だが、やはり「狭間」の影響で、
時間が少し巻き戻り、
デスタムーアがまた復活した模様。
これを知って、カインはデスタムーアを哀れんだ。
なんと、哀れなデスタムーアだろう。
自分が生み出した「狭間」のせいで、
何度でも何度でも息絶える苦しみを味わわねばならないとは。
もちろん、
デスタムーア自身、その苦しみはよくわかっていたはずである。
なぜならば、
人間同士でその苦しみを味わわせようとしていたぐらいであり、
知らぬはずは無い。
しかし、よもや、それが自分に襲い掛かってくるとは、
思いもよらないことだっただろう。
自業自得ではあるが、カインにはそれが哀れでならなかった。
カインは、この哀れなデスタムーアをも救うことはできないかと、
考えを巡らせていた。
さて、それとは別に、
カインは、叶わぬターニアとの幸せな生活を諦め、
小説家への夢1本に絞り込んでいた。
そして、今回、またそのことを確認するために、
すれ違いの館を訪れた。
今まで気付かなかったのであるが、
このすれ違いの館には裏庭があり、
この裏庭で、はぐりんというはぐれメタルを仲間にした。
はぐりんには、奇妙な魅力があり、
つい、斬りかかりたくなるカインたち。
もちろん、そんな衝動を実行に移すカインではない。
今やはぐりんは仲間であり、
ラミアスの剣ではぐれメタルを斬りつけることは、
サリィとの約束にも反している。
カインは、仲間たちの衝動を制止し、
はぐりんにはルイーダを案内する。
ルイーダに着いて、はぐりんが酒場に入ると、
ホイミンがこう言う。
空飛ぶベッドは、もう楽しむことができたし、
ルイーダのほうが仲間が多くて楽しそう、と。
カインは、その望みを聞き、ホイミンはルイーダへと下がった。
そして、導かれし8匹のスライムが揃った。ルイーダに。
揃ったからといって、別に何か起こったりはしない。
ただ、アモスの様子がおかしい。
アモスの様子を見たチャモロがこう言う。
「モンスターばかりに囲まれて、魔性を取り戻しつつあるのかも知れません。ここは、ひとつ私もルイーダでアモスさんに付き合いますよ。アモスさんとは出身が近いことですしね。」
パーティーを離れる発言をするチャモロに対し、
カインは、
「いや。」
と言った。
最初、チャモロは、
自分がパーティーを抜けることを反対されているのかと思ったが、
カインの考えは、どうやら逆であった。
「みんな聞いてくれるかい。」
と、カイン。
「今まで、みんなの協力があって、大魔王を倒すことができたし、悪魔を従えることができたし、平和を取り戻すことができた。でも、僕が本当に勇者なら、狭間のせいで何度も苦しめられる哀れなデスタムーアにも、最後の安息を与える必要があると思うんだ。つまり、僕だけでデスタムーアを倒し、この長い狭間にも決着をつける。それが、僕の最後の使命だと思うんだ。」
「わかったぜ、カイン。その心意気を買って、俺もルイーダに引っ込むことにするぜ。決着をつけて来い、カイン。」
「私たちの長い旅は終わったわ。あとは、あなた自身の考えを実践するだけね。私もルイーダに下がるわ。」
「フン。格好つけやがって。けど、姉さんがそうするならオレもルイーダで待つことにするさ。」
「カイン。最後の男気。ドランゴもルイーダで待つ。」
そして、
ハッサン、ミレーユ、チャモロ、テリー、ドランゴ、ホイミン、
彼らの冒険も幕を閉じた。
一方で、カインは、
導かれしスライムたちで、スライム遊撃隊を結成した。
そのリーダーは、もちろん最強のスライムであるピエール。
カインは言う。
「ピエール、僕にもしものことがあったら、このお城の護衛のことを頼む。スライム遊撃隊の隊長として、スライムたちを指揮し、今後もこの城に仕えて欲しい。」
「不吉なことを言わないでくだされ。しかし、遊撃隊の件はしかと引き受けたでござる。このレイドックの護衛は我々にお任せあれ。」
そんな中、バーバラだけは、ルイーダへは残らないという意思を
頑なに示した。
そして、
「私は・・・、私はついていくよ。どうしても、大魔王の最期を見届けたいから。」
と、ただ一人、カインとの同行を申し出た。
「そうか。わかった。ただし、サシの勝負に手出しは無用だよ。」
「うん。でも、敵が複数だったら援護させてね。」
こうして、カインは、馬車から見守るバーバラとともに、
デスタムーアと最後の対面へと向かった。
カインが最後の決戦へ向かっているまさにそのとき、
デスタムーアは後悔していた。
自分が作り上げた狭間のせいで、
こんなにも苦しい思いをさせられるとは・・・。
息絶える苦しみを何度でも味わわせられるとは。
いや、しかしそれは奴らも同じであるはず。
ムドーらから、何度か報告を受けたことがある。
レイドックの王子を仕留めました、と。
しかし、息の根を止められて、なお再びムドーに挑み、
そして、ムドーを打ち倒しておる。
奴らも、狭間とは違う何らかの力で、
死しても朽ち果てない体を手にしているはずじゃ。
では、奴らとワシとで何が違うのか。
デスタムーアは考え込んだ。
そうじゃ、奴らは回復ができるんじゃ。
そう考えて、
いや、それならワシもできる、
と思い直した。
奴らは、補助呪文を無効化できるが、ワシもできる。
激しい攻撃ができるのも、攻撃手段が豊富なのも同じ。
奴らには仲間がおるが、ワシにも部下がおった。
そして、ある答えにたどり着いた。
「伸び代」か。
奴らは、まだ成長する可能性を秘めていて、
それが奴らの心を支えておるのじゃ。
それに比べて、ワシはすでに成長しきっておる。
むしろ、徐々に衰退してすらおる。
その考えに行き着いたときに、
デスタムーアは、もう観念するしかないことを悟った。
そんな折だった。
カインが、ただ一人で現れたのは。
バカな!?
とデスタムーアは驚いた。
たった一人でワシに挑む気か?
カインは言う。
「デスタムーア、サシで勝負だ。これで最後にしよう。ただ、そっちが複数で来るなら、こっちも仲間に援護してもらう。」
「何を寝ぼけたことを。」
と、デスタムーア。
「その傲慢さを後悔するがいい。」
デスタムーアは、
まさかサシの勝負を挑まれるとは思いもよらなかった。
そこまで、この大魔王を見くびられているとは、
全くの想定外であった。
そして、よもやあの台詞を言うことになるとは思ってもみなかった。
だが、結局はお決まりの台詞を口にすることになった。
「なぜこんな虫ケラどもに・・・。」
虫ケラ“ども”か・・・。
カインは、ほぼ自分ひとりで倒したのであるが、
大魔王は、個人に倒されたよりも、
複数人に倒されたことにしたほうが死に際に満足すると見える。
カインはデスタムーアのプライドを暖かく見届けることにした。
そして、ついに、自分の挑戦にピリオドを打つことができた。
滅び行く狭間の世界から、
ファルシオンとバーバラとともに脱出するカイン。
脱出したカインは、夢のゼニス王のもとへと赴いた。
ルイーダにいたはずの、
ハッサン、ミレーユ、チャモロ、テリーは、
先にクラウド城で待っていた。
そして、一同は平和になった世界を飛び回った。
特に何もしていない4人だったが、
大魔王討伐からの凱旋では、
さも自分がやったような顔で各地を練り歩いた。
それを見たカインは、
まぁ、確かに彼らのおかげでここまでこれたのは事実であるし、
このくらいは多めに見るか、
と、そういう気持ちで、仲間と共に練り歩きを楽しんだ。
夢の世界が消えるとき、ターニアが言う。
「カイン兄ちゃん。ターニアのこと忘れないでね。」
もちろんだ、ターニア。
君は最高の妹だ。
絶対に忘れたりしない。
カインはまた泣いていた。
そして、夢の世界は消え去った。
現実世界のレイドックでは、平和記念の宴が開かれている。
現実には現実のターニアが待っている。
そして、こう言う。
「カイン兄ちゃ・・・、カイン王子様?」
カインは答える。
「いいえ。」
王子であることなんて関係ない。
僕とターニアは、いつでも、いつまでも兄と妹だ。
僕はレイドックに留まるけど、
またライフコッドに遊びに行くよ。
だから、これからも「カイン兄ちゃん」と呼んでくれるかい?
「カイン兄ちゃん、だ~い好き!」
ターニアへの思いは、その都度変わっていったカインであったが、
「カイン兄ちゃん」という響きには心地良いものを感じていた。
ランドと幸せになっておくれ、ターニア。
そう強く願うカインであった。
宴の最中、レイドック城を見回るカイン。
スライム遊撃隊の隊長ピエールはしっかりと見張りをしているが、
はぐりんは何かあるとすぐに逃げ出すし、
マリリンは相変わらず殻に閉じこもりっぱなしだし、
ちょっと心配になったカイン。
ピエール、君は隊長なんだから、
見張りなんかしてないで、部下の教育や指導をする立場だ。
これからは、そういった勉強をしていこうか。
「面目ない。精進するでござる。」
そして、消え行くバーバラと話す。
「そろそろ時間が来たみたい。」
うん。さよならだ、バーバラ。
今までありがとう。
カインは、バーバラの姿が完全に見えなくなっても、
いつまでも、ずっとその空間を見つめ続けるのだった。
キャスト
カイン(レベル46、レイドック王子)
魔物マスター★8、盗賊★8、商人★8、僧侶★7、
レンジャー★8、勇者★8
村のお使いを頼まれたことから始まった冒険が、
やがて自分を取り戻す旅へとなり、
勇者として大魔王を倒し、世界に平和を導いた。
ハッサン(レベル46、大工の息子)
戦士★8、武闘家★8、僧侶★8、
バトルマスター★8、パラディン★8
大工家業よりも戦士を目指して上京、
記憶を取り戻して後もカインを支え、
カインの目的を達成するために尽力した。
ミレーユ(レベル45、テリーの姉)
武闘家★8、僧侶★8、踊り子★8、遊び人★8、
パラディン★8、スーパースター★8、ドラゴン★4
カインとハッサンを導き、
世界の理を探りながら、生き別れの弟を探し、
世界の平和のために力を注いだ。
バーバラ(レベル45、カルベローナの子)
戦士★8、魔法使い★8、僧侶★8、
魔法戦士★8、賢者★8、ドラゴン★7
族長ブボールの遺志を引き継ぎ、
大魔女として覚醒、
世界を平和に導いた。
チャモロ(レベル45、ゲント族)
戦士★8、魔法使い★8、僧侶★8、
魔法戦士★8、賢者★8、ドラゴン★7
ゲントの定めに従い、混沌を駆除することに尽力した。
アモス(レベル31、町の英雄)
戦士★7、踊り子★8、遊び人★8、
スーパースター★8
夢遊病を治してくれた恩人のカインに付き従い、
場を和ませる役割を果たした。
以後、ルイーダの酒場でも、その性格を活かして場を盛り上げた。
ピエール(レベル40、スライムナイト)
僧侶★8、武闘家★5
主君に仕えるために旅を続け、カインを見込んで仕える、
最強のスライムの称号を得、スライム遊撃隊の隊長を務めた。
ぶちすけ(レベル14、ぶちスライム)
ルイーダの酒場で楽しんでいたという。
テリー(レベル45、さすらいの剣士)
戦士★8、武闘家★8、
バトルマスター★8、はぐれメタル★8
不幸な生い立ちから、力を求めすぎるあまり悪に手を染めるが、
姉、ミレーユの説得によりカインに同行し、
さらなる腕磨きに努めた。
ドランゴ(レベル40、バトルレックス)
ドラゴン★8
自分を倒したテリーを見込んでカイン一同と合流し、
その類稀なる能力を活かして、悪を滅ぼす手助けをした。
ホイミン(レベル37、ホイミスライム)
ドラゴン★8
自分の夢を追って空飛ぶベッドに憧れ、
カインに同行し、主に仲間の回復を務めた。
ルーキー(レベル20、スライム)
スラッジ氏が音を上げる弱小スライムで、
カインにも音を上げられ、ルイーダで楽しい日々を過ごした。
キングス(レベル3、キングスライム)
オシャレなミレーユに憧れてカインに同行しようとしたが、
酒場を紹介され、オシャレスライムのピエールに付き従った。
ベホマン(レベル4、ベホマスライム)
マリリンを探している途中でカインと合流し、
共にマリリンを探した。
後にルイーダで楽しい日々を過ごす。
マリリン(レベル3、マリンスライム)
ベホマンと会いたいのに殻に閉じこもるという自分を嘆くが、
ベホマンの必死の探索に感銘を受け、
以後、カインと同行し、ルイーダで細々と殻に閉じこもった。
はぐりん(レベル1、はぐれメタル)
逃げ回ってばかりいるところを挟み撃ちで捕獲され、
なぜかカインになついてしまったため、同行した。
ルイーダで、うろちょろする日々を送った。
平和な日々をしばらく過ごし、
久しぶりに旧友と会うことになったカイン。
ハッサン、チャモロ、テリーと共に、
夢占い師ミレーユの館を訪れる。
そして、ミレーユの水晶の中に映るバーバラ。
天空のクラウド城で、バーバラが孵したものは、
未来が込められた卵であった。
その未来は、また別の物語である。
伝説は、ここから始まった。
To be continued to ドラゴンクエストⅣ
さて、
ターニアとの夢を叶えられなかったカイン。
小説家になって冒険日記を書くという夢は叶ったのか?
それは・・・、みなさんご存知のとおり。
完
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