しつつ、
カインは、悩み悩み2つのリングを探す旅に出るのだった。
カイン:レベル17、プレイ時間17時間50分
パーティー:カイン、ブラウン、スラりん、ピエール、ゲレゲレ

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