伝説の勇者の情報がぱったりとなくなって困ってしまった。
カインは、地図を見ながら、当てもなく歩き回り、
やがてルラフェンという町に行き着いた。
この町には、古代呪文を研究している老人がいた。
老人曰く、
ルラムーン草を採ってくれば、
古代呪文がひとつ蘇る、とのこと。
特に急ぎの用があるわけでもないカイン。
この頼みを二つ返事で引き受け、
すぐにルラムーン草を見つけて、
老人に持っていく。
老人は、ルラムーン草を大鍋に投げ込み、
大きな爆発とともに、
古代呪文であるルーラが蘇る。
この呪文は、一度行った城や町へ移動できるという呪文。
不思議なのは、
ルーラを修得するのは、この老人かと思っていたら、
なんと、カイン自身だったこと。
何の儀式もなしに、いつの間にか呪文を覚えていた自分自身に、
カインは驚いていた。
驚くカインを見ながら、
嬉しさ満面の笑みで老人が言う。
「さあ、その呪文を使ってみてくれ。」と。
そう言われてカインは考える。
今まで行った場所で、戻りたい場所はあるか、
と言われると、
特にない、と言うのが本音。
戻りたくない場所、ならある。
それはラインハット。
どうも、あの国の風土や考え方が自分には合わない。
カインはそう思っていた。
しかし、これまたほんのさっきのことなのだが、
ヘンリーが結婚したというウワサを耳にした。
ラインハットは苦手だけど、
ヘンリーとは、ともに苦労を分かち合った仲。
お祝いに行かないわけにもいかない。
むしろ行きたい。
そう考えて、カインは、
古代呪文ルーラの第一目標地をラインハットと定めた。
呪文を唱えながら空へと舞い上がるカインを見て、
老人は、古代呪文の復活成功をひとり祝うのだった。
さて、飛んで戻って来たはラインハット。
一目散にヘンリーのもとへと行くかと思いきや、
カインはひとり考えごとをしていた。
それは、ヘンリーの結婚相手について。
カインにも心当たりがないわけではない。
ヘンリーが修道院のマリアに想いを寄せていたことは、
カインも知っていた。
だから、ヘンリーの奥さんがマリアさんだったら、
それは喜ばしいことだけど、
もしそうでなかったら、
僕は喜んであげられるだろうか。
そう考えて、カインは半ば天に祈っていた。
相手がマリアさんでありますように、と。
意を決して、カインはヘンリーに会いに行く。
が、昔ヘンリーの部屋だった場所は、
今や太后の部屋になってしまっていた。
ちょっと肩透かしをされてしまったカイン。
こっちが太后の部屋ということは、
元太后の部屋がヘンリーの部屋かな?
カインは、何度も来たはずのこの城で、
迷い迷いヘンリーを探した。
ヘンリーにお祝いの言葉を。
そのつもりで来たカインだったが、
迷い迷っているうちに、
デール王から、重要な情報を聞くことができた。
ルラフェンから南にサラボナという町があり、
その町に天空の盾があるという情報。
なるほど、じゃあ、次の目的地はサラボナか。
なんとなく、もう目的を果たした気になってしまったカイン。
違う、ここに来た目的はヘンリーへのお祝いだった!
危うく、サラボナに直行しそうだったところを
すんでのところで思い止まって、
ヘンリーの部屋を目指すカイン。
ヘンリーの部屋は、予想通り、
元の太后の部屋だった。
部屋に入る前に、カインは、もう一度心の準備をした。
ヘンリーの奥さんがマリアさんでありますように。
ガチャリ。
扉を開くのはカインじゃなくて衛兵。
ゆっくりと開かれる扉の隙間から、カインは見た。
ヘンリーの相手がマリアであることを。
そしてヘンリーとマリアが、仲睦まじそうにしているのを。
カインは、ここで初めて、
心の底から喜ぶことができた。
ヘンリー、よかった。
ヘンリーの恋は成就したんだね。
本当によかった。おめでとう。
ヘンリーは照れくさそうに笑う。
「お前も呼ぼうと思って探したんだけど見つからなくてさ。」
本当に探したのか~?と一瞬いぶかしむカインだったが、
それは表情には出さない。
ちょっといぶかしんだ理由は、
ビスタ港から、ラインハットの許可で一隻だけ船が出て、
カインはそれに乗って行った。
そして、着いたポートセルミで騒ぎを解決し、
カボチ村へと行った。
その後、ポートセルミへと戻り、
ルラフェンに着いたときには、
もうヘンリー結婚の報が流れていた。
つまり、ポートセルミだけ探せば、
足取りが掴めそうなものでありそうだが。
と、いうのが、カインがいぶかしんだ理由。
「本当はマリアはお前のことを好きだったのかもしれないが・・・。」
ヘンリーは野暮なことを言う。
「あなた、そんなことは・・・。それに、カインさんには、もっとふさわしい人があらわれますわ。」
少し取り繕った感じのマリア。
「ま、そんなわけだ、わはは。お前もいい人を見つけろよ。」
結婚。
奴隷生活が長かったこともあり、
カインは、そんなことを考えたこともなかった。
そういう年齢でもないと思っていた。
しかし、いつしか酒が飲める歳になり、
結婚を考える歳になっていようとは。
そんなことを考えている間に、
ヘンリーは記念の品をプレゼントしてくれると言う。
その段になって、カインは急に恥ずかしくなる。
祝いたいのはカインのほうであって、
プレゼントすべきもカインであるにも関わらず、
自分は手ぶらで来てしまった上に、
逆にプレゼントをもらうことになってしまうとは。
「記念品は、例の宝箱に入れてあるからな。」
と、ヘンリー。
例の宝箱、とは、
カインとヘンリーが初めて会ったときに、
親分子分の契りを結ばされた、
ちょっとほろ苦い絆の宝箱。
その宝箱も、
今や太后の部屋の一部となっていて、
ヘンリーの記念品を取りに行くのに、
わざわざ、何度も太后の部屋を縦断しなければならなかった。
宝箱の中には、手紙が入っていた。
そう、記念品というのは、建前で、
ここには、ヘンリーがカインに伝えたいことが書かれていた。
「面と向かって言うのは照れるから」。
文の書き出しはそれだった。
手紙には、
父パパスの件に関して、本当に申し訳ない気持ちがあること、
一日だってあの事件を忘れたことなどないこと、
伝説の勇者探しという途方もない旅へのねぎらい、
自分ができることを全うしたいという志、
そして、自分たちは親分子分じゃない、友達だ、
ということが書かれていた。
カインは目頭が熱くなる思いで、その手紙を読んだ。
隣の部屋の太后に、鼻をすする音が聞こえないように。
カインは、再びヘンリーの部屋を訪ねた。
「はは。また引っかかったな。本当の記念品はこっちだ。ほら。」
もちろん、カインにはこのヘンリーの気遣いが理解できている。
カインは手を差しだし、ヘンリーに握手を求めた。
ヘンリーも黙ってカインの手を強く握る。
2人はそのまま、目と目で、
感謝の意を込めた視線の会話をし、
そして別れるのだった。
カインはルラフェンへと戻り、
ヘンリーの言葉を思い出していた。
「お前もいい人を見つけろよ。」
カインはまだ実感が湧かないでいた。
母を探す旅の途中に、伝説の勇者を探す旅の途中に、
結婚などしてもよいものだろうか。
カインは自問自答を繰り返していた。
そして、ある答えにたどり着いていた。
確かに旅の途中ではあるけれど、
それと結婚は別物であるはず。
旅人が結婚していけない道理はない。
そういう答え。
では、誰か妻ができたとして、
旅に付き合わせることになるのか。
いや、危険な旅に、最愛の人を連れていく男がどこにいよう。
妻には、自分の旅が終わるまで、
どこか安全な場所で待っていてもらおう。
そして、伝説の勇者とともに母マーサを助けたときに、
晴れて母親に妻を紹介しよう。
いやいや、よく考えたら、自分も母の顔がわからない。
妻を紹介する前に、まず自己紹介から、かな。
おっと。
と、カインは自分が勇み足気味であることに、
今更ながら気が付いた。
結婚を考える前に、相手がいないじゃないか。
誰のことを考えていたんだ、僕は?
そこまで考えながらも、
さらにカインは思いを馳せる。
確かに、少し勇み足気味ではあるけれども、
探していてこそ初めて見つかるものもある。
求めてこそ初めて気付くこともある。
相手に当てがないからと、
ヘンリーの言を軽んずることもない、
と思うカインだった。
カインは、サナボナを目指しながら仲間たちに質問する。
ブラウン、どうやったら結婚できると思う?
「ウ~ン、ウ~ン」
そうか、運か!勉強になります。
じゃあさ、結婚生活で大切なことって何だと思う?
「ヨイショヨイショ」
そうか、ヨイショが大切か!勉強になります。
ゲレゲレ、どう思う?
「ガルル、ゴロゴロ」
そうか、ごろごろも大切か!勉強になります。
運が良ければ結婚できる!
そして、
ごろごろしながらヨイショしていれば結婚生活はうまく行く!
だけど、
僕は運の良さが低いし、じっとしていられないし、無口だし、
彼らのアドバイスを活かせるだろうか。
果たして、カインの運命やいかに。
カイン:レベル17、プレイ時間7時間29分
パーティー:カイン、ブラウン、スラりん、ピエール、ゲレゲレ

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