サンタローズを出発するときに、パパスはそう言った。
思い起こせば、カインには、
パパスに遊んでもらった記憶がない。
物心付いたときから、探しものの旅をしている。
そして、その探しものというのが、
伝説の勇者である、ということを
村の人々からちょっと聞いたこともあった。
なんにせよ、パパスが遊んでくれるということは、
カインにはこの上ない喜びであり、
近い将来の、サンタローズでの平穏な日々を思い浮かべながら、
カインは、パパスについてラインハットに向かうのだった。
ラインハット王は、パパスが来るのを待ち望んでいた。
と言うのも、王の長男ヘンリー王子のやんちゃぶりに、
王自身が手を焼いていたので。
自分の子を自分であやせず、
他人に子守を頼むなど、
筋違いにも程があることは、
ラインハット王自身、重々承知していた。
しかし、ラインハット王にも事情があった。
今の王妃は後妻であり、
長男のヘンリーの面倒を全く見なかった。
そして、王妃の実の子、次男デールをよくかわいがった。
その様子から、長男ヘンリーは、
次第にひねくれた言動をするようになり、
城の従者たちにも手を焼かれている存在となっていた。
王は、国の最高権力者でありながら、
妻に息子の養育もさせることができず、
自分でもヘンリーとの溝を埋めることができず、
悩みに悩んで国政に支障が出る段階まで来ていた。
そこで、苦渋の選択として、
近隣の村で屈強な戦士を探し、
パパスへと辿り着いたのだった。
なぜ、子供をあやすのに、
聖母のような女性ではなく、屈強な戦士を選んだのか。
それが、子育てが苦手な王の、考えの及ぶ限りの選択だった。
それと、なにか、事件の匂いがする、と、
国王のカンが言っていたから、でもあった。
「王様、パパス殿がお見えになりました。」
「そうか、皆の者、少し席を外せ。」
ラインハット王は、あまりに個人的な依頼であることに、
臣下の前で堂々と、子守の依頼をすることができなかった。
その空気を感じ取ったパパスもまた、
カインも席を外すように指示するのだった。
カインはパパスから離れ、ラインハット場内を見物する。
入り口付近で、おもしろい物を見つけた。
それは地球儀である。
カインの知っている地球儀と、
ラインハットに置いてある地球儀の形が違うことに、
カインは大いに興味を持った。
なぜなら、ラインハットの地球儀は、球体をしていたので。
パパスから聞いた話でしかないが、
世界は繋がっている、という。
繋がっているが球体ではない、という。
地図の東西は繋がっている。
南北も繋がっている。
東西も南北も繋がっているこの世界は、
いったいどういう形をしていると思う?
以前、カインはパパスからそんな話を聞いたのを思い出した。
カインには、皆目見当も付かなかった。
「ドーナツ型だ。」
パパスは優しく言った。
以来、カインはまだ見ぬ世界はドーナツ型であると信じていた。
だから、この球体の地球儀を目の当たりにしたカインは、
手品に引っかかった子供さながらに、
目をぱちくりさせて驚くのだった。
さて、カインが地球儀に見入っている間に、
ラインハット王とパパスの密談は終わり、
パパスはヘンリー王子の子守を引き受ける。
ところが、王子は、パパスをどうも気に入らない様子。
そこで、子供は子供同士、というわかりやすい理由から、
カインがヘンリー王子と心を通わせようと試みた。
「なんだ?俺の子分になりたいのか?」
ヘンリーの第一声はそれだった。
カインは、ヘンリーの高飛車な態度が気に入らなかったが、
父パパスが受けた依頼だと思うと、
その任務を放棄することなどできなかった。
カインは、なりたくもない子分という肩書きを、
渋々受け入れるのだった。
こちらはラインハット王妃。
王妃には野望があった。
それは、自分の息子である第二王子に王位を継がせる、
というものであった。
そのためには、当然、第一王子のヘンリーの存在が邪魔になる。
そこで企てたのが、ヘンリー王子誘拐計画。
ヘンリーは、自室に隠し階段を持っていて、
ことあるごとに、そこに身を隠して、
大人や子分たちをからかっていた。
今回、王妃が目を付けたのは、まさにこの瞬間だった。
ヘンリー自らが、衛兵の監視下を離れる瞬間。
そこが、最も誘拐しやすい瞬間。
王妃には、パパスが来た時点で、
ヘンリーが、例の隠し階段を使っていたずらをすることが、
目に見えていた。
そこで、以前より機を伺っていた誘拐犯を招き入れ、
計画を遂行したのだった。
カインは、
目を盗んで隠し階段に身を隠したヘンリーを必死に探した。
そして、カインもまた隠し階段の存在に気付くことになった。
カインはヘンリーを追いかけ、
そして、誘拐の現場に遭遇してしまった。
カインは、最初、それが誘拐であるとわからなかった。
ヘンリーの手の込んだいたずらであるとも思った。
いたずらなら・・・、追わなきゃ。
ヘンリーを捕まえないことには、この鬼ごっこは終わらない。
でも、本当に誘拐なら、急いで父さんに知らせなきゃ。
いや、本当に誘拐だとしても、僕自身で解決できるんじゃないか?
カインは、追うか戻るか、
瞬間的には判断ができなかった。
この一瞬の遅れが響き、
カインは、
イカダで逃げる誘拐犯たちに追いつくことができなかった。
誘拐犯を逃してしまった、と気付いたカイン。
急いでパパスのもとへ行き、状況を報告した。
これにはパパスも青ざめた。
パパスは、カインを残して、
慌てて誘拐犯を追い、ラインハット城を後にするのだった。
パパスに置いてけぼりをされる形になったカイン。
カインの頭には、パパスの帰りを待つ、という選択肢はなかった。
カインには、すでに、サンタローズの薬師の救助、
レヌール城のお化け退治、
妖精界への来春と、
次々と壁を乗り越えた自信があったのだから。
パパスを探すことと、ヘンリーを探すことは、
本来意味するところが違う。
ヘンリーを探すのは、救助のため。
パパスを探すのは、自分もパパスの力になりたいから。
そして、今回の場合、パパスとは合流せずに、
二手に分かれてヘンリーを探すことが正しい、
と、カインは思った。
だから、パパスは自分を置いていったのだとカインは考えていた。
カインは、パパスの行動の意味するところを懸命に察した。
そして、パパスの行動は、カインにこう言っているのだと気付いた。
突発的な危険はこの父が引き受ける、
お前は町で情報を得ながら、
安全に、確実に行動しなさい、と。
そしてカインは、ラインハット城下町での情報を基に、
怪しげな遺跡を発見するに至った。
パパスがすでにここを訪れているかどうかはわからないけど、
ヘンリーをさらった誘拐犯のアジトはここだと、
カインは確信を持った。
そして、カインは、
ゲレゲレを引き連れ、遺跡へと足を踏み入れるのだった。
カイン:レベル11、プレイ時間3時間1分

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