心理的にもスタンバイができている、
アリーナ、クリフト、マーニャ、ミネアとメンバーを入れ替え、
いざ、バルザックを倒さんと、サントハイム城へと乗り込む。
バルザックは、依然としてサントハイム王の王座に着いていたが、
アリーナもクリフトも、二度の愚を犯すこともなく、
怒りは内面に秘め、冷静に戦いを挑む。
マーニャはサントハイム領を旅しながら、
対バルザック用の攻撃呪文として、メラミを編み出していた。
これで、バルザックを火だるまにしてやる。
そうマーニャは思っていたのだった。
一方ミネアは、メンバーの回復をすること以外、頭になかった。
魔法力が尽きるまで、仲間を回復し続けるつもりでいた。
私が回復をして、姉さんのメラミでバルザックの息の根を止める。
それが、
ミネアが思い描くバルザックとの再戦のストーリーであった。
戦闘に突入すると、ミネアが思い描いた通りに戦局が進んだ。
それは、本人が意識することもなかったが、
占い師としての才覚を遺憾なく発揮してのことだった。
そして、マーニャの怒りの炎が、バルザックを焼きつくし、
バルザックは倒れ、動かなくなった。
バルザックにトドメを刺した炎の呪文を唱えたとき、
マーニャにはいろいろな思いがあった。
父エドガンを殺された怒り、
一旦バルザックを追い詰めるも、キングレオに邪魔された怒り、
キングレオに叩きのめされ、オーリンと生き別れ、
失意の中、エンドールへと船を進めたときの屈辱、
来る日も来る日もカジノで負け続けた惨敗感、
仲間を得て、キングレオに再戦するも、
キングレオよりも先に意識を失うという失態、
究極の進化を遂げたバルザックに一度は叩きのめされた悔しさ。
圧縮された気持ちが、マーニャの炎に乗り移り、
バルザックは、それに耐えられなかった。
カジノでの負け分までの怒りを込められたバルザックは、
ある意味不運だった。
マーニャもミネアも意識を持ちながら、
誰も倒れることなく、遂に宿敵バルザックを討つことができた。
マーニャもミネアも自然と涙を流していた。
父さん、遂に仇を討ったよ。
憎きバルザックを沈めることができたよ。
そして、姉妹は、長旅の目的を達成し、
燃え尽きるのだった。
燃え尽き症候群になった姉妹には、
その後の出来事は、もはや記憶になかった。
姉妹の記憶にはなかったが、
アリーナとクリフトはしっかりと覚えていた。
倒れたバルザックの周りに3体の魔物が現れ、
意味深な言葉を残して去っていった。
「このことはデスピサロ様に報告しなければ。」
「やはり進化の秘法は不完全だった。完全なものにするためには、黄金の腕輪が必要だ。」
「黄金の腕輪が手に入れば、闇の種族が世界を制覇することになるだろう。」
アリーナに、苦い思い出が蘇ってきた。
もちろん、黄金の腕輪についての一連の思い出。
災いをもたらすものと知っておきながら、
身代金誘拐犯に渡してしまったこと。
ある意味幸いだったのは、
まだ、黄金の腕輪が、魔物の手に渡っていないということだった。
3体の魔物の発言からは、そういう風に受け止められる。
黄金の腕輪についての失態をカインに知られたくないアリーナ。
アリーナにとって都合がいいことに、
モンバーバラの姉妹は、燃え尽きて、今の話を聞いていそうにない。
アリーナは、ちょっと提案をしようとした。
「ねぇ、クリフト。相談があるんだけど。」
「姫様、それはダメです。このことはカイン殿に伝えねばなりません。」
クリフトには、アリーナの魂胆が丸見えであった。
ところで、クリフトは気になったことがあった。
キングレオを倒した時、
キングレオは魔物としての記憶を失い、王子の姿を取り戻していた。
だから、進化の秘法たるもの、
憑かれた魔性を倒せば、
人間としての命は取り止められるものと思っていた。
ところが、バルザックに至っては、
人間としての命をも失ったようである。
これは、キングレオとバルザックの両方の死に目を見た、
唯一クリフトにしかわからないことであった。
このことをどう考えるか、
クリフトの見解はこうであった。
進化の秘法にも段階があり、
キングレオは浅い段階の進化しか適用していなかったのだろう。
だから、魔物としての能力を失った場合、
人間としての命は残る、ということだというのがクリフトの理解。
クリフトには、詳しくはわからなかったが、
姉妹の話を聞くと、
バルザックは、2段階の進化を遂げたかもしれなくて、
進化の段階が、キングレオよりも大きいのかもしれない。
そうクリフトは結論付けるのだった。
さて、魔城と化したサントハイムの宝物庫には、
「あやかしの笛」と「マグマの杖」というものが保管されていた。
どちらも、何に使うか、まったく見当がつかない。
とりあえず、「あやかしの笛」はアリーナが、
「マグマの杖」はミネアが持っておくことにした。
燃え尽きたミネアをもう一度熱くさせてあげよう、という、
アリーナの計らいだった。
難敵バルザックを倒した一同であるが、
今後、デスピサロにどう近付くか、
地獄の帝王について、どう調査するか、
少し考えることになった。
そんな矢先、アリーナが、
サランの町に、父サントハイム王の元教育係を務めていた老人が、
住んでいることを思い出して、会いに行った。
そして、その老人は、重要な発言をした。
歴代のサントハイム王には、未来を知る力があり、
アリーナの父は、幼少の頃からその力を発揮し、
まだ存在していないはずの娘を心配して、
サランの町の片隅に立て札を残したという。
立て札には、
「みらいのボクの娘へ。お空のずっと上には天空のお城があって、竜の神様が住んでるんだって。竜の神様は、大昔、地獄の帝王を封じ込めたくらいなんだ。北の海のスタンシアラの人々が詳しいと思うよ。サントハイムの王さまより。」
と、書いてあった。
これを見たアリーナは、これからの進路を示してくれた父に感謝し、
「ありがとうお父様。・・・ありがとう。」
と、涙を浮かべるのだった。
そして、同時にこうもつぶやいたのだった。
「子供の頃は、字が書けたのかしら?」
さてさて、
次の目的地は北海のスタンシアラ。
燃え尽きているマーニャとミネアを馬車に引っ込め、
満を持して、2軍がネネポポ号の舵を取る。
2軍、とは、カイン、ブライ、
そして、謹慎の解けたライアンとトルネコである。
スタンシアラは海と水と水路の城下町だった。
道はなく、イカダを使って水路を移動する町である。
そして、スタンシアラ城では、「翼人伝」という話が伝わっており、
天空の兜が奉られていた。
翼人伝とは、
スタンシアラに流れ着いた傷を負った人間を助けたところ、
その人間から羽が生えて天に昇って行ったという伝承である。
その際に、白く輝く兜を残していったと言われている。
この兜が、「天空の兜」と呼ばれるものである。
この国の学者の話では、
天空の兜、鎧、盾、剣を持つ者は、天空に昇れるそうであるが、
この国には兜しか伝わっていない、ということだった。
この話を聞いたとき、
トルネコは俄然やる気を見せた。
何せ、トルネコが旅を続けている目的は、
「天空の剣」であるわけだから、
天空の装備のひとつがここにあるとなると、
それは、なにがなんでも手に入れたいと思うのも当然であった。
この国に限ったことではないが、
地獄の帝王の復活の噂は日に日に広がっていて、
人々の心はすさんでいった。
スタンシアラでは、神に仕える神父までもが、
酒に溺れるという状況にまでなっていた。
スタンシアラ王は、なんとかこの状況を変えたいと考えていた。
そして、人々に笑いを思い出してほしいとの願いから、
お笑い芸人を求めていた。
もし、王を笑わせることができるならば、
天空の兜を譲る、という御触れさえ出ていた。
この御触れに、俄然やる気のトルネコは果敢に挑戦した。
普段遊んでばかりいるトルネコだったが、
別に、ネタを持っているわけではない。
だから、笑わせよ、と言われたところで、
特段、披露する技はなかった。
が、ちょっとテンションが上がっているトルネコは、
大いに張り切り、
「スタタタンシャラー!!」と、
声に合わせて軽快に足踏みした後、
両手を右に、右足を左に、決めのポーズをとった。
そして、どや顔で、王をチラリと見た。
あまりにも意味のない一発芸に、
逆にカインは吹き出してしまった。
ダジャレを言うと思っていたのに、
アクションで笑いをとりに行こうとしたのにも意表を突かれた。
トルネコの足さばきが身軽だったのも、
やる気のないトルネコがテンション高かったのも、
カインにしてみたら、意表を突かれてばかりだった。
が、もちろん、吹き出したのはカインだけで、
王様には全く評価されず、
「出直してまいれ。」
と言われるに至る。
王座を後にしながら、ションボリ顔のトルネコを見て、
また吹き出しそうなカイン。
もしかして、今のって自信あったってこと?と思って。
がしかし、今にも笑いそうな顔を引き締め直して、
カインは次の作戦を考えるのだった。
最近会ったおもしろい人と言えば・・・、
と考えながら、カインはオーリンを思い出した。
「臣下の進化」で、カインを笑わせしめた錬金術師である。
しかし、オーリンは、大怪我をして動けない状態にある。
一方、モンバーバラではパノンが活躍している。
「おはなし!」を得意ネタとしているお笑い芸人である。
しかし、モンバーバラ劇場も、
今やパノンが経営を支えている状態であり、
果たして、劇団の団長が、パノンを貸してくれるのか、
それは定かではない。
さらに別の方法として、トルネコにネタを磨かせるほうがいいのか、
ということも考えておいたほうがいいかもしれない。
テンションが上がっている今なら、
腹芸などもやるかもしれない。
とりあえず、オーリンを訪ねてダメだったらパノン、
パノンを訪ねてダメだったらトルネコの腹芸、
という順番で、
スタンシアラ王を笑わせる腹積もりをするカインであった。
ところで、このスタンシアラ城下町では、
夜になると神父が酒場に行ってしまう代わりに、
ベホマスライムのベホマンが教会を支えていた。
傷ついて、教会に辿り着いた旅人を癒しているのである。
これを見て、ライアンは、
また昔の戦友を思い出していた。
このモンスターも、お主と同じく人間になれるのでござろうか。
戦友を懐かしむライアンとは裏腹に、
モンスターを退治しようとするブライ。
それをなだめるライアン。
腹芸の相談をするカインとトルネコ。
そして、スタンシアラの夜は更けていった。
カイン:レベル20、プレイ時間16時間22分

にほんブログ村