アンチクライスト | 人力飛行少年の肉体を脱ぎ捨てたなら

人力飛行少年の肉体を脱ぎ捨てたなら

ネットの海を漂う吟遊詩人になって
見知らぬあなたに愛を吟じよう

人力飛行少年の肉体を脱ぎ捨てたなら

監督・脚本 ラース・フォン・トリアー
撮影 アンソニー・ドッド・マントル
編集 アサ・モスベルグ、アナス・レフン
出演 ウィレム・デフォー、シャルロット・ゲンズブール
2009年 デンマーク/ドイツ/フランス/スウェーデン/イタリア/ポーランド

幼い息子を不注意で転落死させてしまった女(シャルロット・
ゲンズブール)が、心の中に潜む悪魔的な物(アンチクライスト)に
対する恐怖によって、悲嘆から絶望の淵へと堕ちて行き、やがて精神が
崩壊していく様を描いた作品で、女が自らの女性器をハサミで切除
したり、夫(ウィレム・デフォー)の足首にハンドドリルで穴を開けて、
砥石をボルト止めする場面等日本では暈かし無しでは見られない
過激な性と暴力描写が続くので、ホラー映画を観ている様な
緊張感を強いられます。

本作は、人間の理性が及ばない自然に対する恐怖を、悪魔の教会に
喩えて描かれていますが、森の中で呆然と立ち尽くす男の周りに、
多くの女性が湧き出てくるように溢れかえるラストシーンを見ると、
『奇跡の海』や『ダンサー・イン・ザ・ダーク』等不幸な女性を主人公に
描き続けて、ミソジニスト(女性嫌悪者)と非難されているラース・フォン・
トリアー監督が、あきらかに、自然と同じ畏怖を、女性の中に潜む
アンチクライストな部分に感じていることが分かります。
自ら無神論者と公言している監督ですが、女の『肉欲』に対して贖罪を与え、
夫婦をアダムとイブに喩えて人間の原罪に迫っているように、
キリスト教的な世界観に基づいて作られた作品と言えるでしょう。

夫婦が性交中に、子供が窓から転落死するプロローグの場面を代表するように、
スローモーション撮影等の映像テクニックを使った、
絵画的で詩的な映像は、従来のトリアー監督作品には無かったもので、
賛否が分かれるところですが、少なくともプロローグの映像は、
映画の世界に引き込ませるに十分なインパクトを持っており、
最近では、屈指の名場面として記憶されていくことでしょう。


「アンチクライスト プロローグ」



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