私を離さないで | 人力飛行少年の肉体を脱ぎ捨てたなら

人力飛行少年の肉体を脱ぎ捨てたなら

ネットの海を漂う吟遊詩人になって
見知らぬあなたに愛を吟じよう

人力飛行少年の肉体を脱ぎ捨てたなら
監督 マーク・ロマネク
原作 カズオ・イシグロ
脚本 アレックス・ガーランド
音楽 レイチェル・ポートマン
撮影 アダム・キンメル
出演 キャリー・マリガン、アンドリュー・ガーフィールド、
   キーラ・ナイトレイ
2010年 イギリス

長崎県で生まれて、22歳の時にイギリスに帰化したカズオ・イシグロの
長編小説「Never Let Me Go」が映画化されました。
村上春樹がエッセイで、この小説を褒めていましたが、
元々、本作のタイトルは、親交のある村上春樹からプレゼントされた、
ジャズのCDに収められていた、同タイトルのスタンダードナンバーから
付けられていて、映画では、主人公のキャシーがベッドの上で枕を抱きしめて、
思いを寄せるトミーとの恋を、目を閉ざして夢想しながら、
ジュディ・ブリッジウォーターが歌う同曲を聴き入っている場面で
使われています。
主人公のキャシー、ルース、トミーの3人は、
外界から隔てられた寄宿学校「ヘールシャム」で学びますが、
この学校に在籍する生徒全員が、臓器提供のために生まれたクローン人間で、
若くて健康な間に、命を奪われてしまう運命にあるという設定です。
読み進んで行くうちに真実が明かされていくミステリー仕立ての原作と違って、
映画では、早い段階で、彼らの運命を観客に知らせることで、
死と向き合って生きることの意味に、ダイレクトに問いかけた作品になっています。
本作の主人公たちは、『ブレードランナー』に登場するレプリカントを
思い起こさせます。
本作の主人公たちが、逃げ出さずに、おとなしく自分の運命を受け入れているのに対して、
寿命4年と知ったレプリカントたちは、奴隷として従事していた宇宙開発現場から
逃亡して、開発者の博士を尋ねて、長生きできるように懇願します。
このように、主人公たちがレプリカントのように生きるために積極的にならない事に対して、
疑問を抱く読者が多いのですが、作者は、『我々は大きな視点を持って、常に反乱し、
現状から脱出する勇気を持った状態で生きていません。私の世界観は、
人はたとえ苦痛であったり、悲惨であったり、あるいは自由でなくても、
小さな狭い運命の中に生まれてきて、それを受け入れるというものです。
みんな奮闘し、頑張り、夢や希望をこの小さくて狭いところに、
絞り込もうとするのです。そういうことが、システムを破壊して反乱する人よりも、
私の興味をずっとそそってきました。』と答えているように、
映画に喩えれば、ハリウッド的なアクションを見世物にした作品には、
したくなかったのでしょう。

私もそろそろ、死に対する準備を始めなければならない年代になろうとしていますが、
まだ、自分の存在から目を逸らして命と対峙できずにいるのは、
生きることの意味を理解できていないという事なのでしょう。





私を離さないで、
愛しすぎるほど愛して。
あなたに捨てられたら、
生きている実感はなくなる。
あなたなしでは、どうしようもない。
私の居場所はどこにもなくなる。

私を捨てないで、
あなたがいなくなれば、
途方に暮れる。
一日が千時間にも思えて、
どうしていいか判らなくなるに決まってる。

たった一度の抱擁で、
私の人生はすっかり変わった。
最初から恋の炎が燃え盛り、
もう元には戻れない。

私を捨てたりしないよね。
ボロボロに傷つけたりしないよね。
どうか私を離さないで。
出典:INTERLUDE by 寺井珠重ブログ



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